― 妹 ―
放課後の校門を出ると、春の光がふんわりと降り注いだ。アスファルトには街路樹の若葉がゆれる影が落ち、あたたかい風が制服の裾をやさしく揺らす。どこかの庭先から沈丁花の甘い香りが漂い、私はふっと肩の力が抜けるのを感じた。
そんな春の陽気の中、現在高校一年生の私がゆるやかな坂道を下校していると、小さな自転車のブレーキ音が響いた。
「りんちゃん!」
振り向くと、元気な声とともに、自転車を止めた小学四年生になったさくらちゃんが笑顔で手を振っていた。
「あれ?久しぶりだね、さくらちゃん」
「ねえ、りんちゃん、最近ぜんぜんうち来ないじゃん」
「えっ」
私は一瞬言葉に詰まった。ずっと行っていない事は自分でも分かっていた。
「前はさ、毎週のように来てたのに。お兄ちゃんとケンカしたの?」
「ううん、そうじゃないよ」
私は目を伏せて答える。さくらちゃんは私の表情をじっと伺うようだった。
「じゃあ、なんで?わたしのこと、もう好きじゃないの?」
私は慌てて首を振った。
「そんなことないよ。さくらちゃんのこと、大好き。でも」
「でも?」
「さくらちゃんは変わらないね。昔と同じで、まっすぐ」
「当たり前じゃん。わたしはずっと、りんちゃんのこと好きだもん。お兄ちゃんとちがって!」
「え?」
「お兄ちゃんね、なんか最近へんなの。りんちゃんの話、全然しないし。前は『きょう、りんちゃんがさぁ』とか言って、もっと楽しそうに話てたのにさ」
「……」
「ねえりんちゃん、ほんとはさ、お兄ちゃんのことキライになったの?」
私は言葉を返せず、ただ苦笑いした。まっすぐすぎる妹に、心がチクリとした。
「さくらちゃん、前よりよく気づくようになったね」
私は少し間を置いて、ふっと笑った。さくらちゃんの成長に驚かされたからだった。
「ありがとう、さくらちゃん」
「じゃあ、またうち来てよ。お母さんも待ってるし、わたしも待ってる!」
「うん。また行くね」
「やくそくだよ!」
さくらちゃんはもう一度大きく手を振って、自転車にまたがり去っていった。私はその後ろ姿を見送りながら、小さな声でつぶやいた。
(私のほうが、ずっと子どもだね。本当は行きたいんだよ。でも勇真がわたしから離れてしまって、もう手の届かないところに行っちゃったんだよ)




