― たった一言が欲しかった ―
凜は、ベッドの上に膝を抱えながら、灯りを落とした部屋で静かに息をついていた。カーテンの隙間から入る街灯の明かりが、天井に淡く揺れている。
翔太くん、すごく優しかった。
テニス部の練習中も、周囲への気配りも完璧で、部活の仲間からの信頼も厚い。何より、自分を「一人の女の子」として真っ直ぐ見てくれた。
嬉しかったよ。ちゃんと、気持ちは届いた。けれど、すぐに「はい」なんて言えなかった。
ベッドの枕元には、星がキラリと光る。夜になると、ふと目がいくその小さな飾り。
「勇真のばか」
なんで自分から差し出してるんだよ。私の事、なんとも思ってなかったの?離れてた時間が長すぎたの?
本当は言ってほしくなかった。
最近勇真とは、以前と比べて他愛もない会話は出来るようになってきた。
でも、わたしから離れていった勇真は、もう自分への思いは無いんだろうね。
と言うか初めから自分の事なんか恋愛対象じゃないのかな。
胸の奥がぎゅっと縮んだ。
(もういいよ。わたしばっかり、何を悩んでんの?
ずっとわたしの、一方的な勇真への片思いだったんだよね)
半年前、別の男子から告白されたとき、凜は迷わず断った。理由は簡単だった。
勇真が好きだから。
幼馴染で、ずっとそばにいてくれた彼。私が男子からチヤホヤされても勇真は特別扱いしない。その自然体が心地よくて、だからこそ惹かれた。
でも、半年が過ぎても勇真は何も言わない。
笑顔で話すけれど、距離は近づかない。
「好き」と言ってくれる想像すらできない。
半年前なら、この告白を迷わず断っていた。
でも今は違う。
「ねえ勇真、今日——」
声をかけた瞬間、勇真は机に突っ伏したまま、片手だけをひらひらと振った。
「……悪い、今ちょっと無理。テニス部の強化練習のせい。眠い……」
(また……最近ずっとこんな感じ)
以前なら、くだらない話でも笑ってくれたのに。
ちょっとした出来事を話せば
「マジで?」って楽しそうに耳を傾けてくれたのに。
ここ最近の勇真は、話しかけてもぼんやりで会話もすぐ終わる。放課後も部活以外の時間はぐったりしていてまるで私を避けているよう——
(疲れてるだけ……だよね?でも、なんか……冷たい)
胸がきゅっと縮む。
理由のない不安が、凜の中で少しずつ形を持ち始めていた。
勇真を待つことに疲れた自分がいる。
翔太の言葉を受け入れれば、孤独から解放されるかもしれない。
勇真の態度は曖昧で、期待するたびに胸が痛む。
布団の中に潜り込んで、顔を隠す。気づけば、目の奥がじんわり熱くなっていた。
(翔太くんは、ちゃんとわたしを見てくれてる
優しくて、真っ直ぐで、誠実で、でも……)
星のペンダントにそっと指先が触れる。
(勇真がひとこと「好きだよ」って言ってくれていたら、わたしこんなに迷わなかったのに)
「帰りたい、あの頃に」
カーテンの向こう、夜空にほんのひとつ、星が光っていた。




