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最終章 これが私が望んだ世界 2話

始まりはマナリスに吹く風の音しか聞こえない。

しかし、魔導インカムから聞こえる詠唱は、始まりを告げている。

私は"扉"からすこし離れた位置に設置した、簡易祭壇と私のもうひとつの杖を固定する台座の上に立つ。

短杖は右手にかまえ、豪華な造りの杖は台座に嵌め込むと、がっちり固定された。

この杖はカズトが作ってくれた杖で、今詠唱中に使われているカズトの杖の、言わば夫婦杖なのだ。カズトの杖には彼が不得手な私が魔力を込めた聖光魔法が宿り、私の杖には私が不得手なカズトが魔力を込めた死霊魔法が宿っている。

互いが互いの苦手を補い、そして持ち主を守る夫婦杖だ。

「考えたわね、それなら貴方を死霊魔法の影響から跳ね返せるし、あっちはいざとなったら、貴方の聖光魔法で祓える、というわけね。」

豊穣の女神が祭壇の後ろ、杖の目の前に立つ。その左側に立っている私に話しかけた。

「この作戦よりも前に構想はあったみたいで、今回に役立つなら、って作ってくれたんです。」

「愛されてるわねぇ。」

豊穣の女神が愚痴るが、その言い方は羨ましいというよりは、誉めている言い方だった。

「この杖は魔脈操作をメインでここに固定して、短杖の方で魔術師達を祓いたいと思います。」

「わかったわ、私はここから離れずにいるから、操作する時は言ってちょうだい。」

豊穣の女神はぐっと親指を立てて渾身の笑み。私も同じポーズをすると、祭壇の前に立つ。隣にはアリスとオフェリア。豊穣の女神の後ろに、ミズハと補給部隊が待機している。ライガとフルフェイスの騎士がオフェリアの隣に構えている。

肩のアメリは気合い十分なのか、ふんふんと息を吹いてる。

魔導インカムからカズトの詠唱が止まった直後、"扉"が前触れもなく、まるで内側から乱暴に開けるかのように、開かれた。

あまりにも凄い轟音が響き渡り、この場の全ての人物達が一気に警戒モードに変わる。

私も短杖を構え、聖光魔法をこめる。オフェリアは愛剣を鞘から引き抜いた。ライガと騎士も同時に剣を構える。アリスは私の行動を観察しながら、少し後方に下がる。アメリは威嚇の声をあげる。

「アカネ!そっちに魔術師達が行く!浄化は任せた!数は30弱!」

「さんじゅうぅ!?」

魔導インカムからカズトの指示が聞こえる。同じ魔導インカムをつけているオフェリアがライガと騎士に目配せして、後方に下がる。

私は慌てて聖光魔法をより強く込め直す。アリスが魔力を貸そうと手を伸ばすのを視線の先で確認する。私は片手で問題ない、と制する。

ひたすら聖光魔法を唱え続ける、そして"扉"から、その気配を感じた次の瞬間。

「-------!!!--------!?!」

死霊が放つ生への渇望の声や、死への畏怖の声が頭をかき回すかのような、絶望のコーラスとなり、多重に爆音で響き渡ったのだ。

「ぐっ。」

死霊魔法への耐性がないオフェリアやライガ、アリスは吐き気を抑え込むようにかがむ。ちらりと後ろを見れば、ミズハの耳に慌てて手を押さえ、聞こえないようにする豊穣の女神の姿。

ナイス、女神様!次の献上品はより豪華なものにします!

「どうか聞き入れたまえ!」

私はありったけの聖光魔法をこめた短杖を"扉"へかざす。

「【天還(ガイア)】ァァァァッ!!」

それは死せる魂への、渾身の叫び。死霊達の絶望のコーラスを掻き消す、聖光魔法の叫び。

30もの無念の死霊が、私の声を魔法を受け入れて、天へと還ろうとしているが、やはり数に圧されて聞こえない死霊が、次々と近くにいる生命に襲いかかる。

「やっぱり足りない!」

「(魔力を渡すわ!)」

「違う!そうじゃない!」

アリスが私の声に反応して近づいてきたが、私が言いたかったのはそういうことじゃないのだ。

「今、新たに聖光魔法を込めても、短杖が、耐えきれない!」

アリスが使って、私に引き継がれた魔石をはめた短杖。やはり、いくら一級品とはいえ、死霊の数と無念の重みが、耐えきれない。

そして、まさに今放っている聖光魔法は、一度切ってしまうと、次に込め直すまで時間がかかる。

短杖の限界まで放った聖光魔法を止めてしまえば、せっかく聞き入れてくれた死霊が、天へと還れなくなってしまう。

そうこうしてる間に、生命を求めてまとわりつきはじめた死霊を祓おうと、空いてる左手で必死に死霊に取り込まれないように、杖なしで使える聖光魔法を乱射する。

右手で短杖にこめた聖光魔法を維持しながら、左手で乱射して、特にオフェリアやライガ達、後ろのミズハをカバーする。

足りなくなれば、アメリが一鳴きして補充してくれている。驚いたのは、アメリの魔力貯蔵量がかなりの量があることを感じたからだ。

いつの間にこんなに育っちゃったのよ、アメリ。

「アカネ!私達にかまうな!ミズハちゃんを守ってやれ!」

「でも、オフェリア!」

オフェリアには策があるのか、にやっと笑っている。私は一瞬迷ったが、うなずいた。

「私の命ッ!安くはないぞ!」

とオフェリアが叫んだ直後、胸元に飾ってあったブローチを引きちぎり、天に掲げた。

「女神よ!我が声に答えたまえ!」

ブローチから一条の光が天へ放たれる。その光はすぐに天へと消えると、折り返して膨大な光の洪水が降り注いだ。一つ一つに強力な聖光魔法の気配を感じて、私は思わずオフェリアを見る。

ブローチが光に溶けるように消えていく頃には、まとわりついた死霊は、私の聖光魔法へ吸い込まれるように天へと還り始めた。

「アカネ。」

直後、私の短杖を持つ手に何かが触れて、驚きながらそちらを向く。

視界に入ったのは、真っ直ぐだが風に揺れるほど長く光を放つ金色の髪、虹色に煌めく淡い水色の瞳、柔らかい笑みは私に向けられている。

美しい美貌が眩しいその姿に思わず見惚れた。

「我が子らの無念を祓って頂き、感謝申し上げます。」

そして、豊穣の女神の声が聞こえて、我に帰った後、感謝の言葉から確信を得る。

「生命の女神!」

「ふふっ、久しぶりね。豊穣の女神。」

聖光魔法はすでに終わっており、見渡せばあんなにいた死霊達が、全て天へと還っていった後だった。拍子抜けした気分になったが、一旦は一休みとなりそうだった。

「生命の女神様、ご助力感謝いたします。」

近づいてきたオフェリアと共に、膝を下ろし頭を下げた。生命の女神は笑みを絶やさず、私達に話しかける。

「こちらこそ、我が子らを新たなる輪廻へ還すことが出来ました。」

顔をあげると、豊穣の女神と生命の女神が横並びに立っている光景を見る。やばい、主に胸の爆弾が4つも並ぶところが。

「オフェリア、でしたね。」

「失礼な呼び掛け、どうかご容赦下さい。」

「構いません。今回は代償も免除します。長い月日を苦しんだ子らを救えましたから。」

生命の女神はそう告げると、ひらりと服を翻して背を向けて、光をまといながら消えていった。

「早いお帰りね、相変わらず。」

「生命の女神様はいつもあんな感じなんですか?」

私達が立ち上がり、豊穣の女神に話しかける。

「今ごろ悶えてるわよ、あの子。人見知りで話ベタなのよ。」

「そんな素振りは見えませんでしたが。」

オフェリアが呆気にとられているが、豊穣の女神はけろとした顔で、

「あっさり見抜かれちゃったら、神様面目ないじゃない。」

と言い切った。でも、女神様が言っちゃったら、意味がないよね。

あはは、と誤魔化すしかない私達。

ようやく落ち着いた克と思った矢先、魔導インカムから何も聞こえてこないことに、気づいたのはミズハだった。

アカネ「私の歌を聞けッ!」



先生、リスペクトパネェす。

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