再会2
トーク番組は
「ぶっちゃけ!今夜もがんばっちゃいますNight♡」
という深夜のトーク番組だった。
内容は、若手のお笑い芸人がこれまた若手のグラドル10人とセクシー女優10人と、赤裸々な恋と下ネタを繰り広げる放送ギリギリのお色気番組である。
昨今、コンプライアンスが叫ばれるこの時代…
ーーー以下略。
つまり、くだらなくて面白いエッチな番組だ。
Web版も両方取るので、大変お色気が強いのが収録の時間。
「今日はみんなかわいい水着で来てくれましたぁー♡さぁ!Web版は上着脱いじゃって!脱いじゃぅて!」
お笑い芸人の音頭にあわせて、キャー♡と女の子の黄色い声と、パーカーが舞い散る。
巨乳
爆乳
貧乳
また巨乳
細身のスタイル美人
デカ尻
ロリ顔巨乳
完全に合法ロリ
ほぼ紐のビキニで仕掛ける崖っぷちグラドル
百花繚乱
入り乱れる女の子たちの美しい肉体を、カメラが舐めるように撮っていく。
「Aカメさーん。こっち撮って?ふふっここにお願いしまーす」
最近売れているという前列のグラドルが、前かがみになってたわわに実った両胸を寄せ、谷間に指をわざとはさんでいる。
翔平はカメラをチェックしながら、目をそらしたくなった。
(…あまりにも、エロすぎるのでは)
それが売りで、この時代に攻めた素晴らしい番組として、再生回数は毎回深夜枠だというのにとんでもないことになっている。
ぷにぷにと胸で指を挟み揺らす様に、スタジオの男共は変な目つきになってきていた。
「はーい!それでは、今日は赤裸々な体験と共にスペシャルゲストをお呼びします!」
「こんばんわ。松倉綾菜です!」
芸人の歓声も悲鳴とまた歓声。
「え!?本物!?」
「うっそぉ!?綾菜ちゃんと、同じ番組出れるのぉ!?」
グラドル達は意外にもライバル視というより、偉大なレジェンドや憧れをみるような声を出し立ち上がっている。
「遊びにきちゃいました!よろしくお願いします!」
ビキニ姿の綾菜はそでから出てくるが、ほかのグラドルとは格が違うのかノースリーブのマキシムワンピースだった。
ひらひらとフリルがついた白の正装系だが、胸元はきちんとギリギリ谷間が見えそうで見えない位置で止まり上品だがセクシーさもある。
髪もセットし綺麗に巻かれ、ゆるふわのポニーテールを揺らしカメラに両手をふりふりと手を振っている。
笑顔でカメラに抜かれた綾菜。
口元を緩く上げて、目を細める静かな微笑み。
それを見て、翔平は決して好みではない顔だと思っていたのに何故か既視感を覚えた。
そして…
(…なんというか、この上品さが売れたのか?)
不覚にも、ドキッと胸が一瞬跳ねた。
「ーーーーっ綾菜ぁぁぁぁ!!」
叫んだ次回の芸人が思い切り近寄る。
「やめろ!お前、初対面で呼び捨てにすんな!」
「痛っ!?いや、めちゃくちゃかわええから!」
うまくツッコミが頭を叩き、一笑起きる。
「めちゃくちゃファンやでっ俺!?デビューの時から、雑誌で見て切り抜き保存してんねん!」
「キモいわ!」
「わぁ!え、本当にそれデビューの時の…!やだ、恥ずかしい…」
財布から取り出した切り抜きを見て、絶句するように口元を手で押さえた。
「今やユーチューブとインスタグラムは登録数300万人超え!!すっぴんでスキンケア用品を紹介すれば綾菜ちゃん売れ!ほんまに、大活躍やね!」
「ありがとうございます。グラビアも好きですけど、好きなスキンケアとか日常を紹介して楽しくやってたら皆さんが見てくれて」
ひたすら謙虚に言葉を選び、用意された専用の席に座るときもスタッフにもお礼をいうように手を合わせた。
「しかし、ほんまにっスタイル抜群やな!!」
「筋トレしてまぁす」
「そこは、ありがとうございます。なんにもしてないんですよ?ちゃうの?」
綾菜は首を傾げて頬に指を当て、考え込むポーズをする。
「んー…?そんなの絶対ウソですよ?それなりに筋肉つけてお肉も野菜も食べてきちんと運動しないと、メリハリのない身体になりますから。無理なダイエットは私、嫌いなので」
あっけらかんと笑い、ほかのグラドルもみんな一様に頷いている。
「食べないダイエット禁止!ユーチューブでもよく言ってくれるんです!綾菜ちゃん!」
「めちゃくちゃ観てます!!チャンネルヘビーユーザーです!」
「ほんまか!?蹴落としたい目の上のたんこぶちゃうの!?」
「綾菜ちゃんはそんなことできない天上人なんです!!」
※
わいのわいの…と、軽快に番組は流れていく。
その後、夢愛の紹介VTRへと移る中、翔平はもらった資料の中の松倉綾菜を改めてタブレットで確認した。
デビューは今から4年前の21の時。
週刊誌の新人グラビアアイドルの特集で2ページから始めたので、初めから業界内での注目度はそこそこ。
事務所が特別力を入れていたわけではなく、よくいる巨乳アイドルという立ち位置だったようだ。
(……なんだろな。なんか、さっきから気になるんだよなぁ。…なんていうか)
ぱっちり二重のお人形フェイスはもちろん可愛い。
それに、あの圧倒的な女性らしい凹凸のあるメリハリボディと、どこか上品さのただようそこはかとない雰囲気というギャップ。
あえてカメラの前ではキャピキャピしているが、綾菜が時折黙ってVTRを確認している横顔が一番綺麗に見える。
翔平は数多くの美しい芸能人…それこそ、第一線で活躍する美人女優と会ってきたが、こんな気持ちは初めてだった。
目が離せない…というか、目が勝手に松倉綾菜を追ってしまう。
(全然似てないんだけど…夢愛ちゃんに、雰囲気が似てる)
音信不通となったDMの傷を負いながらも、ついそんなふうに思ってしまった。
あり得ないのに。
小学校を卒業し、夢愛とは別々の中学へ進んだ。
最後に彼女を見たのは、それから数年後の休日だった。
ありきたりだが、家族と近所のイ◯ンで買い物をしていた休日…
本屋へ勉強に必要な参考書を買いに一人で歩いていた時、隣の文具店に夢愛がいた。
(ゆ………っ、夢愛ちゃん…だ!!)
見かけた瞬間、数年ぶりに見た夢愛を見て思わず見惚れた。
つややかな長い黒髪は肩から背中あたりまで伸び、すらりとした手足と女性らしさの増した体つきになっている。
夢愛は、翔平にも気づかず何か画材を確認して腰をかがめていた。
翔平は声をかけたくてもかけられず、しばらくその場を右往左往した。
思春期真っ只中。
気軽に挨拶もできず、ドキドキして優しげな目元の美人になった夢愛に憧れ続けた。
…そんな、甘酸っぱい思い出が思い出された。
※
「はぁ…返事なし」
(あー……引きずりすぎだろ。DM無視(?)がしんどい。返事無いけど…もう一度DM送ってみようかなぁ)
収録後、悶々としながら返事の来ないSNSのメッセージ画面を見る。
翔平は喫煙の習慣が無く、喫煙所での息抜きではなく局内の廊下で一人缶コーヒーを飲むくらいの休憩しかしない。
会わないかと勇気を出してDMを送ったが、パタリとそこから連絡が途絶えたということは…
「…迷惑だったかな。いや、でも…もしかしたら、忙しくて…」
ブツブツ独り言をいいながら、冷たいコーヒーを流し込む。まるで中学生男子に戻ったみたいだ。
(パターン1…ナンパと思われて警戒され、無視されている。)
精神的に大ダメージ。ナンパではい!!と心から叫びたい。
(パターン2・どうしよう…と戸惑われて、返事に困り保留にしているのかも?)
夢愛ちゃんは小学生の頃から、恥ずがり屋なところがあった。困らせてるのか?
いや、それならもう…!好意があると、はっきりさせてもっと押していきたい。
(パターン3 単に忙しくて返事を忘れてる。もしくは週末に返事をくれる予定。)
それなら待つ!週末までとりあえず待って、それでも何にも返事が無いなら…
「…2か3であってくれ」
仕事そっちのけで、ぐるぐる考えている。いや、仕事の収録は無事に終わったのだが。
こんな追いDMを作成してみた。
『何度もごめん…。俺、困らせたかな?ただ…会って話せたらって思って』
と、書いてから即消した。
(いや…重いだろこれ。夢愛ちゃんが困る。それに、これを無視されたら困ってるって証拠だし)
正解がまるで分からない。
今まで、恋愛ではこちらから好意を示すよりもアプローチを受けることが多かった。
贅沢でなんの苦労もない恋愛だったのだ。
翔平はため息をつき、スマホを握り直した。
『空いてる日あったら、教えてね』
送信。
「……頼む。」
その小さな独り言だけが、誰もいない廊下に静かに消えていった。




