第五章 森の中での出会い 3話
アグシュを含めた周囲が歓喜に沸いていた。
「アカネ殿、我々からも感謝申し上げる。」
アグシュが男性に手を差し出し、立たせたのに彼の肩に手を置く。
「こいつは俺の愛弟子だ、師匠として命を救ってくれて、本当にありがとう。」
「いえいえ、癒し手としては放っておけませんから。」
本当は初めてです、とは言わずにおこう。肩にいるアメリがぐったりとしていたので、私は失礼、と告げて魔力ポーションを口に含む。その後、回復した魔力をアメリに融通すると、アメリはぴくっと起き上がり、チロチロと舌を出して頬をなめる。
アグシュと弟子の男性は、鉱石トカゲを見るのが初めてか、珍しそうにみていた。
「お待たせしました。状況を伺ってもいいですか?」
男性に話しかけると、ハッと我に返ったか慌てて話し出す。
「俺が修行で使ってたエリアだったんだが、突如魔物の気配が生まれて、確認しに行ったら、魔物の姿があった。」
その後、居場所がバレて逃げながら応戦したが、怪我を負い、一緒に修行していたアグシュと共に逃げ切ったようだ。
「なるほど。」
「魔物はおそらくフェレストウルフが瘴気に当てられ、魔物化したものだ。レベル的には中級クラスだろう。」
弟子の男性は、アグシュを見ながら話を続ける。
「長、守人も5人位で戦えば倒せるかもしれない。」
「すまん。アッシュ。今、守人が別件で出払っている。居るのはサーシャと俺だけだ。」
最悪なタイミングだったらしく、アグシュは首を横に振った。アッシュと呼ばれた男性は真っ青な顔になる。
「なら、私とアリスが同行しましょう。いいよね?」
アリスに同意を求めたが、愚問だと言わんばかりの顔だった。その会話に驚いたのは、アッシュだった。
「し、しかし。」
「いや、相応の謝礼は出す。よろしく頼みたい。」
師匠!とアッシュは叫ぶが、アグシュは深々と私達に頭を下げた。周囲にいたエルフたちが同じように頭を下げだして、私はあわあわし始めたが、アリスが肩を叩いて落ち着かせてくれた。
「(アカネが望むなら、私は手伝うわ。)」
「魔力借りちゃったけど、大丈夫なの?」
問題ないよ、と笑顔のアリス。まだまだ余裕なのはうらやましい。私は全体の7割位で、ちょっとだるさがあるだけだが、こんなのは体調不良のうちに入らない。
「アメリは?」
「(今もらったから大丈夫。頑張る。)」
アメリは頷くと、ふんっと息を吐いた。無理してるわけじゃなさそうなので、良い子良い子しておいた。
アグシュはアッシュとサーシャに再度装備を整えるように指示すると、周囲のエルフたちは警戒にあたるために散らばっていく。
「私はもう一本飲んどこうかな。」
「(あとで使うかもしれないから、やめときなさい。)」
アリスに忠告され、ウェストバッグの蓋を閉めた。
集落から早足で森を駆けていく。メンバーはアグシュ、アッシュ、サーシャ、アリス、そして私。
アグシュは、エルフなのにバスターソードを背に構えている。ゴリマッチョなエルフで鎧も軽装だが、長と呼ばれる位なので恐らく強いのだと信じる。
アッシュは、アグシュよりはサイズの小さい剣を下げている。先程と鞘の色が違うから、別の剣なんだろう。鎧も変わっているので、予備があったのだろう。
サーシャは、会ったときの弓に矢筒を2つ下げている。腰にはレイピアだろうか、かなり細身の剣を下げている。
前衛の心配はいらないようなので、全体の状況を見て私が支援に回る感じかな。
周囲を見回すと森が広がっているが、嫌な気配はかなり大きかった。最初に集落に来たときに感じた気配はこれだったようだ。
「あの時にもう少し気にするべきだったなぁ。」
「アカネは感知能力が優れているのだな、我々よりも早い段階から気づいていたとは。」
「いや、なんか、たまたまだよ。」
言葉を濁したのは確証がなかったから。私は感の鋭い方ではない、むしろ鈍い位の方だ。にもかかわらず、感知能力の鋭いエルフよりも先に異変を感じていた。
「(アカネは鈍い方だよ?)」
アリスも言うとおりなのだが、他のメンバーには謙遜と受け止められた。アリスは不満げだが、追及することはなかった。私もそれ以上は言わないが、何かが引っ掛かった。
「いたぞ!」
アグシュの声で一旦足を止め、息を整えて相手の様子を見る。
フォレストウルフ、と言われていたので白い大きな狼と教わったが、少し離れた位置から見えるそれは、どす黒い色に染まった狼だった。瘴気に当てられると体が変色したり、体格が骨格ごと変わったりするらしいが、今回は変色のみのようだ。
「先程話した通りで頼む。」
アグシュが剣を構えるのを合図に、アッシュも構える。サーシャは弓を引き絞り、矢を添えていつでも放てる状態だ。私はそれらを見ながら、杖をふるいながら魔法を唱える。
「【筋力上昇】、【敏捷上昇】。」
聖光魔法の中で戦闘支援に適したものを連続詠唱する。次に、アグシュとアッシュが私に向けた剣を杖で触れる。
「【鋭】、【軽】。」
技巧魔法から剣に付与をかける。剣が淡く赤紫色に光を帯びた。効果が分かるのか、アグシュもアッシュも剣を見つめていた。
「すごいな、これ程の支援魔法を短時間で唱えられるとは。」
「詠唱してる段階で、カズトには勝てないな。」
「アカネを見ていると、君の旦那が規格外だとわかるな。」
アッシュが感想をのべる横で、アグシュがニヤリと笑う。サーシャには聖光魔法はかけられたが、弓がメインの為支援出来そうな技巧魔法が思い浮かばなかったので、ごめんと謝る。
「アカネ、むしろ私よりは長達の支援を優先してくれ。」
「(十分過ぎるほどの支援よ?自信もって。)」
アリスも肩に手を置いて、私が使った分の魔力を融通してくれた。良かった、と呟くとアグシュは気を引き締めた顔つきに変わる。
「サーシャ、弓を放て!」
その号令後、アグシュとアッシュが走り出す。私は森の中にいる風の精霊に協力をお願いをする。
「フィ・シルフィ・フェザァ!」
アグシュとアッシュの背中を押すように、風を吹かせる。その風に乗せてサーシャの放った矢が飛んでいく。精密に放たれた矢は気配を察知したフォレストウルフの背中に突き刺さる。
「いくぞぉっ!」
吠えるようなアグシュの声で、黒く染まった大狼との戦いは開幕した。




