― 2点 ―
春の陽射しを受けて艶やかに光る、青いロードスターが駐車場に静かに佇んでいた。勇真が学生時代から乗っていたバイクを手放し、思いきって手に入れた一台。低い車高にキビキビとしたハンドリング、アクセルを踏むと胸がすくように軽快に伸びるエンジン。屋根を開けて走ると、風景さえ少し違って見える。
そんな愛車に凜を乗せ、春の風と一緒に走ってきた高速道路サービスエリアのベンチで。
「ほら、アイスティー。レモン入ってるやつ、好きだったよね?」
涼しげな声とともに、勇真はペットボトルを凜へ差し出した。指先にはほんのり冷気が残っていた。
「ねえ、あのさ勇真、小学校のときのこと、ちゃんと話したことなかったよね?」
春の柔らかな陽射しの中、ふたりは並んで座りながら、凜がぽつりと切り出す。
「うん、確かにあんまり詳しくは話してなかったね」
「私ね、小学4年の頃、本ばっかり読んでて、それが原因で友達から地味子って呼ばれてたの」
小さく息をつき、少し照れくさそうに笑う。
「地味子って、すごく嫌なあだ名だった。明るくて活発な子たちの中で、私は本の世界に逃げ込むばかりで。そんな私が気に入らなかったんだろうね」
「そうだったんだ」
勇真はじっと凜の話に耳を傾ける。
「その頃、教室ではよく筆箱を隠されたり、教科書に落書きされたりしてた。いじめられていたけど、どうしていいかわからなくて、ただ我慢するしかなかった」
少し俯きがちに話す凜の声に、胸が締め付けられる。
「でも私が読んでいる本を、取り上げられそうになった時、勇真が助けてくれたよね」
「その時のこと、よく覚えてるよ」
「覚えてるんだ?」
「うん、凜がびっくりしてたのも、俺が怒ったのも全部」
勇真の言葉に、凜は目を細めた。
「それで、そのあとに机に頭をぶつけてね」
「それで、十円ハゲができちゃってたんだ」
少し笑いながらも、どこか恥ずかしそうに頭を触る。
「それ、すごく気にしてたんだよ。いじめの事よりも、そのハゲの方が恥ずかしくて」
「そっか」
「でもね、勇真が助けてくれたおかげで、初めて誰かが味方になってくれるって思えたんだ」
勇真には凜の目が少し潤んで見えた。
「それまでは、自分がすべての人に嫌われてる気がしてた。でも、勇真がそこにいてくれたから、少しずつ自信が持てた」
「俺はずっと凜の味方だったよ」
勇真の言葉に、凜はゆっくりと頷いた。
「好きって気持ちはまだよくわかってなかったけど、勇真がいてくれてよかった」
「それなら良かった」
「十円ハゲの恩返し、これからちゃんとするね」
凜が小さな笑顔を見せると、勇真は前髪を優しく撫でた。
「約束だよ」
「ねぇ、好きを5段階で表すと、この時わたしの大好き指数は4点だったよ、まだ小学生だったから。もしこの時、私が大人だったらマックスの5点だったよ」
「勇真は?」
「怒られるから言わない」
(俺……こんなに小さいころから、こんなにも好かれていたんだ。鈍感なのか)
「ちょっと、わたしがしゃべったんだから勇真も言いなさいよ、怒らないから」
「じゃあほんとのこと言うけど、この頃は好きではあったんだよ、間違いなく」
「あの時助けたのは、俺ってばかだから好きとかきらいとかいう感覚ではなくて、本能的に動いた結果なんだよ」
「だから、愛してるかと言われたらたぶん2点かな」
すかさず腕をつねられる勇真だった。
「イテテ、怒らないって言ったくせに」
「そんな事しらん!」
ふたりの距離が少しずつ近づく、春の午後だった。




