表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星願未遂 ふたりの長いものがたり リマスター版  作者: つくね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/52

― 戒め ―  


 春の風が吹き抜け、河川敷の桜がはらはらと舞い落ちる。

 淡い花びらが、勇真と凜の肩に静かに降り積もっていく。


 お買い物デート、駅前のカフェで交わすふたりの会話。


「私、最近いろいろありすぎたけど、ようやく心の整理が付き始めてきたんだ」

「うん、確かにいろいろあった」

 他愛もない会話の中で、凜の顔色が変化した。


「ところでさぁ、子供の時、川でおぼれた私を助けてくれたよね。その後にプレゼントしたんだよ、ペンダント」


 勇真の肩がわずかに動いた。


「ああ、もらった。ちゃんと、机の引き出しに」

 言いかけて、言葉を飲み込む。

 凜はそれを察したように、少しだけ笑った。


「やっぱり使ってなかったんだね! 引き出しってどういう事?」

「ごめん。あの時、どういう意味でくれたのか、正直よく分かってなかった」

 勇真は、少しうつむいて続ける。


「あの頃の俺、凜のありがとうって言葉しか受け取ってなくてさ。星のペンダントが、大事な気持ちだったって、気づけなかったんだ。だから、なんとなく大切そうには見えたけど、女子が使うものだと思って、しまいこんじゃった」


 凜は黙ってそれを聞いていた。

 でもその目は、どこか寂しさと外した期待で揺れていた。

「……そうだったんだ」


「でも、いまは分かってるよ」

「もらった時、星のペンダントは確か願いが叶うからって聞いたのを思い出して、監督が危なくなってからようやく身に着けるようになったんだ。バカだよな、こんな大事なもの、その時までしまったままだったなんて」


 凜の目が、ふっと潤んだ。

「ほんとはあの時、好きって言いたかった。でも、言えなかったから、ペンダントに詰めたの。私の中で勇真は支えてくれる唯一の大切な存在だったの。勇真に、ちゃんと届いてほしかったのに」


 勇真はそのペンダントをぎゅっと握ると、凜の前に立って言った。

「今はちゃんと受け取れてるよ。あの時の好き、は届いてた」

 凜が目を伏せたまま、小さく笑う。

「遅いよ」

「遅れてごめん。でも、今なら俺も言える。ありがとうと、俺も好きだよって」


 その瞬間。

 ――バシッ。


 凜の手が、勇真の頭を軽く叩いた。

 それは本気ではなかったけれど、しっかりと怒りと悔しさがこもった一発だった。


「痛っ!? な、なんだよ!」

 勇真が目を丸くして凜を見ると、彼女は涙目のまま、むくれていた。


「ばか。今なら分かる、じゃないよ。ずっとずーっと、気づいてほしかったの。どれだけ、勇真に届いてないのかって思いながら、もうあきらめてたんだよ」


「凜……」

「星のペンダントだって、あれ、私の全部だったのに、引き出しにしまわれてたとか、ほんと最低」


「ごめん」

 凜はそっぽを向いていたが、口元は少しだけ緩んでいた。


「許すのは、あと十回くらい叩いてからかな」

「それは勘弁してくれ」

 そう言いながら、勇真はペンダントをそっと首にかけた。

 凜がそれを見て、ふっと小さく笑う。


「似合ってるよ。その星、やっと光った」


 カフェを後にした後、降り出した雨の中、ひとつの傘。

 桜の花びらが、肩を並べて歩くふたりの間を舞い、春の光が河川敷を染めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ