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人造巨人対戦闘ロボット

「むろん、勝利する予定だ……だが、失敗して破損したとて、イミル2号への有益な改良データとなる……」


 我が手で誕生させたばかりの死人兵士イミルに対して、フランケンフェルド教授は無慈悲な言葉をはく。彼にとってイミルは次の人造人間製作のサンプルデータにすぎないのだ。


 机上の操縦盤を操作する。これはイルミナティの科学部と協力して作った脳波操縦機だ。イミルのこめかみと首筋、間接部などに刺した電極から受信して命令通りに動く。人間が脳を動かすとごく微細な電磁波、つまり脳波がおこることがわかっている。その放射される脳波をイミルの脳に埋め込んだ受波装置に無線電波を送って各機関を操縦するのだ。教授がイミルに命令し、イゴールがディオニュソスに指示を与えることになった。


「さあ、イミルよ……戦闘ロボットを倒すのだ……」


 脳波操縦機のアンテナから電波が送られ、頭を押さえていた巨人イミルは動きをとめ、立ち上がり、直立不動となった。そして、壁の奥の闘技場へ、のしのしと歩いていく。戦闘ロボット・ディオニュソスは3メートルもあり、イミルが見上げるほど大きい。ロボットが両手をあげてイミルに攻撃をはじめた。


「アウゥゥ……ウゥゥゥ……」


 死体を繋ぎ合わせた怪物イミルが咆哮をあげ、鉄製ロボットと両手を組み、力較べがはじまった。ディオニュソスがマフラー型排出筒から白い蒸気を噴きだし、機関車のようにイミルを押し返していく。ディオニュソスは貨車を鎖で引っぱるほどの馬力がある。苦鳴をあげるイミルは壁の煉瓦塀に押されていった。


「何をしているイミル! 本気をだせっ!」


 フランケンフェルド教授の叱咤と命令で巨人が凄まじい雄叫び声をあげた。


「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……」


 大声をあげた死体巨人イミルは蒸気式機械人形ディオニュソスの左腕を両腕でつかみ、思いきり引っ張った。すると、メキメキと音をたて、鉄の腕が引き抜かれていった。なんという怪力か。そして、鉄の腕を棍棒のように振り上げ、ディオニュソスの頭部に叩きつけた。鉄兜を模した頭部がグニャリとへし曲がった。さらに胸部を叩きつける。連続攻撃で装甲が歪み、ロボットの動きが鈍っていった。


 ロボットが左腰に下げた巨大剣を右手で引き抜き、巨人イミルの腹部に刺し貫く。黒っぽい強化血液が奔流となって噴出した。だが、イミルは痛みを感じないようだ。人造巨人はディオニュソスの右腕をつかみかげ、またもメキメキと金剛力で鉄の腕を引き抜いた。戦闘ロボットの破損部からオイルが血のように吹き出し、白い蒸気が漏れて周囲を霧で覆う。


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 イミルが両腕を失ったロボットの下腹部を蹴り上げ、鉄製巨人を転倒させた。ズシンッと館を揺るがす地響き。イミルはロボットの左手で狂ったようにディオニュソスを滅多打ちする。


「教授ぅ……ディオニュソスはもう、行動不能ですだ……」


「ふぅぅぅ~~… もうよかろう……イミル、動きを止めよ……」


 教授が脳波操縦機で停止命令をすると、壊れた人形のように人造巨人は動きをとめて、元の直立不動の態勢になっていく。


「おおおおっ! 人間兵士十人以上の戦闘力を持つ蒸気式ロボット・ディオニュソスを、イミルの怪力が倒した! 人間の兵士にも、死人兵士にも出来ない事をやってのけた……素晴らしい、素晴らしいよ、教授!」


「ふふふふふ……こいつを量産すれば大きな兵力となろうよ……」


 複数の死体を繋ぎ合わせ、生命の火花により、兵器として生まれた巨人イミル。こんな巨人兵士が量産されたとしたら……これからベルデンリンク帝国は……世界はどうなってしまうのだろうか……


 巨人誕生に沸き返る実験室の外、扉の影で宮葉みぞれは慄然として彼らを見つめていた。こんな残酷な実験は見るに堪えなかった。


「ねえねえ、クララ……イルミナティは死人兵士を使って何をしようとしているのかしら?」


「イルミナティは過激な急進派集団よ。人類を、国家も宗教も法律も私有財産もなかった原始の時代に戻そうという思想を持っているわ。大陸にある君主国家をすべて壊滅させ、全人類が原始時代のように平等となり、独裁者たちによる共和主義政権を建てようという無政府主義者の集まりよ」


「すべての国家の壊滅……でもでも、秘密結社ごときに……そんな莫迦げたことが……できるとは思えないわ……」


「莫迦げたことだけど……不可能とは言い切れない……あの実験を目撃した後ではね……」


 宮葉みぞれの喉がヒリヒリと乾き、声が上ずる。あの超人的な剣士レザーチェでさえ手こずった死人兵士ボルガン、そして、眼前の巨人兵士……これらが大規模な軍隊を編成して各国の首都を攻め始めればどうなるか。


 銃で撃たれても、刀剣で斬られても平気で攻めてくる死人兵団。死人兵士を倒すのにおそらく五、六人の兵士で一体を倒すことは可能であったとして、半数以上の兵士が倒されてしまうだろう。


 イルミナティの死人兵士はたとえ戦場で生命活動を終えても、フランケンフェルド教授の開発した死者蘇生法で再び、戦場に出ることができる。だが、一般人の兵士たちは消耗していく一方だ。これほど恐ろしい軍隊はないだろう。


「でも、そんな事はどうでもいいわ……」


「えええええっ!! そんな事って……」


 みぞれが驚いて大声を出しそうになり、クララが慌てて口を押える。


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