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最強の魔剣士?【エウレア皇紀・異世界編】  作者: 嶋 秀


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第40話(尋問後)


 リオーヌは魔剣ティルの剣先を、檻の中に居る、意識の無い男の頭部に向けてから、質問を開始。


 「シ・タン帝国の情勢は? 簡単に申してみろ」

 すると男は、無意識のまま語り始める。

 「盟友のレイオルが死んだ影響かそれは分からぬが、皇帝は健康を害し、横臥している時が増えた。 そこでひとまず長女のメーリンが摂政の地位に就き、皇帝代理を務めているものの......お前も知っているだろ? メーリンは性格が悪く人望が無い。 そういった情勢から、今や名将と評判が高い鎮軍大将軍のマヤ・カトル様が、帝国の軍政を事実上統轄しておられるのだ」

 「皇太子は?」

 「ああ、それはキョウの方のことか?」

 「方? 勿論そうだが......」

 「南方の不服従勢力の討伐に大軍を率いて出征したが......あんな烏合の衆如き簡単に制圧出来ぬようじゃ、その程度の実力だということだろうよ」

 「その程度?」

 「レイオルのジジイや、仮面の貴公子、それにクラス10の得体の知れない術師も居たな......名前は忘れたが、そうした連中の補佐が無くなったぐらいで苦戦するようじゃ、カトル様の足元にも及ばない才幹ってことだろ?」


 捕虜となったクラス7術師の男は、リオーヌの精神操作と魔剣を通した魔術の効果で、質問に対し饒舌に語る。

 マヤ・カトルの配下の者達は、主君同様相当な自信家であるようだ。


 「皇女セリス様のことは、何処まで聞いている?」

 「高位の術師らしいな? だから、俺達ランク7と8という上位術師が西方に派遣され、連れ帰るよう指示が出されたのだ」

 「連れ帰る?」

 「光栄に思って欲しいぞ。 カトル様の奥方になれることは、今の帝国においてこれ以上ない名誉なことだからな」

 「皇女様のご意思は?」

 「そんなものは関係無い。 耄碌したとは言え、皇帝陛下直々の勅命が出されている以上、従うのが皇帝一族の務めだ」

 「そうか......」

 リオーヌは小さい声で呟くと、一旦尋問を打ち切る。


 それに対し、ベールが、

 「もう少し、色々聞いておいた方が良いのでは?」

と促したが、

 「クラス7ならば、僕の精神攻撃魔術を自力で打ち破れないから大丈夫だよ」

 そう答えると、眠そうに欠伸をする。

 そして、自室へと戻ってしまうのだった。




 翌朝。

 室内に人の気配が現れたことで目覚めたリオーヌ。

 『リオ、皇女様がやって来ているぞ』

 魔剣ダィンの声を聞き、少し慌てた様子で簡単に身繕いをし、セリスの前に進み出る。

 すると皇女は、ご機嫌斜めな様子で玄関に立っていたのだ。


 「おはようございます、セリス様」

 相変わらず、「様」付けで話し掛けてしまうリオーヌ。

 それも気に要らないので、益々不機嫌に。

 「オグニからの指示、ちゃんと聞いてた?」

 「ええ。 尋問しておくようにという......」

 「で?」

 「はい」

 「敵の情報、全然聞き出してないでしょ? 状況はベールから聞いたわよ」

 呆れた表情に変わったセリス。

 リオには少しノンビリした面が有るのだが、それが見事に発揮されていたからだ

 「セリス様立ち会いで尋問した方が良いと思ったので......」

 珍しく言い訳をしてみたものの、これは逆効果であった。


 「今、帝国の重臣で誰がカトルの味方なのかとか、皇太子を挿げ替えようと画策しているとか、捕虜から聞き出すことは満載の筈よ?」

 しかし、セリスの苦言にリオは馬耳東風な様子。

 終いには、

 「怒った顔もカワイイよね、セリス様は」

と言い出したので、説教を止めることにしたのだ。


 「ホント、調子狂うわ」

 リオーヌらしい反応の連続に、そう言いながら笑い出したセリス。

 『概ね、私が知っている通りに時間は流れているみたいね』

 内心でそう考えながら、

 「あとで、改めて尋問しましょう。 授業に出る準備をしなさいな」

 そう言い残し、魔術を使って姿を晦ましたのだった。

 

 


 放課後。

 皇女も立ち会って捕虜の尋問を再開したが、セリスが想像していたよりも、クラス7の術師は小者であることが判明しただけ。

 カトルの企ての全容を知っているような重要人物では全く無かった。 


 「リオ〜。 キチンと説明してくれれば、私に怒られずに済んだのに〜」

 リオーヌがロクに尋問せずに打ち切っていたのは、この術師が余り情報を持っていないことに気付いていたからだと皇女にも理解できていた。

 「もしかしたら、セリス様の知りたい情報が有るのかなと思ってね」

 そう答えながら、朝、ムッとしていた可愛らしいセリスの姿を思い出し、萌え萌えのリオ。

 それに気付いた皇女は、やや恥ずかしそう。


 「で、どうします? 皇女様」

 ベールは捕虜の今後の処置を尋ねる。

 「東方世界に帰してあげましょう。 少し記憶を操作して、今後は術師では無く、一般人として生きて貰うことを条件に」

 答えながら、セリスは捕虜に魔術を掛ける。

 既にリオの闇の魔術を受けた悪影響で、この男自身の生きて来た記憶に大きな欠落が生じている状態だったので、『魅了』の能力と記憶操作の魔術を重ねて掛けることで、リオーヌやセリス達に無害な人物へと変貌させ、解放することにしたのだ。


 やがて、男の姿は地下牢から消失。

 東方に向かう貨物船内に遷移させ、自然に帰国させる形にしたのだった。


 

 「セリス様。 ちょうど夏季休暇になりますし、一緒に大公国へ行きますか?」

 リオーヌの提案に、迷うことなく頷くセリス。

 このまま自身だけが学院に滞在し続けた場合、カトルがクラス9の術師を複数人送り込んでくることで、リオーヌとベールが不在という不利な状況では、自身が囚われの身になるだろうことを、ファラファロの能力がもたらす予知夢で知っていたからであった。

 「そうと決まればベール、帰国の準備を」

 「アイアイサ〜」

 久しぶりの母国への帰還に、ベールも心なしか嬉しそう。

 「そうだ、ひとこと言っておくけど、ジーンへの報復はするなよ」

 リオは、学院に来た時のボロアパートのことを思い出し笑いしている。

 そんな様子を不思議そうに見ているセリスであった。




 一方、新帝国の帝都オウランでは、大皇宮近くの広大な邸宅内で、スマ・カトルがセリス皇女連れ戻しに失敗した部下達からの報告を受けていた。

 「完全に失敗とはな」

 意外な結果だが、怒ることは無く、冷静であった。

 「まさか、一人でクラス7・8の術師5人を相手にし、我等の刺客を打ち負かすなんて......」

 鎮軍大将軍最側近のクラス9術師リノサ・ケレルが絶句している。

 「皇女はそれだけの力量を持つ術師ということだ。 あの目障りな魔剣士が助勢した訳では無いというしな」

 カトルは報告書に目を通しながら、ケレルの方に視線を送る。

 「セリス皇女様は、少なくともクラス9以上の術師ということになります」

 ケレルの返答に、

 「未認定だが、おそらく10に匹敵する力量を有するのだろうよ。 最高位が増えたということだ」

と答える。


 そして、

 「絶対に我が物にしなければな。 まさか、あの小娘にこれ程の貴重な価値があるとは......」

と言い、嬉しそうな表情に。

 それは、

 『セリスさえ手に入れれば、残る皇族は一掃し、耄碌皇帝に譲位させれば、東方世界の権力は全て我がモノ。 以後、術師の全てを統括することも容易くなるだろう』

と考えたからだ。


 「ケレル。 皇女の身柄を絶対に確保しろ。 人員は必要なだけ連れて行け」

 「はは〜」

 主の指示を受け、即準備に取り掛かる。

 カトルの元には3人のランク9術師が居る。

 9と10の差は、実は紙一重。

 術師としての能力に大差がある訳ではない。

 一対一ではおそらく負けるだろうが、三対一では間違いなく勝てる。

 それが東方術師の世界での常識。

 ケレルは早速、他の2人との連携を模索し始めるのだった。




 時は前後して、学院高等部3年次の卒業式の日。

 それは、セリスが襲撃を撃退してから5日後であった。

 修了証書を学院長から受け取るだけの式典であり、現代のように盛大に行われるものでは無い。

 ただし、保護者や家族の出迎えのような習慣は確立されており、多くの賓客が来訪してきていることから、賑やかなものではあった。


 「公子の出迎えは......来ていませんね〜」

 ベールが従者の代わりの役目を務めてくれているので、誰も居ないという状況では無いものの、寂寥な感じは否めない。

 「あら。 私も居るのだから、他家に引けはとらないでしょ?」

 着飾ったセリス皇女がリオーヌの家族のように振る舞っているので、華やかさは随一だと言えなくもない。


 「主賓に晴れ晴れした表情が見られないからですよ。 何となく雰囲気が暗いのは」

 折角の卒業なのに、リオーヌは浮かない顔をしている。

 スマ・カトルが皇女を拉致しようと刺客を送り込んで来て以降、気分が晴れないのだ。

 「リオ。 そんなに心配しなくても私は大丈夫よ」

 対照的にセリスはいつもと変わらない様子。

 こういう図太い神経は、子供の頃から。


 「勅命が出た以上、撃退しても撃退しても、次々と送り込んで来るよね?」

 「でしょうね」

 「じゃあ、全然大丈夫じゃないと思うけど......」

 「心配してもキリが無いわよ」

 「でも......」

 「当面は、私が大丈夫というのだから大丈夫。 ダメな時はダメだって言うから」

 「それって、絶対?」

 「絶対よ」

 妙に自信のある態度の皇女。

 何か裏事情を知っているのかな?とリオは推察していた。

 セリスは『予言の術師』という異名があることをリオーヌは帝国に居た頃から聞いていたし、彼女のその予言がかなりの的中率で当たることを実際目の当たりにもしていた。


 「卒業式が終わったら、速やかにディアナ大公国に行きましょう。 それでカトルの刺客達の襲撃を一度は躱せる筈だわ」

 心配性のリオーヌを安心させようと、セリスは今後の展開を予想してみせる。

 それを聞き、漸く笑顔になったリオ。

 『やはり、予知能力が有るのかな』

 セリスの実力に疑いを持っては居ないが、新帝国はこの世界で最大の国家。

 そんな存在から狙われ続けるというのは、魔剣士のリオーヌであっても、薄気味悪さを抱かずには居られないのだった。

 

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