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クリスティーンの夢(1)果てしない物語

「これは一体どういう事でしょうか?説明していただきましょうか、バーナード殿下」


 突然出没したクリスティーン王女は塀から飛び降りて、こちらに歩み寄ってきた。


「……」


 バーナードは無表情で思案した後、彼女に向き合った。


「我々はこれより、秘密基地に移動する予定だ。見られてしまった以上、貴方にも同行願う」

「そうですか……わたくしとて、招かれざる客として内密の会合に割り込んだ無礼は承知の上です……やむを得ないですね」

 彼女はしおらしい台詞とは裏腹に腕を組みドヤ顔で、その場に佇んでいる。

 残念メインヒロインは今夜も通常運転だ。


「では、ダン・スターマン、クリスティーン・ボイジャ。君たち二名を我々が所属する組織の基地に招待する」

「イエス、サー!」

「ええ、案内してもらいましょう」


 二人はそれぞれ了解の意を示し、私たち四人は空飛ぶ円盤が発する光の柱に包まれ、次の瞬間、その内部に転送された。



 アダムスキー型の空飛ぶ円盤の内部は中央に円形のソファが据えられた小部屋で、操縦席らしきものは存在しない。


 私たちは、バーナードの先導でソファに無言で腰掛け、船内はそのまま気まずい空気が漂う。


 十分ほど経過して、何か話題を振った方がいいのかな……と悩んでいたら、円盤はどこかに着地した。



 私たちは光の柱を通じて外に出ると、円盤は光に包まれ、その姿を変える。


 光は二十センチ程の大きさの、宙に漂う白いクリオネみたいな形状の生物に変化して、こちらに近寄ってきた。


『ミュー……』


 近くで見ると、抽象的なデザインのぬいぐるみみたいで可愛い……。

 私は思わず、頭部を撫でてあげると、嬉しそうに私の腕にすり寄ってきた。

 んー、大丈夫だよね?いきなり頭が割れてバッカルコーン!ってならないよね?


「これはプラズマ生命体だ」

「えー、初めて聞いた」

「宇宙に遍在する人間種の始祖が創造した人造生命体の一種だ。もっともこれは機能と性能を削ったライト版だが……」

「あら、これは興味深いですわねー……」

 クリスティーンは私の肩に乗っているクリオネもどきを覗き込んで、じっくりと観察している。


 私は周囲を見渡すと、ここはどこかの山の上のようだ。

 目の前に、研究所のような四角い建物がある。


「ともかく、君たちに話すことも聞きたいことも沢山ある。こちらに来てもらおう」

 バーナードは私たちを促して建物の中へと導いた。



 建物の中はこの世界では良くある感じの魔術や錬金術の工房が、複数ある研究所のように見える。


 その建物内にある応接室に入り、バーナードはローテーブルを囲んだソファの一つに腰掛け、私もその隣に座る。

 二人は私たちに向かい合うように適当に座った。


「さて、まずは、君たちの話を聞いておきたいのだが……」

 バーナードが王女クリスティーンを一瞥すると、彼女は白い手袋に包まれた手をダンの方を差し向けて言う。

「あ、わたくしは、後回しで宜しいです。恐らく長くなると思われるので、先にこちらの方との面談を済ませて頂けますでしょうか?」

 彼女はここのスタッフらしい、サテライト姉妹に差し入れられたお茶を優雅に嗜みながら、目を閉じて寛ぎだした。


「では、ダン・スターマン君」

「はいっ!」

「君のこの世界での経歴は既に把握しているが、まずは前世について聞かせて貰えるだろうか?」


 バーナードの問いかけに、彼は語り始める。


 彼の前世はアメリカ人で、空軍のパイロットだったらしい。

 幼い頃から宇宙飛行士に憧れて、念願の候補生になるが、気がつくと、この世界で孤児として転生していたとの事だ。

 夢半ばで異世界の孤児に転生した上に、ここが科学の進歩が抑制されたファンタジー世界と知り、絶望する。

 しかし、本や大人達の話から得た知識により、ここがゲーム『スタータイド』の世界と知って、彼はうさぎちゃんルートに全てを賭けて行動を開始し、結果最短ルートで攻略を終了した。


「もし、これがダメだったら、一から宇宙開発の組織作りから始めようと考えていた」

 お、おう……これ、本気の奴だ……すごい。


「なるほど……じゃあ、君は、ここにいる彼女に興味があるという訳じゃないんだね?」

 心なしか、バーナードの目と声が強烈なプレッシャーを発している。

「いや……なんというか……その……」

 彼は頬を掻きながら冷や汗を流している。

「攻略していて、すごい事務的だな……と感じてましたし……ゲームと現実は別だと、ちゃんと認識してます」

 ごめんね……演技力が無くってごめんね……。

 どうやら、常識的な人物だったようだ……良かった良かった。

「まぁ、単なるドラッグの売人だったらどうしようかと不安でしたので……そうでなかっただけでも安心しました」

 あああー、そうだよねー、そうなんだよね!

 私も安心したよー!

 自分が売人じゃなくって!!

「必要な訓練と学習を完了すれば、学園を卒業する頃には、君の願いは叶えられるだろう。だが、それまでは組織の一員として君にも任務に携わってもらう」

「何でもします!」

 プレイヤー・ダンとの面談は穏当に終わった。




「では次は君の番だが……」

 バーナードは若干嫌そうにクリスティーンに向き合った。

「わたくしが転生者であるのはリーブラ機関も既に、ご存知でしょう?」

「リーブラ機関の存在を知っているのか……?」

「わたくしも、お飾りとはいえ一応は王族なので……ただ名前と存在理由は存じておりますが、具体的な事は何も分かりません。というより、転生者の存在自体が世間的には無いものとされている故に、王族といえども組織の実在を信じている者は稀なのが実情です」


 バーナードはこの言葉に頷き、話の続きを促した。


「わたくしの前世は、三十八世紀の木星軌道コロニー出身の量子工学博士ユニヴァース・ラブエイジと申します」


 彼女の言葉に三人とも固まってしまった。


 ということは、地球人ではない、と。


「地球は惑星全域が自然保護区域の認定を受け、三十四世紀以降、環境に負荷をかけていない伝統的生活を厳守する少数民族以外は住んでおりません」


 センチネル族とかアーミッシュとかかな……。


「それにしても、千七百年後には人間は宇宙に進出して定住しているとは……人類の科学はそこまで進歩したのか……」

 ダンは感心したように瞳を輝かせる。

「いえ、人類は二十六世紀に一度絶滅の危機に追い込まれました。しかし、宇宙より“星の民”と名乗る種族が太陽系に来訪した結果、銀河人類連邦に加入し、太陽系開発時代の幕開けを迎えたのです。この偉業は地球人単体では到底成し遂げられませんでした」


 いつのまにか未来の太陽系で壮大な宇宙プロジェクトが展開してるよ!

 宇宙ヤバイ!(語彙力)


「ほう……“星の民”がね……その話も興味深いけど……先に、君が何故我々に接触したのか、その理由が知りたい。どうして、あの結界が貼られた場所にいた?」


 バーナードは話の軌道修正をした。


「あそこにいたのは、たまたま、ですね。もしかしたら“うさぎちゃん”に会えるかも、くらいの考えしかありませんでした。結界は……天才のわたくしの力を持ってすれば、すり抜けるのは容易いことです。しかし、他国の要人である貴方が、“うさぎちゃん”の隣に現れたので、思わず声をかけたところ、“組織”という言葉が出てきたので……わたくしの知識では、このような大掛かりなイベントを起こせる組織の心当たりといえば、半ば都市伝説と化している“リーブラ機関”くらいでしょう」


 彼女は手に持ったカップを皿に置いた。


「もし、リーブラ機関が実在するなら……わたくしが、進路コースを変えたことにより、接触をしてくるかも、と期待していたのですが。当てが外れてガッカリしておりました」

「やはり、意図的にコースを変えていたのか……機関の記録では歴史の全てが『予言の書』の通りに進行する訳ではない。その程度は誤差の範疇だ」

「そうなのですね。まぁ、結果的には合流できたので良しとしましょう」

「その口ぶりだと、我々に協力する意志はあると」

「ええ。わたくしクリスティーンは、リーブラ機関に取引を申し出ます」


「取引?」

「ええ、まずは情報交換を致しましょう。そちらの言う『予言の書』とやらの構成を教えてもらえますでしょうか?こちらの認識との擦り合わせをしましょう」

「詳しい内容は部外者には言えないが……正史が六篇、外伝が十五、それにパラレルが三篇だ」

「正史が六……となると、やはり最新作は含まれてないのですね」


「「最新作??」」


 私とダンは同時に声を上げた。


 彼女の言ってる事が真実ならば、現代人からは想像も付かない遠未来に続編が発売されたということになる。

 それ以前に、何故、未来世界の住民である彼女が二十世紀のインディーズゲームの存在を知っているのか?


「わたくしは、量子工学という分野においては、人類連邦でも第一人者でありましたが、二十世紀に誕生した文化である“サブカルチャー”に魅入られ、その発掘と研究に心血を注いでおり、この道においても大家と呼ばれておりました」

「そうなんだ……」

 うーん、それにしても、未来人が二千年近く前の文化にそこまで入れ込めるものなのかな?

「二十世紀人でも、紀元前の神話や伝説にのめり込んで新しい創作に取り入れていたのですから、我々とてその心意気は同様ですわ」

「た、確かに……」

 ダンは腕を組んで唸った。


「第七作……機関の記録でも、そのような物は聞いたことがない。記録では第六作を最後に開発チームは解散したと記されている」

「それはそうでしょうね。前世において、わたくしがプロデューサーとなって作らせた物ですから」


 ……はぁ???


「自分が趣味で作ったものを“正史”に組入れろ、というのか?」

「制作の動機が個人的趣味であったのは否定しません。しかし、わたくしの本業である量子工学を駆使し、第一作目である無印の開発チーム三人の記憶と人格をマザーサーバ内で復元して、彼らに続編の作成を依頼して作らせました。少なくとも、オリジナルスタッフが一人も参加していない、第五第六に比べたら、遥かに“原典”に近いと自負しておりますわ」


 ……。


 ゲームや映画のように、複数の人や会社が関わる創作物が誰の物かは、議論が分かれる話だ。

 しかし、現実問題、社会的にはゲームの持ち主は、製作する権利を所有している“会社”なのだろう。


 しかし……ファンの心理としては……生みの親に続編を作って欲しいと願ってしまうのは、無理もない話だ。


 だが、同じ記憶と人格を持つ人工知能を本人と認める事は妥当なのだろうか?


 バーナードは反論する。

「確かに、第五作以降の制作には原作者は直接関わってないが、後を引き継いだスタッフは、残された資料に基づいて忠実に制作したと聞く。我々の考察でも他の歴史との矛盾や相違はなく、少なくとも語り部は正史であると認めていた」

「ええ。わたくしが、マザーサーバ内のメタバースでオリジナルスタッフと対話した際も、彼らは後継の仕事を高く評価しておりました。しかし、それは正統性とは別の話です。まぁ、その辺は、わたくしが判断することでは無いでしょう。ところで……」


 クリスティーンは私に目を向けた。

 心なしか、頰を赤らめ、もじもじしている。


「あの……“うさぎちゃん”と握手……したいのですが……」

 彼女はそういうと、「きゃ!言っちゃった!」と言い、両手で顔を隠して俯いた。

 バーナードは心底嫌そうに顔を歪めて、私を横目で見た。

 いや、顔……相手は一応王女様なんだし……もうちょっと、取り繕うよ……。


「まぁ、握手なら……いいよー」


 手を差し出すと、彼女はガバッと顔を上げて、両手で私の手を握り、嬉しそうに上下に振った。


 普段は真顔なクリスティーンの表情は崩れプルプル震えている。


「くぅーーー!生うさぎちゃん、可愛いーー!!」


 突然、彼女は鼻息荒く、私に抱きついてきた。


「きゃーーー!!」

「アリスーーー!!!」


 興奮状態の彼女をバーナードが引き離すまで、数分掛かった。


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