― 戒め ―
春の風が吹き抜け、河川敷の桜がはらはらと舞い落ちる。
淡い花びらが、勇真と凜の肩に静かに降り積もっていく。
お買い物デート、駅前のカフェで交わすふたりの会話。
「私、最近いろいろありすぎたけど、ようやく心の整理が付き始めてきたんだ」
「うん、確かにいろいろあった」
他愛もない会話の中で、凜の顔色が変化した。
「ところでさぁ、子供の時、川でおぼれた私を助けてくれたよね。その後にプレゼントしたんだよ、ペンダント」
勇真の肩がわずかに動いた。
「ああ、もらった。ちゃんと、机の引き出しに」
言いかけて、言葉を飲み込む。
凜はそれを察したように、少しだけ笑った。
「やっぱり使ってなかったんだね! 引き出しってどういう事?」
「ごめん。あの時、どういう意味でくれたのか、正直よく分かってなかった」
勇真は、少しうつむいて続ける。
「あの頃の俺、凜のありがとうって言葉しか受け取ってなくてさ。星のペンダントが、大事な気持ちだったって、気づけなかったんだ。だから、なんとなく大切そうには見えたけど、女子が使うものだと思って、しまいこんじゃった」
凜は黙ってそれを聞いていた。
でもその目は、どこか寂しさと外した期待で揺れていた。
「……そうだったんだ」
「でも、いまは分かってるよ」
「もらった時、星のペンダントは確か願いが叶うからって聞いたのを思い出して、監督が危なくなってからようやく身に着けるようになったんだ。バカだよな、こんな大事なもの、その時までしまったままだったなんて」
凜の目が、ふっと潤んだ。
「ほんとはあの時、好きって言いたかった。でも、言えなかったから、ペンダントに詰めたの。私の中で勇真は支えてくれる唯一の大切な存在だったの。勇真に、ちゃんと届いてほしかったのに」
勇真はそのペンダントをぎゅっと握ると、凜の前に立って言った。
「今はちゃんと受け取れてるよ。あの時の好き、は届いてた」
凜が目を伏せたまま、小さく笑う。
「遅いよ」
「遅れてごめん。でも、今なら俺も言える。ありがとうと、俺も好きだよって」
その瞬間。
――バシッ。
凜の手が、勇真の頭を軽く叩いた。
それは本気ではなかったけれど、しっかりと怒りと悔しさがこもった一発だった。
「痛っ!? な、なんだよ!」
勇真が目を丸くして凜を見ると、彼女は涙目のまま、むくれていた。
「ばか。今なら分かる、じゃないよ。ずっとずーっと、気づいてほしかったの。どれだけ、勇真に届いてないのかって思いながら、もうあきらめてたんだよ」
「凜……」
「星のペンダントだって、あれ、私の全部だったのに、引き出しにしまわれてたとか、ほんと最低」
「ごめん」
凜はそっぽを向いていたが、口元は少しだけ緩んでいた。
「許すのは、あと十回くらい叩いてからかな」
「それは勘弁してくれ」
そう言いながら、勇真はペンダントをそっと首にかけた。
凜がそれを見て、ふっと小さく笑う。
「似合ってるよ。その星、やっと光った」
カフェを後にした後、降り出した雨の中、ひとつの傘。
桜の花びらが、肩を並べて歩くふたりの間を舞い、春の光が河川敷を染めていた。




