― スナイパー ―
わたしは晴れて高校生。
あのあと、ふたりがどうなったのか、私はちゃんとは知らない。
でも、空気って、案外バカにできない。
何かあったなってことだけは、私のアンテナがちゃんと拾ってる。
お兄ちゃんと凜ちゃん。
ふたりの間に流れる空気が、なんか変わった。
たとえば、凜ちゃんが家に遊びに来てリビングで3人でテレビを見てるとき。凜ちゃんが前よりちょっとだけ、リラックスしてる。
お兄ちゃんはそれを見て、すっごく自然に笑うようになった。
でも、目が合う時間が増えた。
無意識っぽく見せて、ちょっと意識してる感じ。
いや、絶対してる。
こういうの、普通の友達だったらしないやつ。
私が台所にジュース取りに行ってる間に、なんか空気が変わるときがある。
戻ってくると、ふたりともやけに静かで、でも顔はほんのちょっと赤い。
なにそれ? 恋愛ドラマ?
でもさ、そういう嘘って、気づく方はすぐ気づくんだよね。
別に問い詰めたりはしない「やっぱり、そうなんだろうな」って、思ってる。
でも――
私は、決定的な瞬間を見たわけじゃない。
キス、したのかもしれないし、してないのかもしれない。
けど、たぶん。
ううん、絶対にした。
それくらい、凜ちゃんとお兄ちゃんの表情がやわらかくなったし、
この前なんて、凜ちゃんの名前を呼ぶ声が、前よりちょっとだけ、優しかった。
凜ちゃんも気づいてると思う、あの呼び方の変化。
たぶん、ちょっとだけ照れてるんじゃないかな。
だから私は、気づかないふりをして、ソファにダイブして、お兄ちゃんの顔を見上げながら聞いた。
「ねえ、凜ちゃんって、お兄ちゃんのこと好きなの?」
わざと軽く。ちょっとだけ意地悪に。
お兄ちゃんは、コーラ飲みかけて、むせてた。
凜ちゃんは顔を真っ赤にして、私の頭をクッションで叩いた。
うん、確定だな。狙い通りターゲット的中。
私、知らないふりするの、たぶん得意なんだ。
昔から、空気読むのがクセになってる。
だから、ふたりが本当は特別な関係になってることくらい、言われなくてもわかる。
でも、聞かない。
今はそれがちょうどいい。
いつか、ちゃんと教えてくれるかな。
「あのとき実は……」って。
そしたら私も言おう。
「あのとき、全部バレてたよ」って。
その日が来るまでは、私は、ただの妹を演じてる。
ちょっと大人ぶった、でもまだ子どものふりをした妹。
「ねえ、ふたりってさ、ほんとに何もないの?」
今度は、そう聞いてみようかな。
もちろん、また笑ってごまかすと思うけど。
それでいい。
ふたりがふたりらしくいられるなら、私はこの心地よい空間が好きだから――
私は、ふたりがやっとくっついてくれたことが、本当に嬉しいの。




