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22話





 誰かが自分の体を優しく包み込んでいる、悠理はそんな気に囚われていた。


 あまりの心地良さにその誰かにすり寄る。すると、お日様の匂いが鼻を刺激してきた。


 微睡みに自然と口元が緩む。


 一体誰なんだろう?


 もっとその匂いを嗅ぎたくて、その誰かの首筋に自分の鼻を押し付ける。

 すると、とてもいい香りがした。


「──リ、ユウリ……」


 その人物は私の名を呼び、ギュッと力強く抱きしめてくる。声が微かに掠れているせいか、とても色香を含んでいた。


 苦しいけど……どこか満たされたような気持ちになる。


 もっと抱きしめて欲しくて、鼻でその人の首筋を刺激する。すると、その人物はクスリと笑った。


「ユウリは、甘え上手だな……」


 そう言って、先ほどよりもきつく自分を抱きしめる。


 それだけで悠理は心が満たされた。


 自分はとても幸せだと思う。こんなにもきつく抱きしめてもらえるのだから……。


 もう少しこの幸せなひと時を過ごしたい。


 多分これは自分の夢の中だろう。


 悠理はそう思って、再び深い眠りについた──。



 目を覚ました悠理の視界に先ず飛び込んできたのは、白い天井だった。


「ん……」


 悠理は寝返りをうち、身体を右に傾けた。


 誰もいないはずなのに……ここが少し温かい気がする。


『ユウリ、起きたの?』


 ベット側に狼姿のルージャがいた。


「ルージャ? どうしてここにいるの?」


 悠理の記憶が正しければ、ルージャはルイによる躾の真っ最中であった気がする。


『ルイに、ユウリを頼まれたんだ。それと、とても心配していたよ。さっきまでいたんだけど……どうやらお仕事ができたみたい!』


「お仕事か、仕方ないよね……ん? さっきまでここにいたの?」


『そうだよ。ルイは眠っているユウリのことをずっと看病してた!』


 ……か、看病? え? どこで?


「ちなみにルイは、この部屋のどこにいたの?」


『うーん、僕がユウリの部屋に入ったときは……多分ユウリの隣にいた気がする!!』


 と、隣……も、もしかして私のベットに潜り込んでいたのか!? じゃ、じゃあ、あれは夢ではなくて……。


 悠理の顔が茹でタコのように真っ赤に染まる。


 私、てっきり夢の中だと思って……あ、あんなことを……。


 悠理は夢の中だと勘違いをし、ルイの首筋に自分の鼻をスリスリしたことを思い出す。


『ユウリ、どうしたの? 顔が赤いよ。熱でもあるのかな?』


 心配してくれるルージャに申し訳ないが、ルージャの言葉が悠理の耳に全く届いてこない。


 いろんな意味で終わった……気がする。


 悠理は、なんともいえない羞恥心と、ただ絶望に打ちひしがれるのであった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 それから二週間後、悠理はルージャと共に王城の庭のど真ん中で日向ぼっこをしていた。


 当初は例の件もあり、外に出ることに恐怖心を抱いていた。

 しかし、ルージャが「ルイがいない間は、僕がユウリの護衛役に付くことになったよ!」と心強い言葉をくれたおかけで、なんとか王城の庭までくることができるようになった。


 少し気になったことなのだが、王城から加賀美浩介の取り巻き達の姿が消えた。何故だろうと思い、ルイに尋ねてみると、「彼らは今、少し遠いところでお仕事をしているんだ。だからユウリは気にしなくていいよ」と言われた。


 そうなんだと思いながらも、正直言ってどうでもよかった。ただ、ここしばらくは王城で鉢合わせすることもないのだと知り、少しホッとする自分がいた。


 彼らが怖くないと言ったら、嘘になる。

 ルイの力によって悠理の背中の傷は消えたものの、時々背中が痛む。今でも覚えている。自分の背中が抉られるような感覚を……。


『背中が痛むの?』


 悠理の抱き枕と化していたルージャが、心配そうに尋ねてくる。


「うん、傷がないはずなのに少しだけ、ね……」


『早く痛いの、なくなればいいね』


 ルージャが私の額に自分の鼻先を押し付けてくる。

 多分ルージャなりに悠理を慰めてくれているのだろう。


「ふふ、ありがとう」


 悠理はそう言って、ルージャのモフモフの毛皮を堪能する。


 そんなとき──。


「そんなところで、何をしている?」


 視界の端から誰かがこちらに近寄ってくる。


 真っ黒な髪、そして色鮮やかな青い瞳。ザ・王子様といった雰囲気の美少年がいた。


 どこかの国の客人だろうか?


 悠理の姿を捉えた少年の目が大きく見開かれる。


「……俺は夢でも見ているのか?」


 意味不明なことを言う少年に、悠理は首を傾げた。


 この人、頭大丈夫かな?


 ちょっと失礼な考えが悠理の脳内によぎる。


「す、すまない。俺の名はレクラール・グランシスだ。そなたの名を聞かせてもらえるか?」


 少年──レクラールは、自分の名を名乗る。


 知らない人に自分の名前を教えてはいけません、とルイにきつ~く教えられているからな……。


「すみません。名前は教えることができません」


 悠理がそう言うと、レクラールはとても残念そうな顔をした。


「そうか……そなたは、きっと身分の高い姫君なのだな。もしかして、美姫と名高いオーリア王女なのか?」


 盛大な勘違いするレクラールに、戸惑いを覚える悠理。


『ユウリに話しかけちゃダメ!! 魔王が降臨するよ!!』


 ルージャが悠理とレクラールの間に割り込む。

 ルージャの勇気ある行動に感動を覚えつつも、どうして名前を言ってしまうんだ! と心の中で突っ込む。


「ユウリ……そなたはユウリと言うのだな」


 ルージャを無視して悠理に話しかけてくるレクラール。


 そのとき、周囲の温度が急激に下がり始める。

 何事かと周囲を見回すと、魔王が降臨していた。


「レクラール殿、こんなところで何をしているのだろうか? ユウリ、こっちにおいで」


 悠理がルイの下に行こうとするが、それをレクラールが邪魔をする。

 なんと悠理の左手首を掴んできたのだ。


「ッ!?」


 なんとかレクラールの手を振り払おうとするが、女である悠理が男であるレクラールに力で敵うはずがない。


 そんな悠理に救世主が現れる。ルイだ。


「ユウリに触るな! この変態従兄弟!!」


 怒声と共に、ルイの右フックがレクラールの左脇腹に見事に決まったのである。



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