表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星願未遂 ふたりの長いものがたり リマスター版  作者: つくね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/52

― もう戻れない ―


「ただいま」

 家に帰ると、母の「おかえり」の声がリビングから聞こえてきた。凜は自分の部屋にまっすぐ向かった。

 制服のまま、机の前の椅子に腰を下ろす。窓の外には夜の静けさ。カーテンを閉める気にもなれず、ただぼんやりと窓から見える灯りを見つめていた。


 ペンを持つ指先。わからない問題に素直に悩んでいる顔。ふとした瞬間に、まっすぐに自分を見つめた、あの瞳。あの時の空気が、まだ身体の奥に残っている。

 あの時、もう少しで言ってしまいそうだった。

 テニスが上手くて、頭が良くて、ちゃんとしてる翔太くん。

「でも……私には違う……」と。


 翔太くんといる時には見せない自分。翔太くんの前ではちゃんとした私でいようと、少し背伸びしてる。

 でも勇真の前では、昔のままの、自分を飾らない私が顔を出してしまう。あの子は、変わらずまっすぐで、少し不器用で、私を守ってくれる人。

 窓の外に広がる夜景が、ぼんやりと滲んで見えた。



——

 部屋の天井をぼんやりと見上げながら、勇真はベッドの上に制服のまま寝転がっていた。

 シャツのボタンも中途半端に開けたままで、今日はもう何もやる気が起きなかった。試験勉強のノートが、机の上に開いたまま。


 あのページは、凜が「ここ間違ってるよ」と指摘してくれたところ。不思議だった。あんな風に、まっすぐ見つめられるだけで、心が一瞬止まったような気がした。

 シャーペンの芯が折れる音も、凜がページをめくる指の音も、なぜかずっと耳に残ってる。

「なんなんだよ」


 ひとりごとのように呟いた声が、天井に吸い込まれていく。

 凜は翔太と付き合ってる。それはわかってる。自分が入り込む余地なんて、どこにもない。なのに。机を挟んで近づいたあの横顔。ふいに落ちた睫毛の影。「なんでもない」ってごまかす声。 

 どうしてだろう。今までと同じように、ただ勉強を教えてもらっただけの時間だったはずなのに。


 放課後に翔太と手をつないで歩く凜の姿は楽しそう。でもその笑顔よりも、今日、図書室でふと見せた寂しそうな目が、胸に残って離れなかった。

 なんで、そんな顔、するんだよ。

「あーあ、俺から手放しちゃったんだよな」

 天井をぼやっと見つめながら、勇真はもう一度、深く長いため息を吐いた。


 そして、静かに目を閉じる。眠れそうにない夜だった。



——

 勇真との図書室での出来事――

そんな心の揺れをごまかしたくて、凜は翌日翔太とのデートに行った。


 映画を観たり、カフェでお茶をしたり。翔太は変わらず優しく、手をつないで歩く時も、気遣いを忘れない。


 ふと翔太が言った。

「凜ってさ、勇真が一緒にいる時、すごく自然体だよね。俺といる時よりも、なんか無理してないっていうか」

「え?昔から知ってるからだけだと思う」

「いや、気にしないで。俺、ちょっとだけ、あいつが羨ましいんだと思う」

 それは嫉妬ではなく、どこか寂しげな呟きだった。凜は思わず下を向いた。翔太の手を握る力が、ほんの少しだけ緩んだ気がした。


 その夜、ベッドの上で、凜は勇真に渡した星のペンダントのことを思い出していた。

 勇真の胸元でそれを見たことはないけれど、彼はまだ持っているのだろうか――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ