最終章 これが私が望んだ世界 1話
最終章前にページの外側、割り込み投稿してあります。
見てない方、ご興味ありましたらそちらからどうぞ。
いよいよ、最終章です。
借金地獄から異世界セレブ生活を送った、
とある一家の物語、見ていってください。
"扉"---------二つの異なる世界を繋ぐもの。
片や、地球と呼ばれる世界で、科学や技術により、かろうじて平和が保たれた歴史の長い国、日本に開かれた。
片や、マナリスと呼ばれる世界で、魔術や異種族達が協力して平和を保つ、エレナス公国に開かれた。
共に八百万の神々や精霊によって世界が形作られ、似て非なる歴史をたどり、技術の根本は違えど、発展させてきた二つの世界。
運命の基点は、三十五年前。権力を求めて世界を治めんとする強欲な王子が起こした暴挙が、"扉"を生み出した。そして、その暴挙により膨大な魔力や魔術の才を持って生まれた日本人が、"扉"を維持しようとしている。
「不思議な縁だねぇ。」
「そう話すと、主人公は俺じゃないか?」
私が呟いた言葉を聞いてたか、カズトがちょっと嬉しげに答える。
「あは、かもしれないね。」
主人公なんて柄じゃないから、と避ける私に、カズトはくしゃくしゃと頭を撫でる。
「不安か?」
「まぁ、上手くいく保証ないからね。」
私達は今、マナリス側の"扉"の前にいる。
神々にお伺いを立ててから、早5日も過ぎ、まさに怒涛な日々だった。
何せ、エレナス公国の第二王子が三十五年前に多くの魔術師を犠牲にして、魔脈を大量に生み出して、人造魔獣を作ろうとしていた、という謀略が明るみになった。
この件はあのお茶会でお世話になったロッズさんや、王位継承権はないが国王の姪であるオフェリアが活躍したようだ。
人造魔獣は結果的には失敗したが、まだ生きていたらしく、魔術師協会に保護されている。魔獣はなんと知能が高くて言葉を交わせるらしく、今後は魔術師協会の保護下の元、普通の生活を望んでいるそうだ。
私達も一回会いに行ったが、何故か気に入られてしまい、今度うちの屋敷に遊びにいく、と言い出す程、仲良くなってしまった。
それから、マナリスのそれぞれの国に現状と"扉"を維持するために魔脈を操作する、と報告をし、それは瞬く間にマナリス中に広まった。
もし、安全が約束されれば双方の交流や流通が始まり、日本とマナリスは膨大な利益と発展を得ることになる。
一般市民も旅行や異世界のものを気軽に手に入れられるようになる、と知るや否や、ジェルドの町の人たちが私達を応援すると騒ぎだした。
魔脈操作のやり方や調節を練習していた私達には、この上ない邪魔になったが、魔術師協会には多くの支援が届けられ、結果的には潤っているらしい。そのおかげで、魔脈操作で使える魔道具が揃ったので、助かってはいる。
そして、同じ異世界人の魔術師であるミズハも学校内で人気者になったり、それを守る騎士のように、クロトくんが毎回屋敷から送迎しに来てくれるのを見て、私達夫婦は毎日何かしらの出来事で気が休まらない日々だった、というわけで。
「魔道インカムの調子はどうですか?」
ザイアスの姿は見えないが、声が耳元に付いてるイヤホンマイクからちゃんと聞こえてくる。
「"扉"を挟んでも普通に会話出来るって楽だな。」
カズトがそう答えて、私を見る。聞こえてる、と伝えるとよし、と気合いをいれて杖を構えた。
「じゃ、始めるぞ。俺は日本から魔脈操作して、一旦マナリス側へ魔脈を戻す。」
「で、私は流れて来た魔脈を正常な範囲で調節して、再び"扉"を維持するだけの魔脈を戻せば良いのね?」
「私はママのお手伝い!」
隣で顔よりもちょっと大きいイヤホンマイクをつけたミズハがはーいと手を上げた。その隣にはリリィがにゃあん、と鳴いてみせる。
「リゼルたちは皆、それぞれの国にきちんと魔脈が戻ったかをチェックしてくれるそうです。」
ザイアスの声が説明に捕捉をいれた。
本来ならば魔脈はマナリスの魔術師も見ることは出来ないが、精霊王や豊穣の女神、知識の神との協力で、今回に限って視認できるように加護を魔術師たちに与えてくれたのだ。
その際に初めて精霊王にお会いしたが、
「カズト、やはりお前はソウルメイトだな!」
と目の前でガッチリ握手を交わされたので、何の話か問いただす気力が失せた。
知識の神は視認の加護を最後まで渋ったが、カズトがそっと紙袋を手渡した瞬間に、猛烈な勢いに加護を付与し始めたので、これも脱力する一因となった。
「今度は何渡したの?」
念のために聞いてみたが、双方共に帰って来た答えは一致。
「男には抗えないものがあるんだ。」
アンタ、神様だから性別関係ないだろ。と突っ込みたかったが、それを上回る脱力感に、最早追及もする気力すら起きなかった。
「ザイアスは俺のフォローをよろしく。」
「了解しました。カズトさん、こちら側に。」
先に日本で待ってるザイアスが会話を終えると、一旦マイクをミュートにする。彼もミュートにしたようで、私とミズハに向き直る。
「言っとくけど、日本側に流れたマナリスの魔脈には、おそらく三十五年前に犠牲になった魔術師達の魂も含まれてる。死霊魔法を駆使しつつ、対応しなきゃいけないから、あまり余裕がなくなる。」
「うん、わかってる。あの遊園地で襲ってきた死霊は、もしかしたら、その魔術師の一人だったのかもね。」
遊園地にもやはり魔脈のラインがあったし、私達の気配を察知して、助けてもらいたかったのではないか、と思い当たったのだ。
「可能性はあるな。もし、マナリスへ帰りたいと願ってたら、魔脈と同時にそっちに送るからな。」
「それを私が聖光魔法で浄化しろ、と?」
「無理に、とは言わない、出来る限りのことはしてやらないと。」
カズトがいつになく真剣で、かつ私を心配そうに見つめる。自分も余裕がなくなるから、余計に心配なんだろう。
「(大丈夫。)」
ふわっと気配が近づき、隣を見るとアリスが立っていた。見ればその後方には豊穣の女神が笑みを浮かべて、こちらを見ていた。
「(確かにアカネは貴方には勝てないけど、貴方に匹敵するくらい頼もしいサポートが、アカネにはいるのよ?)」
「そうよ、カズト。いくら貴方が魔王級で日本の神様がついてても、アカネには私もいるんだから!」
精霊王夫人と豊穣の女神がタッグを組んで、私のサポートを買って出たのだ。ちなみにアリス分の化粧品やお菓子は後日、日本へ買い出しに行くことになっている。女神のやりとりを聞いてたら、不満げに私を見るので、勿論アリス分も用意するつもりだったよ、と言う状況になった。
…………わ、忘れてたわけじゃないよ?落ち着いたらアリスにもあげるつもりだったよ?
「アカネをよろしくお願いします。」
カズトが二人にすっと頭を下げる。見習ってミズハもお願いします!と頭を下げたのを見て、女神がよしよし、とミズハを撫でる。
「じゃ、行ってくる。」
カズトは"扉"へ触り、光の中に吸い込まれるように消えていった。数秒間の沈黙の後、カズトが向こうで打ち合わせを始めた声が、魔導インカムから聞こえた。
こちらもミュートから音声をオンに戻し、この場にいるメンバーを見回す。
マナリス側には、豊穣の女神・精霊王夫人のアリス・ミズハとリリィ・アメリ、補給部隊を買って出た魔術師2名と王族が戦争で身に纏う鎧を着たオフェリア、その護衛としてエレナス公国の最強を謳う騎士が2名立っていた。
「オフェリア、ホントにいて大丈夫?」
「何を今更、私がここにいることでエレナス公国はアカネ達の全面バックアップをしてるアピールなのだから、仕方がない。」
装備は抜かりないさ、と愛剣と魔道具らしきアクセサリーや肩に羽織ったマントをみせる。
護衛の騎士の一人はあの最初のダンジョン攻略でも一緒になったライガだが、もう一人はフルフェイスアーマーの為に顔は見えないが、気迫は伝わる。準備万端のようだ。
「死霊魔法には対応出来ないが、それ以外は任せてもらおう。」
「そうね、何も死んだ魔術師だけが来るとは限らないからね。」
そう呟いて、私はますます不安を抱える。
これは今日、日本側のカズトのサポートをするあの神様から聞いた話だった。
「お主らがする魔脈を戻す作業は日本の、あるいは地球におる欲深いやつらが、魔脈を通ってマナリスに入れるチャンスを与える行為でもあるのじゃぞ?」
覚悟を決めよ、と脅されていた。
欲深いやつら-------これは人間だけとは限らない。日本の妖怪や神々、地球に概念だけでも存在する得体の知れない"何か"だって、考えられるのだ。もっと言えば、この状況を知り得た地球外生命体やクトゥルフで知られる外なる神々だって、私すら知ってる訳だから概念として成立している。 可能性は無限にありすぎて、これらがこのタイミングを狙っていてもおかしくない、対応できない危険を伴うのだ。
「嘘だったらどんなに気が楽か。」
カズトもそう呟いた。彼の方がそういう方面に詳しいせいか、私の知らないとんでもない"何か"を送り込む結果になりかない。そうしたら、対応できない。
「だから、なるべく考えるな。」
とはいうが、不安なのに代わりはないのだ。
「しかし、日本の神様も怖いこと言うわね。お陰でこちらもそれなりに戦力揃えるの、大変だったんだから。」
と、豊穣の女神は愚痴る。女神曰くマナリスを統べる偉大なる神が今回に限って、注視してくれてるらしい。
「あのお方も、貴方たちが切り開く結果を楽しみにしてるのよ。ただ、立場上そんなこと素振りも見せないけどね。」
なんて豊穣の女神がウィンクしながら答える。姿は見えないが、知識の神も近くに待機しているらしい。
「あいつは歴史を司るから、こんなビックイベント、見逃さないわよ。しかも、日本のヨウカイ?とか神々が出てきたら、それこそ目を輝かせるでしょうね。」
豊穣の女神も呆れた顔で、誰もいないエリアを睨む。あ、そこにいるんだ。
「戦うことになったら、戦の神も黙ってないでしょうね。何せ、平和ボケし過ぎて一時期、"扉"通って地球中の何かと戦ってきて帰って来た位だし。」
まさかの戦の神の乱入というフラグまで明かされてしまった。ここ数十年、世界で人間が起こすゴタゴタ以外のことは全て、マナリスの戦の神のおかげで平和だったと知って、さらに脱力した。
「まさかと思うけど、そんなやつらがリベンジでやってくるとか、ないよね?」
「あー、どうでしょうね?だいぶボコボコしてから帰って来たらしいわよ。打たれ弱いやつらだったら、怯えて出てこないかもよ。」
マナリスの戦の神様、マジで怖い。どんだけなんだ、微妙に会いたくなってきたけど、気に入られたくないな。
「こっちの準備はいいぞ、アカネ達はいいか?」
思わぬ会話が弾んでいたが、準備はとっくに終わっていた。
「パパ!」
ミズハがマイクに手を当てて、呼び掛ける。
「頑張って!私も負けないくらいがんばる!」
愛娘の言葉に、私が嬉しくなって頭を撫でてると、一瞬の静寂な後、鼻で笑ってこう言った。
「魔王様、なめるなよ?」
この言葉は、この場の全員が納得する結果をもたらすことを保証されたものになる。
私は思わず、ふふっと笑ってしまうほど、心が落ち着いたのは言うまでもない。
どうでもいいけど、クトゥルフって言って良かったのかな(笑)




