~仕事~
魔法の訓練を一通り終えた俺達はそのまま厨房に向かった。その理由は一つしかない。この城で俺のやりたいことを行うためである。
「一月でどれくらいの食費を使っているんだ?」
「そうだな。それを答える前にお前の言っている一月とこの世界の一月と言うのは少し違うのかもしれない」
そしてシリルが説明を始めた。地球では365日。これが一年というものだ。だが、こっちの世界では月が赤くなる時がある。それは一定周期で。そして赤い月の日を1日と考えて最終日は45日。そして月が赤くなる以外にも他の色になる時がある。金色になるとの事。それが示す事が新年を迎えるとのこと。金色も一定周期で現れるとのことでそれは、赤い月が10回出る時。その時は何故だか赤色にはならずに金色になるみたいだ。つまり一年は450日ということか。長いな。人間の寿命。90歳ぐらいだったはずだ。
365日×90=32850日。この日数はこっちの年数で例えるとなると73年。だとすると俺はあと50年ぐらいしか生きることが出来ないのか。まぁまだ先は長い。
「誕生日ってのは一応あるんだろ? シリルはいつなんだ?」
「私はエルメスの月の36日だ。雅彦は……いや、なんでもない」
エルメスの月と言うのは8月ということになる。
そしてシリルは世界の日数の異なる俺の誕生日を聞いたが、ちゃんとした答えが返ってこないことを察したのか、彼女は俯いてしまった。
別に俺はそこまで気にしていないのだけど。たかが誕生日なのだ。その日に産まれたということを生涯知り続けるというだけなのだと思う。まぁ祝ってくれるのは嬉しいけれども。
「そうだな。それじゃ俺の誕生日はエイジャの月の16日にしようかな。この世界に辿り着いた日。それが俺の誕生日ってことで良いか?」
その言葉を聞いたシリルは満面の笑みで頷いてくれた。
ちなみにエイジャは6月である。
「……話がそれたな。一月の食費は金貨19枚だ。だが、昨日の言ったよう食べ物を腐らせてしまうことがあったからいくらかは削減できると思うが」
「誰が、管理をするか。なんだろ?」
金貨19枚。つまりは152万。かなりの額だな。そもそもこの城の収入源は一体何なのだろう。なにか働かなければ金を得ることは出来ない。金が得られないならば食べていけないのだ。では一体どんな仕事をしているのだろうか?
「まぁ誰かが管理をしてくれれば助かるのだがな。生憎、頼めるのは雅彦しかいないのが現状だ。雅彦なら引き受けてくれるとは思っている。だが、雅彦達の店が完成した後の事も考えなくてはいけないのだ」
「だったら、ここで新しい奴を育てれば良いんだ。1年もここにいるんだ。だからまぁ厨房に付きっきりになれる人を4人ぐらい欲しいな。4人もいれば俺達が居なくなっても頑張ってくれるだろうし」
俺達がここにいることが出来るのは1年とう期間限定なのだ。たまに帰ってくることはあるかもしれないけれども、過ごせても丸々一日ぐらいだろう。だから俺達が出来ることをなるべく厨房係の人を管理して教育することだと俺は思う。
そうすればあんなに汚い厨房になることもないし、食費を押さえることが出来るだろう。
「雅彦。お前はどんどん成長していくんだな。初めて会った時はあんなに頼りなかったのに。今じゃ私が置いていかれているような気がするほど成長した」
「そうか? まぁ俺はお前の横に入れるだけで良いさ。俺はお前の夫だからな。」
俺がこうしていられているのも、すべてはシリルがいるからである。感謝するのは俺のほうだ。急に現れた俺を受け入れてくれたんだ。
「それじゃあ私は新しい厨房係を見つけ出してみる」
そう言ってシリルは俺の手を掴んでいた手を離して先に行ってしまう。荒れ地で取り残される俺。もう少しここで魔法の訓練でもしようか? いや、俺も城の中に戻るとしよう。シリルが新しく連れて来てくれるまでの間は俺とココが厨房で一生懸命働くとしよう。では俺はさっさとココを探して厨房に向かうとしよう。
ココにあてがわれた部屋に彼女はいた。
「ココ。今日から俺達はこの城で働くが良いか?」
「はい。大丈夫です。私がここにいるためには働くしかないですし。それに私もこの1年を使って進歩しなくちゃいけないんで」
この1年間。腕を鈍らせるのには十分すぎるほどの時間。その時間で人はいくらでも進歩出来るし、退化もできる。
俺は雇われの料理人だし、いずれかはココに彼氏でも出来るだろう。そうしたら俺はクールに去るぜ。という感じでこの城に戻るなり新しいところに店を構えるなりをすればいいだろう。
「それじゃあ早速仕事をしよう。今日は冷蔵庫の中にあるものでも使って皆の食事を作ることにしよう」
俺らは厨房に向かった。冷蔵庫にはこの昨日と変わらない在庫。そして急遽作った冷凍庫に置いてあるソーセージ。
今日は野菜と昨日作ったソーセージを組み合わせて色々な物を作るとしよう。
まずは野菜を食べやすい大きさにカット。そこに鶏の骨で取った出汁で煮込む。ソーセージも食べやすい大きさに切って煮込む。簡易ポトフの出来上がりだ。
だが、料理の工程はそこまで難しくないのだが、それを作る量が多すぎるのだ。ここの兵士が95人ぐらいいるらしいし、その兵士の一人前が普通の人が食べる一人前ではないだろうと簡単に想像がつく。ざっと200人分作らなければ足りないだろう。
しかし200人分の料理。そんなものなど簡単に作れるほどの能力を俺は手に入れたのだ。もう怖いものなどあまりない。という感じだ。
重いものを持っても壊れることがないように一本の糸をなるべく太くし、その太い糸を何本も駆使してスープの入った寸胴鍋を運ぶ。それも一つではなく、23個だ。
「ま、雅彦さん。鍋が宙に浮いているんですけど。なにかの怪奇現象ですか!?」
「あ、いや。これは俺の魔法なんだ」
つい不可視の魔法をかけたまま。というか、最初から無色の糸をイメージしたままだったから色をつけるのを忘れていた。なのでまぁ分かりやすいように赤い色の糸をイメージする。すると透明だった糸は赤くなる。
「わぁ。雅彦さん。こんな魔法を使えるんですね」
まぁ思いついたのは今日なのだけれども。そこは秘密にしておいてもいいだろう。男の見栄というものだ。
「あぁ。これで人手が足りないってことはなくなる。まぁその分、魔力をたくさん使うけれども、それは自分達で働いて補えば大丈夫だ」
まぁ魔法を使うのは一人で運ぶのが厳しいものを動かしたりする時だったりにしよう。まぁ魔力の枯渇はないと思うけど。
「そうですね。魔法に頼っているばかりじゃ腕が鈍ってしまいますしね」
確かにココの言うとおりだ。魔法に頼り過ぎるのもあまり宜しくないのかもしれない。現代の人間達が機械に頼り過ぎている所為か、その機械の原理を良く知りもしないで使っている人が多数いる。俺もそのうちの一人なのだが。
「そんじゃ後は主食だ。いくらなんでもポトフだけじゃ腹は満ちないだろう」
主食として考えられるのは何だろうか? 洋食だからパスタとかパンか? でも俺個人の意見なのだが、パンとかパスタってどうも腹の足しにならないというか、エネルギーになりにくいんだよなぁ。
という俺の勝手な個人的意見で主食を決めた。
まず米をとぐ。米をといだらそのままで。その後にアサリ、イカ、などの魚介類、鶏肉、野菜を小さく刻む。そして具材をバターで炒める。野菜に一通り火が通ったら米も一緒に炒める。米が透き通るまで炒めたら、ポトフの汁を少し拝借する。その量は米と同じ量。そしてその汁で米を炊き上げる。簡易ピラフの完成だ。
ココの親父さんのレシピには載っていなかったので、まだこっちの世界では流通している食べ物ではないみたいだ。ポトフもピラフも。
この世界の住民は一体どのようなものを毎日口にしているのだろうか? あの街を出る前に皆で食べたところはかなり評判の良い。そして高単価の店だったからあんなものを毎日食べているわけではないだろう。そこらへんも少し調べた方が良いかもしれない。
「雅彦さんが作る料理はいつ見ても美味しそうですね」
「そう言ってくれると料理人冥利に尽きるよ。じゃあこれからもココが驚くような料理でも作っていこうかな」
なんだか、軽くプロポーズっぽい発言だが、そんな気はないんだが。こんなことをシリルに聞かれた時には、もう目も当てられないような惨劇が待ち受けているだろう。
シリルはなんだかんだで甘えん坊だし、焼きもち焼き。まぁそれはそれで夫の俺としては嬉しいものなのだが。
と、思っていたら見事に聞かれていたでござるの巻。
……なんてことはなかった。厨房にいたのは俺とココだけ。
「はい。宜しくおねがいしますね」
と、俺が言ったことはスルーされてしまったのだろう。特に気にしていないようで笑顔で期待のまなざしで俺の事を見てくる。まぁもしかしたらココから見た俺は借金の肩代わりをした魔王の夫。というものなのだろう。
料理の匂いを嗅いできたのか、兵士達がぞろぞろと厨房に現れた。これからは料理を作る以上にスピードが必要になる作業が俺達を待ちうけているだろう。
「ココは食器を用意してくれ」
俺の指示を受けたココは一生懸命に食器を用意した。その食器に俺は糸の魔法を使って工場のような流れ作業を一人でこなす。2品が乗ったお盆をこれも流れ作業のように兵士に手渡す。不可視の状態だと事故が起こりそうなので、ちゃんと色がついた状態にしている。
兵士全員に手渡すと食堂で全員が食事を取る。全員、統率が取れている軍隊のように同じ動きで食事をしている。そして全員美味しそうに食べてくれている。嬉しいもんだ。
そして全員が食べ終わるとまたしても戦場になる。全員分の食器を洗わなければいけないのだ。やはり二人では捌ききれない仕事量だ。2人でも無理かもしれない。もう1人用意してもらおうか。
「雅彦。どうだ。今日は疲れたか?」
兵士全員が出て行った後、シリルが一人で厨房にやって来た。食事ぐらいは堅苦しい気分から解放してあげたいのだろう。
「あぁ。疲れた。2人じゃ無理そうだからもう1人欲しいぐらいだ」
「そう言うと思って1人多く手配したよ。それよりも私もお腹がすいた。今日の夕食はどんなものだ? 昨日の事もあって私は期待をしているんだ」
腹をすかせた彼女は小鳥が親鳥に餌をくれと言わんばかりに騒ぐ。まぁそんなに騒いではいないが。
彼女は今日の夕食を見て驚いたような顔をしている。
「ほら。雅彦もココも。一緒に食べようじゃないか。流石にあのだだっ広い部屋で私一人で食事をするのは嫌だ。まだ二人も食べていないんだろ?」
彼女からお誘いが来たので俺達も夕食にしよう。
「では。いただきます」
両手をあわせ、食材に感謝する。
ココも真似をして同じことをする。シリルは俺達が一体どんな儀式をしているのかを不思議そうな顔で見るので、詳しいことを教えてあげた。そして彼女も俺達の真似をしてから食事を取る。
「……なぁ。若干色が付いているだけなのだが、本当に味はあるのか? とても味があるような色じゃないのだが」
「大丈夫だから。ちゃんと味見もしてあるんだ」
ポトフのスープをおっかなびっくりにスプーンで掬い、ゆっくりと口づける。味を確認したのか、目を見開いてスープを飲みだす。
「こんなもの初めて飲んだぞ! 少ししか色がついてないのにこんなにも美味しい味になるのか」
「雅彦さんは腕の良い料理人なので当たり前なのです」
ココの少しだけ勝ち誇った顔。まるで自分の家族を自慢するような感じだ。まぁそうなのかな? 一応俺の所有物というか、ココの人生を俺が買ったわけだし。だからといってそのことで彼女の事を縛ったりはしない。彼女がやりたいことがあればその意見を尊重する。ということを決めているし。
「むぅ。ココしか知らない雅彦が居るのか。でも明日からの食事は楽しみだ。毎日こんなに美味しいものを食べれるならば雅彦を夫にした価値があったというものだ」
「そいつは酷いんじゃないか? 俺の価値が料理だけみたいな言い方」
シリルは特に責めている口調じゃないし、顔は笑っているので俺も軽口で返す。
「それよりも雅彦。お前は少し魔力を使いすぎているようだな。今日はもう休んだらどうだ?」
急に真剣な顔になるシリル。確かに今日は魔法を使いすぎたのかもしれない。だが、その魔法量は俺にはわからない。……わからないってやばくない? 魔力が無くなったら死ぬんだっけ?
「いや、まだ後片付けもあるし明日の朝飯の準備もしなきゃだし」
「馬鹿。無茶をしてどうするんだ。言っておくが今のお前の魔力は四分の一を切っているんだ。糸を出し過ぎたんだろう?」
「そうですよ。雅彦さんが倒れたりしたらここの兵士さんの食事は誰が作るんですか。それに私だって料理人です。レシピさえあれば頑張れます」
女性二人に休めと言われたら休むしかないだろう。
「……わかったよ。レシピは、そうだな。なににしよう。あれにしよう。葉物のお浸し。味噌汁。後は米を炊いて主菜は野菜の煮物にしよう。だから仕込みはしないで良いよ」
野菜を煮込む出汁は明日の朝にでも取れば良いだろう。そこまで難しくないし時間もかからない。大丈夫だ。
「……そうやって私の負担をいつでも減らそうとして。わかりました。メニューはそうしますけど夕食の後片付けは私がやりますので」
頑固者のココ。まぁ後片付けぐらいならあんまり負担にもならないし大丈夫だろう。
「ほら。食事が終わったならすぐに部屋に戻って寝る」
ここで援護射撃としてなのだろうか? シリルがせかす。うだうだと文句を垂れればなにを言われるかわかったものじゃないのでさっさと退散する。
風呂に入って。それで俺はベッドで寝る。今日も一日疲れたものだ。




