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☆転生したら私がゲームの隠しキャラで不思議ちゃんなの?〜★スタータイド!★  作者: 黒井影絵
第5章 決着編

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スタータイド〜恋は銀河を超えて

■スタータイド〜恋は銀河を超えて


『アリスーー!!!無事かぁあああー!!』


 ……ここ最近の朝は大変騒がしい。


『今そっちに行くからなぁぁぁぁー!!』

「いや、無理でしょ……」


 今、私達がいる場所は、銀河ジャンクション『スターライン・ステーション』と呼ばれる巨大都市型構造体だった。

 ここには、あの“門”を大きくしたようなワープホールが複数設置しており、宇宙船が別の銀河系へと遠距離移動をする交通の要となっている場所のようだ。


 ここから故郷の星とは量子通信を用いたリアムタイム通話が可能なのだが、その貴重な回線を使って、狂ったシスコン兄さんチャールズは、毎朝この雄叫びをする。


「こっちでの留学が終わったら、すぐ帰るから。今来たら入れ違いになるよ?」

『うがぁあぁぁあぁ!!!』


 今回私達が来た方法はかなりイレギュラーな形式で、本来の正規ルートを用いたら、片道で年単位の時間がかかるらしい。

 上層部の意向としては、銀河連邦に未加入の惑星上に作られた“門”――と呼ばれる、ポータル――は、全て封印する方針だ。

 しかし、調査船によって、あのアステロイドベルト・ステーションのポータルは座標の調整が施されて、この銀河ジャンクションに通じており、さらにあそこから月面基地へのポータルが開通したらしい。

 月から母星にはプルマが変身したUFOに乗れば大気圏突入が可能だとのこと。

 だから、私達に関しては、戻ろうと思えば早めに帰れる状態だ。

 とは言っても、元々、リーブラ機関の一員で幹部候補である私達の留学は以前より計画されていたもので、せっかくの機会だからと予定を前倒して滞在している。


 私は毎朝発狂寸前の兄を宥めるのに少し疲れてきた……。



 ――その後の朝食で、


「あらあら、では、アリス嬢の貞操は死守されていると、わたくしが証言いたしましょうか?」

「余計に面倒くさくなりそうだから、やめて」

 家族との朝の定期報告の様子を聞いたクリスティーンは悪ノリしてる時の顔で宣った。

 ただでさえ、何をしでかすか分からない兄に変な燃料投下は勘弁して欲しい。


「本当に困った人だな」

 バーナードは苦笑している。

「突然の事だからな、仕方ないだろう」

 ダンは当たり障りのないコメントを返すが、あの兄の事だから何があってもおかしくはない。

 未発見の“門”を探索するとか、禁忌に手を出すとか……。

 流石に自力で惑星の引力圏を突破するのは不可能だと信じたい。


「ほんと、愛されてるわねー!アリスちゃんってば!!」

 朝食が並ぶテーブルの中央にいる美女が目を細めて私の頭を撫でた。



 救助船がここに到着した時、彼女は船から降りた私達に向かって一直線に駆け寄り、バーナードを抱きしめた。


 身長六フィート越えのトップモデルばりの長身に、青みがかった長い銀髪、それと恐ろしく整った美貌――一目見ただけで何者かが、一目瞭然すぎた。


 彼女こそが、このスターライン・ステーションの最高責任者である総領事で、銀河連邦議会の議員。


 その名はライラプス・シリウス。

 バーナードの生みの母であった。


 ――『ライラと呼んでちょうだい!イシュタールの末裔とウチの子が縁が持てるなんて本当に光栄だわー!』


 ライラは初対面でそう言って、私を熱烈にハグした。

 彼女は上流階級の人間とは思えない程、気さくな優しい人で、私達の事も暖かく迎えてくれた。



 一般に難しいとされる嫁姑問題を穏便にスルーできそうで安心している私とは対照的にバーナードは少し機嫌が悪い。


「あまり、アリスにベタベタしないで欲しい」

「やだっ、バニーちゃん!ヤキモチ?ヤキモチなの?普段碌にママに連絡も寄越さないのに、可愛いお嫁さんを独占するなんて酷いわ!もー、成長したら梨の礫の息子なんて生むもんじゃないわねー。やっぱり可愛い娘が欲しかったわー」

「……」

 バーナードは思いっきり苦虫を噛み潰したような顔をした。



 ここに来てまもなく開催されたお茶会と言う名の女子会に私とクリスは招かれ、そこでバーナードの昔話に花が咲き、沢山の秘蔵画像を見せてもらえた。


 ライラは若い頃、セレスティアル学園に留学生として入学し、そこでバーナードの父フランクリンと出会い、二人は恋に落ちる。

 卒業後、ライラはリーブラ機関の幹部、フランクリンはパイオニア帝国皇太子となり、機関の任務を通じて交流を重ねた。

 後に彼女は愛妾の名目で離宮に住まい、そこでバーナードを出産したそうだ。


 その幼少期のバーナードの画像は――殆どが女の子の服装、青いドレス姿だった。

 帝国の皇室に伝わる風習らしいが、実に良く似合っていて、まるでフランス人形のような可憐さだった。


『あの頃は甘えん坊で可愛かったのに……』


 ライラが溜息交じりで語っていると、バーナードが憤怒の表情で乱入して画像の削除を必死に訴えるが、時既に遅く私達は十分に堪能した後だった。



 それ以来、事ある毎にクリスは『あの頃は可愛かったのにね〜』とバーナードを煽るようになる。

 ……後で宥める身にもなって欲しい。



「もー、そんな怖い顔で睨まないで。ママは義理とはいえ娘が出来て、本当に嬉しいのよ、バニーちゃん」

「今まで息子が必死に作り上げてきたイメージをぶち壊しておいて、悪びれないでください」

「世界を滅ぼしかねない魔王のイメージよりかは、全然マシだと思いますけど?バニーちゃん?」

 クリスは真顔で容赦ないツッコミを入れる。

「マジで寒気がするから、アリス以外は僕をちゃん付けで呼ぶな」

「私はいいんだ……」

 いや、私でもバニーちゃん呼びは流石にちょっと……。

「アリスはいいんだよ」

 バーナードがニコニコしながら私の手を握っているのを見て、ライラは心底嬉しそうに微笑む。

「気難しいウチの子をここまでメロメロにするなんて。流石イシュタールの娘ねぇ!」


「見せつけてくれますねぇ」

「手綱はしっかり握ってくださいよ、アリスさん、平和の為にも」

 クリスとダンは外野らしく適当なことを言っている。

 私の膝の上では、プルマが肩を竦めて『ヤレヤレ』みたいな音を発した。

 このまま成長したら、そのうち人語を話しそうな気配だ。




「ところで……」


 朝食に出されたフルーツ入りの杏仁豆腐のような食物を食べ終え、限りなく本物に近い合成コーヒーで一服した後、私はライラに尋ねた。


「結局、イシュタールとは何なのですか?」


 私は、これまで事ある毎に『イシュタールの娘』と呼ばれた。

 しかし、その言葉が持つ意味が、どこか熱情を伴う響きを、私は未だ理解してない。

 バーナードに尋ねても『それは母上に聞いた方がいい』と、明言を避けてきた。


「イシュタールとは……星の民が崇拝していた女神なのよ」


 ライラは謎めいた微笑みで、星の民の伝承を語り始めた。



 イシュタールは、超常なる力を持つ星の乙女の一人で、多くの人々に崇拝された結果、愛を司る上位存在となった。


 彼女はある日、化身(アバター)を纏って地上に降りて訪れた酒場で吟遊詩人の歌を聴いて感動したの。


 それが、スタータイドの元になった恋愛物語。


 若者達が織りなす愛と冒険の叙事詩をイシュタールは大いに気に入った。


 ……だけど、その物語の結末は、恋人達の死で終わる悲劇だったの。


 彼女は悲恋の物語に涙して――そして心から祈った。


 ――せめて、どうか、新しく紡がれる物語の中では、恋人達の愛が成就しますように、と。


 彼女の強い思念は四方に放たれ、宇宙を駆け巡り、多くの知的生命体に霊感(インスピレーション)を与えたわ。


 やがて、その祈りは銀河を超え、貴方達の前世である太陽系第三惑星にも到達し、三人のクリエイター――スティーブ・ベクター、アレックス・ギャラガー、トゥーラ・ハルマ――にもアイデアをもたらした。

 彼ら三人の創造者(クリエイター)は熱意を持って開発に打ち込み、そうして出来たのが、貴方達が知るゲーム『スタータイド』!


 プレイヤーの行動と選択によって数多の結末が用意されている複雑な恋の物語。


 イシュタールの願いを元に多くの芸術作品が作られたけど、彼女はこの『スタータイド』というゲームが一番気に入ったの。


 彼女はハッピーエンドが大好きだから、努力すれば夢が叶う、喜怒哀楽で彩られた青春が煌めく、このゲームにのめり込み……。


 遂には、この物語を現実の物とする為に、自身の魂を注ぎ、ゲームを元にした新たな宇宙(バース)を創造したの。



「……えっ?……じゃあ、まさか……?」

 私達は予想外にスケールの大きい話に戸惑った。

「我々が住む、この宇宙は一種の仮想世界……上位存在が創ったシミュレーションだと?」

 ダンは呆然と呟いた。


「そういう事になるかしら?といっても、その中に住んでいる私達には虚実の区別なんて付かないのよね。星の民に代々言い伝えられる伝説があるというだけ。オリジナルのスタータイドのソースコードと共にね」


 私とダンはライラが語る途方もない事実に呆然としている横で、クリスは涼しい顔で言った。


「なるほど。まぁ、わたくし的には想定の範囲内ですね」


 プルマが手を伸ばしてお茶受けのマカロンを取ろうとしているのに気がついた私は、水色のを一つ手に取って彼の小さな手に置くと両手で持ってカリカリ食べ始めた。


 クリスは手に持ったストロー付きのドリンクを一口飲んだ。


「そうでなければ、スタータイドのゲームシステムを反映した物理法則と、シナリオに沿った歴史を合わせ持った宇宙が偶然発生するとは思えませんから。何らかの思惑を持った存在が“そうあれ”と願って生み出した、と考えた方が腑に落ちます」


 ライラは頷いた。


「そして、イシュタール自身も、この世界を体感する為に、古代の時代に自らの分身を人の子として転生し……やがて、彼女の血筋を持つ子孫はイシュタールの一族として、継承された星の力を使いスタータイドの物語を影ながら支え続けたの」


 彼女は天窓から見える星雲を見つめる。


「イシュタールの娘は、代々その愛らしさで人々の心を捕らえ続けた。時に乙女として騎士の寵愛を一身に受け、時に悪女として恋の狩人を翻弄した……その生き様は多様だけど、男女問わず強く魅了する輝きは変わらず、常に人々の崇拝と憧れの対象だった」


 ライラは私の髪を優しく撫でた。


「それでも、イシュタールの一族は歴史に名を残す事はないの。何故ならば、彼女達はイシュタールの願いの顕現……乾いた世界を潤す愛の物語を支える為に暗躍する裏方だから……」


 彼女は少し寂しそうに私を見つめるので、私は応える。


「それで、いいと思います」


 例え、この世界がゲームを基とした仮想世界だとしても、

 人の数だけ、人生の物語はある。

 そして、善人も悪人も、ここを現実の世界として一生懸命に全力で生きていた。


 例え女神の力を持ってしても、独りよがりな欲望で、一度しかない人生の物語を、不必要に捻じ曲げるべきではない。


 “アリス”とバーナードも『予言の書』には名前が書かれてなくても……


 笑顔で日常を過ごせる、小さな幸せがあれば、それでいい。


「そう……あー、本当にアリスちゃんってば、良い娘よねー。薄情な腹黒息子には勿体無いわぁ。ねぇねぇ、こんなの放っておいて、私の養子にならない?」

「いい加減にしてください!母上!何で普通に母親らしくしてくれないんですか!」


 私を挟んで言い争う二人だけど……

 普段の冷静なバーナードからは想像も付かない程、“素”を露わにしている。


 相手に心を許している証拠だ。


「長い間離れて暮らしていても、やっぱり親子なんだなぁ」

 何だか可笑しくなってクスッと笑った。



 その後も研修と訓練の進捗は順調に続き、ぼちぼち母星への帰還の予定が立てられ始めた頃……。


 私はバーナードに誘われて、ステーションでのデートに誘われた。


 言われるままについて行った先は、一番先端にある展望台のような場所で、星空を三百六十度見渡せる絶景ポイントだった。


「うわー!すごーい!!」

「この景色はどうしても、君と一緒に見たかった」


 宝石を散りばめたような夜空を横切る天の川のような星の大河――地上では決して見る事はできない光景に私は目を奪われた。


「それに、そろそろ……とっておきのイベントが始まる……」


 彼がそう言った後、夜空に一筋の流れ星が横切ったのを契機に、次々に無数の星が流れた。


「ええー!!」


 それはまるで、星の海が満ち溢れて洪水となったような……


 文字通りの、星の潮流(スタータイド)


 私は反射的に胸の前で手を結び、願い事を考えた。


 星の民の伝説が真実ならば……

 この世界は愛の女神の願いによって生まれた世界……


 でも、女神の末裔とはいえ、私もアリスも、基本は普通の……ちょっと変わっているだけの女の子で、女神なんかじゃない。

 到底大それた願いなんて出来ない……。


「何をお願いしたの?」


 私の意図を読んだかように、彼は尋ねた。


「うん、この世界に住む、みんなが身近にある小さな幸せに気が付くことができますように……って」


 時に人は、幸せや成功を求めて、旅をしたり戦ったり、あるいは他人と奪いあったりするのだろう。

 だけど、結局のところ大半の人の幸せは、意外と身近にあるのだと私は思う。

 あの青い鳥の童話のように……。

 平穏無事な日常生活が、どれほど貴重であるか……。

 当たり前に感じる幸せの価値に気付けるようにと願った。


 失った後の喪失感でしか、幸せの価値が分からないのは悲しい事だから……。


「君らしいね」


 彼は私の肩を寄せて、その顔を近づける。


「僕の幸せは、今、ここにある。絶対に手放すつもりはない……」


 私は彼の目を見て頷く。全く同じ気持ちだから。


 彼の顔が次第に近づいてきた。


 もう、二人を妨げるものは、ここには何も存在しない。


 私とバーナードは、星の潮が満ち溢れる中、初めてのキスを交わした。


 これで本編は完結です!


 気が向いたら番外編や後日談を付け加えるかもですが、ここで一旦完結とさせていただきます。


 最後までお付き合いありがとうございました!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 本編ラスト更新お疲れ様です。 ラストに登場するにはかなり濃いライラさんですが、彼女の説明を聞くとなるほどねって感じですね。そういう繋がりがあったんですなぁ···。 [一言] この世界の成…
[一言] 楽しく読ませていただきました 本編完結お疲れ様でした!
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