~解説~
二週間に一話って感じになってしまいましたね
来週から頑張りま~す
「それでだ雅彦」
二度寝した後に起こされた俺は、いまだ覚醒しきっていない頭を起こす。
「なんだ? どうかしたか?」
「どうかしたかじゃないだろ。今朝の事を詳しく聞かせてもらうぞ」
そういえばそんなことを言われていたような気がする。
「いや、別にあんな大惨事になるとは思っていなかったさ。ただ俺に魔法が使えるかどうかを確かめたかっただけだ」
なんだか母親に怒られているみたいで、つい言い訳をしてしまう。
「確かめたいからと言ってもアレはないぞ。あれはもう魔道師格の威力だったぞ!」
そうだったのか。まぁ解放した時に俺の体でさえも吹っ飛んでしまうほどの威力だったんだ。かなり強い威力だったのかもしれない。
「一体どんな魔法を使えばあんなことが出来るんだ。私に話してみろ」
というわけなのであの時の事を脚色など一切しないでありのままを伝えた。
全能の石のおかげで魔法を使えたこと。
冷気の魔法を熱の魔法で中和したこと。
体の周りに魔法を展開したこと。
「……いくら全能の石があるとしてもそんな簡単に体の周りに魔法を展開したり、二つの相対する魔法を一つにするのだってそうだ。初心者が出来るものじゃない。熟練者でも簡単に安定して使用できるものでもないし」
「それは俺に魔法の能力があるということなのか?」
シリルの口ぶりからだとそうなるんだけど、なぜだか顔が険しい彼女。
「いや、まぁ。魔法の素質があったのだろうと考えるのが普通なのだがな。うん。そういうことにしておこう。では今度は石を使わないでオーラとやらを右手に纏わしてみろ」
「お、おう。頑張ってみる」
オーラとやら。ということはシリルはオーラを知らないのだろうか? 俺も地球にいる時にはオーラというものをファンタジー世界でのおとぎ話だと思っていた。だが、ここもファンタジー世界の中。そんなものは日常茶飯事だと思っていた。
とりあえず、シリルの言うとおり右手の周りにオーラを出してみるとしよう。
体の中から暖かいモノを探し出して、その暖かいものを右手に集める。集める時は体中に張り巡らされている血管の中を通っているイメージで運ぶ。決して流れに逆らうように集めてはだめ。少しでも逆流してみようものなら、その暖かいエネルギーは血液に溶けてなくなってしまう。何事も自然の流れに任せて運ばせる。
右手に集まったエネルギーは、まず自分の手の形を頭の中でイメージする。目を瞑っていないので見ていても良い。
そのイメージしたものからエネルギーが噴き出てくるような感じでイメージを進める。
ゆっくりと。じわじわと。綿の布で液体を濾すような感じ。それが一番近い表現だ。
そうすれば俺の右手にはややぼんやりと。陽炎を見ているかのようなゆらゆらとしたものが右手を覆っている。
「ふむ。やはり出来るようだな。一応魔道師レベルの奴らが出来ることは出来るみたいだな。だが、魔法を使うの事が無かった雅彦がいきなりこんなことを出来るなんてそれはそれで大変な出来事なのだが」
最初からやらせることが魔道師レベルってどういうことだよ。それにしてもただイメージをしてその通りに行うだけが魔道師レベルということはどういうことなのだろう。
この世界に生息している魔法使いというのはイメージしたものがそのままイメージ通りに出来ない人達の事なのだろうか? それとも俺が特殊なのだろうか? まぁこの世界での俺は特殊を通り越して特異なのだが。
「まぁ雅彦の力は分かった。次はこの風船を膨らませてくれ」
シリルはどこから取り出したのかわからない、赤い小さな風船を俺に差し出した。
それにしても魔法と肺活量。なにが関係するのだろうか?
「それの中に空気を入れようとしても入らないようになっている。その中に入るのは自分の中にある魔力だけだ。だから風船を膨らますには魔力の移動が必須なんだ。まぁ雅彦はすでにその方法を知っているから出来ると思う」
シリルの言うとおりに風船を膨らましてみる。試しに空気を入れてみようとするが膨らまない。風船の口に向かって灰の中にある空気をすべて流し込むように吐き出すが、コンクリートの壁に口をつけて息を吐き出そうとしているようだ。まったくもって息が入っていかない。
「だから、空気は入らないようになっていると言っただろう。遊んでないでさっさとしろ」
空気は入らないし、シリルに怒られたので、本来のやり方である体の中にある魔力を風船の中に入れるようにやってみる。右手にオーラを纏わせた時と同じようにやってみる。さっきは右手に集めたモノを今度は口に集める。
そのあつめたモノを今度は風船の中へと押しこむように移動させていく。すると風船はどんどん大きくなっていき元の大きさからは想像も出来ないほどに大きくなる。その大きさは俺がすっぽりと入ってしまうくらいの大きさだ。どれだけ頑丈な素材なのだろうか?
それよりも、魔力を風船の中に入れたせいなのか、体の力が抜けていく。しっかりと俺の事を支えていた二本の足は力なく倒れ、尻もちを付いた。一体どうしたというのだろうか?
「今出した魔力をそのまま体の中に戻してみろ。そうすれば元通りになるから」
シリルの指示通りに動くと体に力が戻っていく。単なる疲労だったのだろうか?
「……やはりこれほどの大きさにまでなってしまったか。つくづく恐ろしいものだ。雅彦よ。この際だからはっきり言わせてもらう。お前の魔力は魔王である私と同じぐらいの魔力を持っている。それがどれほどなことはお前でもわかるだろう?」
俺がシリルと同じぐらいの魔力の持ち主。それは俺がかなり魔法を使える。ということなのだろう。たぶん。
「その膨大な魔力を暴発させてしまえばどんなことが起こるか。まだまだ序の口だが朝の出来事がその例だ。わかるな?」
あれが序の口。ということはあれ以上の事が起こるのは間違いないのだろう。
「だとしたら俺はこの魔力を暴走させないようにすればいいのか?」
「あぁ。だがそれ以外にむやみに全能の石を使わないことだ。あれは説明したと思うが持ち主の魔力を増幅させる効果がある。一緒に使えば魔力は大魔王様クラスにまで跳ね上がるだろう」
そしたらやばいな。想像しただけでも恐ろしい。そんな魔力を持っているとどんな奴らに狙われることやら。
「あぁ。わかった。それで俺はこれからどうしたらいいんだ? 普通に生活できるのか?」
「ん? なにを当たり前の事を言っているんだ? 普通に生活出来るに決まっているじゃないか。魔力は一定量溜まったらそれ以上溜まらなくなるんだ。だから魔法を使わなければ別に平気だ」
そうなのか。じゃあ魔法の仕様を極力抑えればいいのか。まぁ俺が魔法を使う機会なんてそれほど多くないと思う。
「膨大な魔力を持っていたとしてもそれだけで襲ってくるというのはない。魔力量は普通に生活している分にはわからない。それに魔力というものはこの世に生を受けた生き物全員に与えられたものだ」
「まぁわかった。ひとまず俺は魔力をちゃんとコントロール出来る様にするのが課題なんだな?」
「あぁ。魔法を使うとしたら誰もが通る道だ。そうでもしないと魔法が暴走して事故が多発して街がこの城から見える外の景色と同じになるぞ」
シリルの指す景色。草木という言葉が消え失せてしまいそうなほど緑が一切ない外。やはり殺風景だ。
「まぁ時間はまだたっぷりあるから魔法に関してはその期間を使って上達するようにするよ」
「分かった。その時は私が責任を持って雅彦を育てよう。言っておくが私は優しくないからな。そこだけは覚えておけよ?」
にやりと。なにか悪戯を考えた子供のように笑うシリル。
最後に残した彼女の言葉が嫌に心に残る。せめて俺が死ななければ良いと願うばかりだ。




