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最強の魔剣士?【エウレア皇紀・異世界編】  作者: 嶋 秀


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第41話(久しぶりの帰国)


 卒業式が終わった翌々日。

 リオーヌは、母国ディアナ大公国への帰国の途に着いていた。

 フラー王国に来た時と異なる点は......シーラー・セリス、西方世界での名はセリス・グドールを同行していることである。



 「汽車って初めて〜」

 王都シャンベルタ駅発フェルメ中央駅行きの特別急行列車。

 ディアナ大公国南部の街フェルメは、夏の間は風光明媚な避暑地として訪れる者が多く、直通列車も運行されている。

 それに乗車して、リオーヌ一行は一時帰国するのだ。


 はしゃぐセリス皇女。

 東方世界には、まだ鉄道というものが敷設されていない。

 だから、新帝国の皇女という高貴な身分のセリスと雖も、鉄道を見るのは人生初の出来事である筈。

 「どうか、お気をお鎮め下さい」

 ただでさえ、人目を引く容姿を誇るセリスが、興奮状態にあることで、一行は異様に目立ってしまっていた。

 『これはマズい』

 2人の護衛役を兼ねるベールは、内心そう感じたので皇女に苦言を呈したが、

 「人のことは言えないだろ?」

 リオがニヤリとしながら一言。

 ベール自身も、初めて汽車に乗った時には、大興奮状態だったからだ。


 「分かっていますよ〜。 ただあまり目立つと、何処で新帝国の目が光っているか、わかりませんから」

 その困った表情を見てリオは仕方なく、

 「セリス様。 少しだけ気持ちを落ち着かせ願えませんか?」

と懇願。

 それで漸く皇女は、はしゃぐのを止めたのだった。



 しかし、その後も御付きの2人からの苦言のことなど何処吹くとばかりに、セリスは大騒ぎ。

 「本当に、こんな鉄の塊が動くの?」

とか、

 「今、ガタンっていったよ〜」

 「あっ、動き出したね〜。 マジで凄い」

等々。

 その様子をじ~っと見詰めているリオ。

 実は、少しの違和感を抱いて。

 それは、

 『セリス様が、ここまではしゃぐ姿を見せるのは珍しい......もしかしたらワザと?』

というもの。

 一方、その機微を察したセリス。

 『初めて見た様なフリをしなければと考えていたけれど......ちょっとやり過ぎたかな......』

 心中では、そんなことを考えていたのだった。

 


 今回の一時帰国にはセリスを伴っているので、特等車を利用のリオーヌ一行。

 「広いですね~」 

 ベールは感心しきりな様子。

 シャンベルタに向かう時は一等車で、その個室でさえ列車としては十分豪華なものであったが、特等車は一編成一車両のみの連結で、しかも車両内に2室だけ。

 室内には豪奢な座席の他に、寝台車としてのベッド、それだけではなく、ソファーまで置かれているのだ。


 「皇女様を同行しているから、大奮発だよ」

 流石の超高価な料金に、リオは渋い表情。

 シ・タン帝国軍時代の大活躍で下賜された莫大な褒賞や、エウレイアがギャンブルで増やして譲られた大量の金貨を考えれば、相当な大金持ちであるにも関わらず、それらの資金は貧しい母国の国庫に入れるべきだとの考えから、無駄遣いをする意思を微塵も持っていない。

 ただ今回だけは、常に新帝国の新体制派からその身を狙われているセリス皇女の警護の観点からも、大枚を叩いたのだ。




 その後、汽車は西方諸国の主要都市をぐるぐる巡りながら、西方世界北東隅にあるディアナ大公国へと歩みを速める。

 行きと異なり、特等車利用であることから、サロンカーを利用する必要が無いので、他の客との大きなトラブルは発生せず、順調な旅路であった。


 その間、初めてセリス皇女と四六時中行動を共にするという栄誉を賜る形となっているベール。

 それで気付いたことが有ったのだ。

 大々的な学院での許婚宣言や、色々な面でのベールのアシストにも関わらず、リオーヌと皇女は男女の一線を超えていないのでは無いかという疑問に。


 道中、キスをすることも無ければ、甘える様子も全く見せない2人。

 恋人同士であれば、特別長距離列車の特等車はムードが盛り上がるのに最高の環境だ。

 車内の調度品は最高級。

 流れる車窓の景色もロマンチックで申し分ない。

 しかも、特等車には従者用の控室座席が設置されており、ベールは気を遣ってあえてそちらで過ごし続けていたのに、どう見ても2人の関係は姫と従者の範疇から出ていない。

 リオーヌは、常に謙った態度で、言葉遣いは敬語。

 セリス皇女も、学院での態度とはだいぶ異なり、相手が大公国の公子であるリオーヌに配慮し、それなりの丁寧語を使っている。


 そこで、思い切って確認してみることにしたのだ。



 「あの〜」

 「ベールが言いづらそうにするなんて、珍しいね」

 座席に座っているリオはいつも通り、少し茶化す様な言い回しで、続きを促す。

 その時セリスはソファーで寛ぎながら、流れる景色を眺めていた。

 「お二人は、男女の契りを結んだのではないのですか?」

 その直球な質問に、リオは驚いた表情を見せる。

 一方、皇女は視線を車窓からベールの方へ。

 厳しい視線と思いきや、意外にも少し微笑む様な感じであった。


 何から話すべきか、リオは困っていると、

 「結んでも良いのだけど、鎮軍大将軍に降嫁を命じられたのに、そこまでシてお祖父様に歯向かってしまうと、関係修復は見込めなくなるでしょ?」

 質問に答えたのはセリスの方だった。


 「確かにそうなりますが......」

 ベールは腕組みをしながら考え込む。

 しかし、皇帝陛下の意向に逆らうと覚悟を決めて帝国国外に出奔した以上、リオーヌとの関係を固めるのは早い方が良いのでは?と改めてその意思を確認してみる。


 すると、

 「もし学院に居る時に、私がリオと男女の仲になってしまうと、私もリオも、そしてベールさんも、いずれみんな敗北し、新帝国を乗っ取っるマヤ・カトルに殺されてしまうわ」

 突如、そんなことを言い出したのだ。

 「どうして、そのようなことが言えるのでしょうか?......」

 余りにも突拍子も無い説明に、首を傾げるベール。

 「私は未来が少しだけ見えるの。 ファラファロの能力のお蔭でね」

 その返答に、言葉を失ってしまう。


 無言の時間が少し続く。

 「そういうことらしいよ。 セリス様が予知者なのかは知らないけど」

 ある疑問を抱いているリオは、微妙な言い回しをしながら、皇女の表情を見詰める。

 この時点では、まだ詳しい説明を受けていない。

 しかしその眼差しには、何か意味が込められているように皇女には感じられた。


 仕方無いという表情に変わったセリス。

 「少し言い方を変えるわ。 私は未来が見えるのでは無く、知っているのよ」

 漸く真相を仄めかす。

 自身は予知者では無く、転生、というよりは、同じ人生を何度もやり直している『回生者』であることを。


 それを聞き、

 『やはり......』

という感じで頷くリオーヌ。

 その仕草に皇女は質問してしまう。

 「リオはどうして気付いたの?」

 「先日の刺客の襲撃で、僕に助けを求めなかったよね? だからだよ」


 いくら非常に高位な術師と雖も、複数の術師から襲撃されれば、防ぎ切れるものでは無い。

 だがセリスは、リオやベールの応援を求めず、一人で撃退してしまった。

 一応、キノルザ・オグニと2人で迎撃したと説明したが、神出鬼没で何処に居るのか分からないオグニに、もし応援を求めていたのならば、同じ学院に居るリオ達の援護を求めなかったのは、著しく合理性を欠く行動としか言えないからだ。


 「やっぱり、そこか〜。 難しい判断なのよ。 あの時の対応も、ね〜」

 溜息を『ふ~』と吐く。

 「カトルが送り込んだ術師は、ランク8とランク7の合計5人だと聞いたけど......」

 「カトルが直接送り込んだ者は5人だけど、西方世界でスパイ活動を続けている術師も合流していたから、本当は10人よ。 予め、誰が、いつ、どのように襲撃して来るか、それを知らなければ、ランク10の私でも独りでは敗北して、間違いなく新帝国に連れ去られたわ」

 「皇女様が、ランク10の術師?」

 ベールは新事実を知り、思わず声を上げたが、セリスは聞き流し、説明を続ける。


 「でも、私は全て知っていた。 だから、待ち伏せして、奇襲を掛けて撃退し、一人を生け捕りにしたの」

 「僕達の援助が有った場合には?」

 「リオ達が加勢したら、10人中9人は殺すか生け捕りに出来たでしょうね。 でもどうやっても絶対に一人には逃げられてしまうの」

 「なるほど。 僕の援護が原因で、国家間の同盟関係にヒビが入るってことか〜」

 「その通り。 大公国が盟約を破ったと判断され、カトル率いる大軍が襲い掛かって来るわ。 大公国も善戦するけど、多勢に無勢で最終的に敗北。 ベールさんやリオの大事な人達の何人かが人質になって、私は降伏を余儀なくされる......。 でも、私一人で刺客を撃退すれば、次の襲撃も術師の送り込みになる筈なのよ」


 皇女は、最後の『筈』という部分にあえて力を込めて説明した。

 いくら何度も同じ人生を経験した回生者であっても、今生きている世界の未来が、自身の知っている未来と必ず同一になる保証は無いからだ。

 その意味を理解したリオとベール。

 「これから色々な出来事が発生するわ。 大切な方が亡くなる場面にも遭遇する。 でも基本、私を信じて欲しい。 私は周囲に居る大事な人達が、最善な人生になるよう行動して行くから......」

 珍しく作り笑いを浮かべたセリス。

 彼女の選択と行動次第で、人々の人生が大きく変わる。

 リオーヌは、それを何となく感じ、今後の行く末に初めて不安を覚えたのだった。





 一方、フラー王国の王都シャンベルタでは、王宮や学院のある、王国の最重要地域で、黒焦げになった遺体が三体発見され、騒ぎとなっていた。


 「身元不明なのだね?」

 近衛師団長シュルツェル伯爵は、部下達の報告を受け、念押しの確認をする。

 「ええ」

 「王宮一帯で、行方不明者の届け出は?」

 「今回発見された遺体と合致するような人物は、全くおりません」

 「そうか......」

 「背格好や、現場に残っていた数少ない遺留品から考えると、東方世界の人物ではないかというのが、事件を担当している王宮警護隊の見立てです」

 「成る程。 では、シ・タン帝国が西方世界に送り込んだ諜報員かも知れないね?」

 伯爵はその様に自身の考えを述べると、アンフルル学院に使者を派遣するよう指示を出した。

 東方世界と縁があるリオーヌ・ディアナ達の意見を聞いてみようと思ったのだ。


 しかし、

 「ちょうど学院は夏季休暇に入り、大公国の公子殿も一時帰国する為、王都を既に出発し、出国しているとのことです」

 その報告を聞き、伯爵は非常に残念な表情を見せていた。

 黒焦げの遺体は、何らかの魔術によるものだと断定されており、犯人を特定する捜査が始まっていて、フラー王国に居る魔術師全員が取調べの対象となる騒動となっていたからだ。


 「公子殿の許婚と言っていた、特級魔術師クラスの女子学生が居た筈だよね?」

 伯爵は、執事のゾイドに尋ねる。

 「はい。 その学生もリオーヌ殿に同行して、大公国に向かった模様」

 その返答に、渋い表情へと変わった伯爵。

 今までの王宮警護隊の調査では、遺体の損傷に該当する様な魔術を使える者が見つからず、疑いがその女子学生、即ちセリス皇女にも向いている状況だからだ。

 「仕方無いね。 私が大公国に向かおうかな?」

 シュルツェル伯爵の決断に、頷くゾイド。

 早速出発の準備に取り掛かるのだった。




 やがてリオーヌ一行は無事、母国ディアナ大公国南部の都市フェルメに到着した。

 「公子、お久しぶりです〜」

 ジーン・ルカールが出迎えに来ている。

 「久しぶりだねジーン。 元気みたいで何より」

 リオの懐かしそうな表情に、少し涙が滲む。

 しかし、感慨に浸っている暇は短かった。

 ベールが鋭い眼光で睨んでいたからだ。

 「やあ、ベール......」

 ジーンはそこまで話し掛けたところで、羽交い締めにされてしまう。

 「公子に止められてなければ、今頃、お前の首は、ホーム上に転がっていたところだ」

 凄味の効いた声で言われ、

 「ひ〜」

と、だらしない声を上げる。

 傭兵上がりとは言っても、ジーンは参謀であって、ベールのような腕っぷしの強さは持ち合わせていないのだ。


 その様子を見て、クスクス笑うもう一人の人物。

 全身をすっぽり覆う服装なので、その顔は確認出来ない。

 「公子。 こちらの方は?」

 首を傾げるジーン。

 公子一行は3人だが、背格好からどう見てもアルートには見えない人物。

 『誰だろうか〜』

 改めて、考えていたところであった。


 「こちらの方は、セリス・グドール様だよ」

 「グドール?」

 ジーンの記憶の片隅には、確かにその姓が引っ掛かっていたものの、ピーンとは来ない。

 「グドール、グドール......あ、っと、大商人の貴族様ですよね? 世界を股にかけて希少鉱石を扱う......」

 流石、参謀出身。

 リオがウンウン頷いて、ジーンの頭を撫でて褒め称える。


 「ということは......まさか......」

 ようやく脳内のシナプスが完全に繋がったジーン。

 シーラー・シュン国王に嫁いだグドール家出身の側室が産んだ双子が、キョウ皇太子姉弟。

 そのことは、新帝国軍の指揮官級以上であれば、大概の者が知っている。

 そして、セリス・グドールという名乗りは、キョウ皇太子の姉の皇女セリスを指し示す、別名に他ならない。

 慌てて、謎の人物に跪くジーン。

 「申し分ありません。 皇女様とは知らずに......」

 反射的なその動き。

 新帝国軍に属していた将官ならば、そうした反応をするのは致し方ないことであった。


 「ジーン。 あまり目立つ行動は駄目だよ」

 リオーヌが優雅に制止したことで、ジーンが跪いた相手が、大公国の公子に対してであるよう、周囲を歩く人々から見える様、その場を取り繕う。

 「ダメですよ、ジーンさん。 今の私は、リオーヌ様の許婚というだけの存在ですから、ねっ」

 セリスは少しだけフードをずらし、ジーンの方に顔を見せつつ、笑い掛ける。


 「詳細はみんなが揃ってからだ。 ジーン、行くぞ」

 ベールがジーンの体を強引に引き上げると、そのまま駅の外へと連れ出す。

 それに続く、リオとセリス。

 「皆様にご挨拶しなくちゃね、リオ」

 そう言いながら、嬉しそうに腕を組んで来たセリス。

 その胸が当たる柔らかい感触が腕から伝わり、緊張してしまうリオーヌであった......

 


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