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巨人イミル誕生

「おおおおおおおおおっ!! う、動いた……本当に動いた……継ぎはぎ死体が、本当に動いた……」


「ふふふふふふ……当然だ。私の理論は完璧だからね……」


 口調とは裏腹にフランケンフェルド教授も興奮状態だ。いや、それはクニッゲ男爵やイゴール、物陰から覗くみぞれとクララも同様であった。バッテリーが復旧し、室内に電灯が点(とも)る。


「素晴らしい……素晴らしいぞ、フランケンフェルド教授!!! 死体を蘇生するだけでも奇跡なのに、教授は死体を継ぎ合わせて新しい人造生命体をつくり上げた……神の生命創造に匹敵する偉業だよ……」


「普通の人間を蘇生させた死人兵士は、武装した兵士五人以上の戦力となる。が、巨人の死人兵士ならば、十人……いや、それ以上の兵力となるはずだ……イルミナティ総帥も喜ぶだろうて」


「フランケンフェルド教授……この巨人に名前はあるのかい?」


「名前? ……ふむ、考えてなかったな……巨人(リーゼ)兵士一号……あるいは怪物(ウンゲホイアー)一号でよかろう……」


「いやいや……それでは神の偉業にふさわしくないよ、教授……『イミル』はどうかね」


「ほう……神話の巨人『イミル』か……著述家はうまい名前をつけるな……『イミル』と名づけよう!」


『イミル』とは、北域の創世神話における原初の巨人の名前である。太古の昔、世界はまだ『時間』の概念もなく、月も太陽も、山も海もない時代――ただ、世界には想像を絶するほど大きく深い、混沌の奈落『ギンヌンガガプ』だけがあった時代。


 北にある霧の冥府から飛来した霜(しも)が、南にある炎の民の国からきた熱気に融かされ、滴(しずく)となった。その滴に命が宿り、原初の巨人『イミル』が誕生する。イミルの力を恐れた三人の神々は彼をなんらかの手段で殺害した。


 その血は大奈落ギンヌンガガプを埋めるほどで、現在の海となった。神々は巨人イミルの胴体部分をつかって大地を造りあげた。そして、頭蓋骨から天を造りだし、骨から岩を、髪から樹木を造り出した。すなわち北域神話によると、ラドラシア大陸はこの大巨人イミルの死体から造られたものだったのだ。


 クニッゲ男爵のなんとも大仰なお世辞であったが、フランケンフェルド教授の傲慢な自尊心をくすぐり、満更でもないようだ。


「アウゥゥ……アウゥ……アァァァ……」


 実験台の巨人は苦鳴のような声をあげ、よろよろと上半身を起こした。クララとみぞれが遠近感がおかしくなったと思うほど巨大に見える人造生命体であった。縫い合わせた粗末な服を着て、大きな革靴を履いていた。


「おおっ……目が覚めたか……お前の名は『イミル』だ……医学史上画期的な新造生命体だぞ!」


「そして、イルミナティの誇らしくも頼もしい巨人兵士第一号なのだよ……あははははは……」


 フランケンフェルド教授とクニッゲ男爵が狂ったように哄笑する。それに反して、上半身を起こした巨人イミルは、包帯で包まれた頭部を、両手で抱えて苦しげだった。


 その肌は青く、頭部は四角く扁平な額をしており、乱れた黒い髪。双眸は半眼で薄く光っていた。こめかみと首筋に電極が刺され、全身に縫合線があった。物陰からのぞくクララとみぞれは、その想像を絶した恐ろしい姿を見て、言葉を失った。


「ところで、教授……イミルは昨晩、脱走したボルガンの二の舞にはならないだろうね……」


「……ボルガンか……あれは、イルミナティの兵士訓練所が脳を損傷させたせいで、暴走したのだ……私の管轄外だ」


「ふむ、そうか……しかし、私は科学者ではないのだが、死人兵士について一つ疑問がある」


「なんだね、男爵?」


「今までの死人兵士たちの誰一人として、生前の記憶がないのは何故かね? 死人兵士の知り合いと引き合わせても反応は皆無だ。やはり、宗教学でいうように、一度、冥界へ行った魂は二度と現世に戻ることができないからかね……」


「ふふふふふ……あいにく私は無神論者の科学者だ。冥界だの、魂だのは信じていない。それは、脳死した大脳を甦らせるため、脳細胞活性化薬液を使っているためだと思う。薬液で大脳の神経ネットワークが再構成されたので、別の記憶、別の人格にならざるを得ないのだ……」


「ふむぅぅぅ……なるほど、難しいものだね……だが、記憶がリセットされるのは兵士として都合が良い。自我なんぞあると、戦場で恐怖したり、上官に盾突いたり、ストライキを起こしたりとロクな事がないからな……」


「優秀な兵士、軍隊とは指揮官の命令通りに動くことが肝心だからな……」


 宮葉みぞれは男爵と教授の会話に嫌悪感を抱く。人間を便利な道具としか思っていない傲慢な考え方だ。


「それより男爵、さっそくイミルの戦闘実験を始めるぞ……よく見学して、総帥に伝えてくれ」


「おおっ! そうだったね、教授。イミルの実力をこの目で確かめねば……」


「イゴール、あれをっ!」


「わかっただ、教授」


 イゴールが壁にある桿(レバー)を引くと、研究室の奥の壁が左右に開いていく。そこは何もない空間で、壁には破壊痕や黒い血痕が見える。薄暗いなかに大きな人影が見えた。電気の照明が点されると、巨影の正体が古代騎士の甲冑を模したデザインの金属製ロボットだったと判明。


「これは……ディオニュソスじゃないか、教授!」


「そうだ……イルミナティ本部が実験データ収集のために提供してきた」


「チャペック兄弟社が売り出した戦闘ロボット・ディオニュソスか……いきなりこれと戦わせる気か、教授……」


 危険な戦地へ向かう兵士の代わりにと開発された機械人形兵士は十人の歩兵に匹敵する戦力だが、たいへん高価なため帝国の基地に配備された台数は少ない。


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