3-14 剣神
『まったく、私の端末を勝手に潰してもらっては困るんですけどねぇ』
澄んだ声が赤黒い空間内に響く。
その声は波紋の様に伝播する。
その中心は――――
「白亜?」
いや、違う。
俺の腕の中の白亜は、未だ苦しそうに浅い呼吸を繰り返している。
しかし、その表情は驚愕に満ちていて‥‥‥
「あっ、ぐぅっ、ああああぁぁ―――」
そして、すぐにそれは苦悶の悲鳴に変わる。
白亜の身体がビクンと跳ねる。
同時――――
白亜の傷が広がり、その中から細くしなやかな腕が伸びてきたではないか。
傷から覗く奥は濃紺。
それは先ほどまでの傷口とは全く別物で‥‥‥
至近で発生した事象に思考が付いていかず、俺は茫然と腕の中の白亜を見やる。
しかし、そんな俺をよそに、その異常はさらに進行していく。
白亜の胸に出来た空間から徐々に腕、肩、頭部、そして全身がゆっくりと現れ、一人の女性が現れる。
そして、そのまま宙に浮かび上がったのだ。
途中、俺と現れた人物の眼が合う――――
「!?」
瞬間、思考がショートした。
目の前の現実が受け入れられない。
これは夢だと、理性が、本能が叫んでいる。
だって、俺は、現れたその顔を知っていたから。
美しく伸びる銀の髪。
その目鼻立ち、しなやかな四肢、女性らしい身体。
瞳だけは俺の知るものよりもなお深い紺色に近い蒼だったのと、その衣装が見慣れたメイド服ではなくゆったりとした一枚布のストラのような形状ではあったのだが‥‥‥
それでもその顔は見間違いようがない。
だって、その顔の女性は今、俺の腕の中で苦悶の声を上げているのだから―――――
「白‥‥‥亜‥‥‥?」
そして、現れた人物はそのまま俺と白亜の少し上で止まると、俺達を無視し、唇の端を歪め愉快そうに邪神を見た。
「久しぶりですね、ティアマト」
瞬間――――
ドン!!!
声をかけられた邪神からは先ほどとは比較にならないほどの邪気が迸る!
あまりのプレッシャーに空間が軋みを上げて、ビリビリと震えている!
「剣神!!!!!!!」
その顔は憤怒、その瞳は憎悪に染まっている!
右手に持ったマルドゥークが主の怒りに呼応するように、甲高い音を発している!!
邪神を中心に凄まじい突風が吹きすさび、俺と白亜の身体を吹き飛ばそうとする。
腕の中の白亜が、傷の痛みに苦悶の声をもらしている。
俺はその衝撃から必死に白亜を庇いながら、驚愕と共に目の前の女性を見上げる。
今、邪神は何と言った?
『剣神』
確かにそう言ったのではないか?
この女性が?
どういうことだ!?
剣神とは邪神に対抗する手段を人類に与えた神の名ではないのか?
それが何故?
だが、俺のそんな思考はよそに、
「まったく。相変わらずの様ですね貴方は」
白亜にそっくりな剣神が鈴の音の様な声で言葉を放つ。
クールな表情と声音ながら、その奥底にはヒトをあざける気配が透けて見えている。
それに対し邪神ティアマトは殺気と闘気をまき散らしている。
お互いの気配は殺し合いの寸前の様な気配。
神と神の殺し合い。
その事実に背筋がブルリと震える。
「どうしてお前が私の世界にいるのかしら」
余裕な態度を崩さない剣神と、全身から怒りの邪気を迸らせる邪神。
二人の間の緊張が段々と高まっていく。
「いえ、貴方が新しい世界にご執心だという噂を聞きまして。
また、潰して差し上げようかなと」
「貴様ぁ!!」
ドガァン!!
瞬間、一気に邪神の殺気が膨れ上がった!!
そしてその勢いそのままに、邪神が怒りのままにマルドゥークから呪いの斬撃を飛ばす。
極濃の呪いの斬撃!!
しかし、剣神はそれをひらりと躱すと、俺達から少し離れた位置に着地した。
一方の俺達は至近を過ぎる凄まじい衝撃に体が吹き飛ばされそうになるが、俺は瀕死の白亜を必死に庇い地に伏せる。
「ァ―――――」
白亜の喉から声にならない悲鳴が漏れる。
「大丈夫か、白亜!!」
くそっ、荒野で戦った時よりさらに威力が増してやがる!!
それはきっと邪神の怒りの現れ。
邪神の殺気は既に破裂寸前の風船のように膨張している。
少しの刺激でいつ爆発してもおかしくない。
そうなれば彼女は周囲被害など無視して破壊の限りを尽くすだろう!
一方、その殺気を受けてなお、剣神の方は未だにその顔に笑みを浮かべたままである。
「流石は創世神のひと柱ですね。
落ちぶれたとはいえ、大したものです。
それにこの世界も。
まさかあなたが世界を再創造しているなんて思いもしませんでした。
しかもガチガチにセキュリティを固めて。
貴方の世界に入り込むのは本当に大変でした」
そう言って、剣神は肩をすくめている。
「ですが、ちょうどいい空の肉体がありましたので。
それを利用させて頂きました」
そして、その顔にニヤリと、白亜なら絶対にしないであろう悪意が混じった笑みを浮かべる。
「‥‥‥」
それに対し、邪神は無言。悔しそうに自らの唇を噛んでいる。
「同時に私の端末を紛れ込ませ、あなたの世界に隙間が出来るのを待っていたのです。
ここまで早く結果を出してくれるとは思いませんでしたが。
私が送り込んだ刀祢君に情でも湧きましたか?」
剣神は楽しそうに、そして、あざける様に笑う。
邪神の落ち度が愉快でたまらないといった様子だ。
邪神はそれを見て、右手に握るマルドゥークに力を込めている。
あまりの力にその拳から血が零れ落ちる。
けれど邪神は俺の方に一瞬目をやると、複雑な表情をした後に細く息を吐いた。
その視線は、迷い? いや願いか?
邪神が?俺に?
俺は邪神の視線に不思議な感情を感じたが、邪神はすぐに俺から目を移す。
そして、わずかに理性を取り戻した視線で真っ直ぐに剣神を見やり、マルドゥークの先端を剣神に突きつけると、
「なるほどね、スペアをそのままにしていた私の方にも落ち度があったわけね。
けれど、」
先ほどより幾分か冷静な声音で剣神に語り掛ける。
「あなたもだいぶ無理をしたみたいに見えるわね。
それこそ、やっと存在を保っているように。
なら、今度こそ思い通りにはさせないわ」
憤怒と憎悪にまみれてなお、それを押し留め今度こそ何かを護ろうと必死になっているような、そんな声を響かせる。
「そうですね、だいぶ急なことでしたから正直準備不足です。
私としましても、こんなに簡単に貴方の世界に傷が出来るとは思っていませんでしたから」
一方の剣神は、自らの挑発に邪神が乗って来なかったことに少しつまらなさそうな表情を浮かべるも、すぐに表情をもとの嘲りのものに戻す。
「まあ、何にせよ、こんな機会はなかなかないでしょうから。
私はしばらくこの世界に留まりながら準備をさせて頂きます」
「そんなことを私が許すと?」
邪神が足に力を入れ、いつでも攻撃が出来るよう戦意を滾らせる。
「別に許して頂く必要はありません。勝手に進めますので」
剣神も闘争の気配に唇をさらに歪め、
「ですからあなたは、この子達と遊んでいてください。
〈ウルカヌス〉」
右手で空を切る様に水平に振り抜いた。
瞬間――――
「「「「キイイイイイイイィィィィィィイイイイ」」」」
金属をこすり合わせたような甲高い音の合唱が空間を震わせた。
それは耳を塞ぎたくなるほど不快な奇声。
同時に、剣神の前の空間が裂け、その裂け目から全身が金属の板だったり剣だったりで構成されている異形の怪物が何体も現れる。
それらがガシャガシャと音を立てて、空間の裂け目から現れては邪神に飛び掛かっていく。
「っつ!!」
「確かに今の私はだいぶ力が削られています。
けれど、私という通り道を通して眷属達を呼ぶ程度は可能です」
邪神はそれをマルドゥークのひと薙ぎで何体も同時に葬っていく。
けれど、空間からは次々と異形の怪物があふれ出て来る!
邪神と異形の怪物が拮抗状態を形成する。
剣神はそれを満足げに眺めると、こちらに振り返る。
そして、意地の悪い笑みを俺達に向けた。
それはとても美しい顔、けれど怖気を感じさせる笑み。
俺の背筋を悪寒が走る。
ダメだ、あいつは危険だ!!
俺の中で危機感知の警鐘がけたたましい音を鳴らしている!
だが、――――
「では私は私の用事を済ませさせて頂くとしましょう」
ウルカヌスと戦う邪神を横目に剣神は、俺と白亜の方へと歩み寄って来るのであった。
システムさん:なんかラスボスみたいなの出てきました!!
主人公:やばい、まだフラグ回収全然終わってない感じなのにクライマックスみたいな感じになってる?
システムさん:何とかしてください、刀祢さぁん (´;ω;`)
主人公:くっ、今の俺の力じゃどうしようも‥‥‥
システムさん:どうすればいいんですか!?!?
主人公:しょうがない、こういう時こそあの人を呼ぶんだ!!
システムさん:あ、あの人ってまさか!?
主人公:そう、全てを魔法の力で解決してくれる、あの人を!!さあ、声を合わせて!!
主人公・システムさん:助けてぇ~~~~、月夜えもぉ~~~~~~~ん!!!!
月夜えもん:呼ばれて飛び出て月夜えもん!!ラブラブ!!お兄様は私のもの!!お兄様の敵はdeth・dethしちゃうぞ♪
主人公・システムさん:(/・ω・)/(/・ω・)/




