表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星願未遂 ふたりの長いものがたり リマスター版  作者: つくね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/52

― 2点 ―


 春の陽射しを受けて艶やかに光る、青いロードスターが駐車場に静かに佇んでいた。勇真が学生時代から乗っていたバイクを手放し、思いきって手に入れた一台。低い車高にキビキビとしたハンドリング、アクセルを踏むと胸がすくように軽快に伸びるエンジン。屋根を開けて走ると、風景さえ少し違って見える。

 そんな愛車に凜を乗せ、春の風と一緒に走ってきた高速道路サービスエリアのベンチで。


「ほら、アイスティー。レモン入ってるやつ、好きだったよね?」

 涼しげな声とともに、勇真はペットボトルを凜へ差し出した。指先にはほんのり冷気が残っていた。


「ねえ、あのさ勇真、小学校のときのこと、ちゃんと話したことなかったよね?」

 春の柔らかな陽射しの中、ふたりは並んで座りながら、凜がぽつりと切り出す。


「うん、確かにあんまり詳しくは話してなかったね」

「私ね、小学4年の頃、本ばっかり読んでて、それが原因で友達から地味子って呼ばれてたの」

 小さく息をつき、少し照れくさそうに笑う。


「地味子って、すごく嫌なあだ名だった。明るくて活発な子たちの中で、私は本の世界に逃げ込むばかりで。そんな私が気に入らなかったんだろうね」

「そうだったんだ」

 勇真はじっと凜の話に耳を傾ける。


「その頃、教室ではよく筆箱を隠されたり、教科書に落書きされたりしてた。いじめられていたけど、どうしていいかわからなくて、ただ我慢するしかなかった」

 少し俯きがちに話す凜の声に、胸が締め付けられる。


「でも私が読んでいる本を、取り上げられそうになった時、勇真が助けてくれたよね」

「その時のこと、よく覚えてるよ」

「覚えてるんだ?」

「うん、凜がびっくりしてたのも、俺が怒ったのも全部」

 勇真の言葉に、凜は目を細めた。


「それで、そのあとに机に頭をぶつけてね」

「それで、十円ハゲができちゃってたんだ」

 少し笑いながらも、どこか恥ずかしそうに頭を触る。


「それ、すごく気にしてたんだよ。いじめの事よりも、そのハゲの方が恥ずかしくて」

「そっか」


「でもね、勇真が助けてくれたおかげで、初めて誰かが味方になってくれるって思えたんだ」

 勇真には凜の目が少し潤んで見えた。


「それまでは、自分がすべての人に嫌われてる気がしてた。でも、勇真がそこにいてくれたから、少しずつ自信が持てた」


「俺はずっと凜の味方だったよ」

 勇真の言葉に、凜はゆっくりと頷いた。

「好きって気持ちはまだよくわかってなかったけど、勇真がいてくれてよかった」

「それなら良かった」

「十円ハゲの恩返し、これからちゃんとするね」

 凜が小さな笑顔を見せると、勇真は前髪を優しく撫でた。


「約束だよ」

「ねぇ、好きを5段階で表すと、この時わたしの大好き指数は4点だったよ、まだ小学生だったから。もしこの時、私が大人だったらマックスの5点だったよ」

「勇真は?」


「怒られるから言わない」

(俺……こんなに小さいころから、こんなにも好かれていたんだ。鈍感なのか)


「ちょっと、わたしがしゃべったんだから勇真も言いなさいよ、怒らないから」

「じゃあほんとのこと言うけど、この頃は好きではあったんだよ、間違いなく」

「あの時助けたのは、俺ってばかだから好きとかきらいとかいう感覚ではなくて、本能的に動いた結果なんだよ」

「だから、愛してるかと言われたらたぶん2点かな」

 すかさず腕をつねられる勇真だった。


「イテテ、怒らないって言ったくせに」

「そんな事しらん!」


 ふたりの距離が少しずつ近づく、春の午後だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ