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第五章 森の中での出会い 4話

アグシュとアッシュのコンビネーションは、まさにダンスを踊るようだった。アグシュが大振りの攻撃の為、大狼の攻撃が避けきれない状況も、アッシュがカバーするように牽制する。

サーシャの矢も致命傷にはならないが、確実に大狼にはダメージを与えている。

「ラ・ウィスラ・シュリー!」

私は精霊魔法で援護する。近くにあった川から水を呼び出し、矢として大狼に射出する。前足に当たるが、やはり牽制程度にしかならない。

「強いなっ!」

アグシュが一旦、距離をとった後に吐き出すように言う。アッシュも大狼を挟んで反対側にいる。サーシャは矢筒を一個使い果たし、次を構えて待機している。

「どこがフォレストウルフだ!レベルが違いすぎないかっ!?」

悪態をつくサーシャに、アグシュはハッと笑い飛ばしていた。

「いいねぇ!こうでなくちゃな!」

「長!戦闘狂になってる場合ですか!?」

サーシャの言葉に、私は一瞬にして変わり者と言ったあの言葉を実感した。エルフで戦闘狂なんて変わり者すぎて、納得してしまう。

「(アカネ、あれ見える?)」

アリスが私を呼び、指差す方を向く。見れば何か黒い霧みたいな塊が見えた。

「黒い霧みたいなやつ?」

「(やっぱり。)」

私の答えにアリスは何かに納得する。私は大変な状況なので焦りだした。

「ちょっと、アリス!それ今必要!?」

「(あれは瘴気よ。)」

冷静なアリスの言葉に、私は再度黒い霧みたいな塊を見直す。それは揺らぎながら、大狼へ向かって伸びて繋がっていた。

「あれをどうにかすれば!」

幸い大狼と距離が離れる為、私は走り出す。

「アカネ!」

「何とかなるかも!ちょっと耐えてて!」

無茶苦茶だな!とサーシャはニヤリと笑いながら、大狼から私を見えない位置に移動してくれた。信じてくれたのが嬉しいが、今はそれどころではない。

黒い霧みたいな塊に近づくと、吐き気が込み上げる腐臭に口を抑えてしかめる。

「(私はそこにはいけない。アカネ、貴方なら出来るわ。)」

離れた位置からアリスが話す。そちらを見ずに私は杖を構える。

「どうすればいい!?」

「(貴方だけ感じた、さっきの気配。同じじゃないかしら?)」

アリスの言葉に、私はさっきの感覚を思い出した。ゾワゾワと背筋を抜ける冷気、同じだ。

「(なら、それを消し去ってみて。)」

「いや、やり方聞いてるのよ!」

「(その感覚は貴方にしかわからない。だから、やり方も貴方が思い付くしかない。)」

アリスが必死にアドバイスしているのが分かるが、急に感覚の話をされても戸惑う。

「(まま。)」

肩にいたアメリが呼ぶ。私はアメリを見ると、アメリはキレイな琥珀の瞳で見つめ返す。

「(寒いの?暖かくしなきゃ。)」

アメリもアリスのようにアドバイスしてくれたのか、顔をすりすりして暖めようとする。

冷気、嫌悪感を払う方法------。

「っ!」

感覚を求められたせいか、もう思い付いた考えていくしかない。私は杖に魔力を込める。魔法を唱えるのではなく、ただ込めているだけ。

「ええいっ!」

嫌な想像を振り払うように、魔力が灯った杖を黒い霧みたいな塊に振り下ろす。大振りの仕草だったが、霧は逃げるように消えていく、杖の勢いそのままで、地面まで振り下ろすと、ガキン!と音を立てて、何かが割れる。

次の瞬間、まるで蜘蛛の子を散らすように黒い霧は消え去った。それと同時に、大狼がもがき出した声が聞こえた。

「今だ!アッシュ!」

「はい!」

アグシュとアッシュが同時に攻撃を仕掛ける。大狼の首と胴体を捕らえ、そのまま切り伏せた。大狼は断末魔をあげ、どさっと音を立てて絶命した。

「よっしゃ!」

アグシュが勝鬨をあげた声で私は杖を構えをとき、ペタンとその場に座り込む。ようやくアリスが近づき、私を抱き締める。

「(よくやったわ!アカネ!)」

「あ、アリス。ありがとう。はは、アドバイスがなかったら無理だったかも。」

アリスは私から離れたあと、見たこともない涙を浮かべた笑顔で、私に言った。

「(貴方は救世主になるわ。)」





本来は魔物を解体し、使える部分を戦ったメンバーで山分けするのだが、今回は瘴気に汚染されている為、その場で火葬となった。

「【弔火(エンヴァ)】。」

私が聖光魔法で死者を労り、聖なる火で見送る。これを行うことで、死者はアンデッド化することなく、灰となり天へ還るらしい。大狼が燃え尽き、煙がすぅーと天へ向かったのを確認して、私はアグシュ達に向く。

「これで大丈夫だとおもう。」

「いやぁ、すまないな。ここまでさせて。」

アグシュがそう言うので、気にしないでと笑顔で伝える。サーシャもアッシュも同様に礼を言ってくれる。

ふとアリスの姿がなくなっていたが、サーシャが用事があるから帰ると言っていたぞ、と言ったので気にしないことにした。

「脅威も去ったようだし、アカネの歓迎会をしようじゃないか!」

とアグシュが集落へ向かおうとしたが、

「ダメです!ジェルドの冒険者ギルドに報告しなくてはいけないんですから!」

アッシュが慌ててそれを止める。面倒くさいのかアグシュはしかめっ面だ。

「アカネさんが一緒に行かないと報告出来ないですよ。」

「あ、あと、私がタイムリミットだわ。」

空を見上げ、夕日が差し掛かっているのに気づいた私がそう呟くが、聞き覚えのない言葉だったのか、3人はきょとんとしていた。

「あー、時間がないってことよ。私、ジェルドに帰らないといけないの。」

家族が待ってるから、と付け足すと、理解したと同時に落ち込むアグシュとサーシャ。

「また遊びに行きます。」

そう告げると、笑顔になる二人。私とアッシュはその場からジェルドの町へ戻ることにした。

「なんか、足を持たせちゃってすみません。」

町に戻る道すがら、アッシュが肩から下げている袋に目をやり、私は謝った。

「いやいや、こういうのは男性の仕事ですよ。」

袋の中身は、先程倒した大狼の足だ。報告するのに証拠として提出するからだ。

「しかし、アカネさんはすごいですね。」

アッシュはお腹を押さえる。おそらく聖光魔法で癒したことを言っているのだろう。

「本来なら治療費をお出ししなくちゃいけないのに。」

聖光魔法はその労力や技術から使い手が少ない上、かなりの魔力を消費するので、本来なら多額の治療費がかかるのだが、

「気にしないで下さい。聖水分だけ頂ければ十分ですから。」

と私自身が大金を受け取りたくなくて、控えめに答えたのだ。今回の大狼の討伐報酬はアッシュの治療費共々、後日サーシャが届けてくれると、話し合いの中で決まった。

他にも他愛もない家族や町の話をしている内に、ジェルドの森を抜け、街の出入り口についた。

もう月が顔を出していた町並みは、魔導街灯で明るく照らされていた。もうすぐ街の出入り口を封鎖するギリギリの時間だった。

「お帰りなさい。」

そう優しく声をかけてきた門番に身分証を見せ、私とアッシュは無事街の中へ入ることができた。

「アッシュさんは、冒険者ギルドでしたっけ?」

「はい、後の報告は俺がやります。だから、アカネさんは早くご家族のところに。」

アッシュはまたどこかで!と大きく手を振って去っていった。

「さて、私はまず魔導師協会かな。」

忘れかけそうだったが、薬草採取の依頼報告に向かうため、足を向けた。




「アカネ!」

そこにはカズトとザイアスが心配な顔つきで待っていた。私はカズトを見つけ、心底安心して抱き締めた。

「アカネさんの帰りが遅いので心配しましたよ。何かありましたか?」

ザイアスが近づいてきたので、カズトから離れると私はあーっと頬をかいた。

「どっから説明しようかな。」

「3行で。」

カズトがいつものノリで言い出したので、むぅと考えた後に。

「薬草採取に森に行ったら、薬草取れたがエルフに会った。

仲良くなって昼御飯を一緒に食べてたら、魔物が現れた。

エルフと一緒に討伐したら、あっという間にこの時間だった。」

長いが何とか3行に収めるが、聞き終わった二人は真っ青になっていた。

「魔物が!?つか何で討伐に参加してるんですか!?」

「守人が出払ってて、戦える人がいなかったから。」

ザイアスはあわあわして私を見回すが、笑顔で私は言った。

「意外と戦えたよ。聖光魔法も成功したし、戦闘支援も出来たし、瘴気を払えたから。」

「---------今、何て言いました?」

ピタリ、とザイアスが止まり、今までにないヒヤリとした声で私に問いかける。思わず私は恐怖を感じて後ずさる。

「ああ、すみません。」

ザイアスは我に返り、いつもの穏やかな空気に戻ったので、私はホッとした。

「瘴気を払った、って言ったけど、なんかおかしかった?」

「おかしい、なんてレベルじゃないですね。さすがは異世界人、と言いましょうか?」

その後報告を先に済ませて、屋敷に一度戻って話を聞かせてほしい、と言われたので、私はその通りに行動した。

あのザイアスの冷気をまとった声が、まだ怖い。


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