三説。『木製の扉』
三説。『木製の扉』
歩いて二日経った。
白い廊下を数kmほど歩いて、不可思議な扉を四十五回通り、頭がおかしくなりそうなくらい真っ赤な蛍光灯に照らされた部屋を僕たちは歩いている。
そんな感じの事がもうずっと続いているので、辛抱たまらずに口を開いたイザイアくん。
「…………出口はどこ。」
拗ねた子供みたいな声で、いや、拗ねた子供がそう言った。
アリアは気怠げに振り返る。ずっとずっと同じ無表情。何考えてんのか分からない。
「知らない。」
………は?
その言葉を耳にしたイザイアは生まれて初めて驚愕というものをした。
二日も後についていってた相手が出口に向かっていると、生後二日のイザイア君は勝手に勘違いして決め付けてしまっていたのだ。
「し、知らないィ!?ふ、二日、二日も歩いて君について行ってたんですけど!?」
「あなた……そんなキャラだった?」
アリアはなんだかイザイアの方がおかしいみたいな感じの訝しさを顔に出して言う。
「い、いや、でも、でもっ……!…」
尻すぼみな声で抗議するイザイア。ハッとして顔を背けた。子供みたいだ。って自分で思った。
「…………い、いや、そうだね、僕が悪い……二日も経つ前に聞くべきだったし……僕はこんなキャラじゃないし……。」
その言葉を聞いているのかいないのか、アリアはまた前を向いて歩き続ける。
「………出口はないけど……別の場所に転移する方法ならある。今はそれを探してる。」
「………なんで、それを教えてくれなかったの…?」
「聞かれてないから。」
「…………僕って、バカみたいだ…。」
「……あなたは赤ちゃんみたいなものじゃない。」
「………それは……慰めてる…?」
「…………うん。」
「そっか…。」
気まずいのか何なのか分からない空気が二人の間を過ぎていって、同じ様な道をまた何回か通った後、僕たちはそれに出会った。
「アレだよ。」
「……何アレ。」
廊下に、ぽつんと、佇んでいる。
それは素朴な木製の扉だった。
でも、それは人間で出来ていた。
人で作られた木製の扉。
それは素朴な木製の扉にしか見えない物だけど……
イザイアの目には、肉々しい、見るに堪えない凄惨で悪趣味な異常物体にしか見えなかった。
「……気持ち悪い……それで、その扉をくぐれば移動出来るって?」
「アレは……『木製の扉』って言う人。」
「……アレは人でいいの?」
「彼女は自分で自分を扉にしたの。」
「身体を機械に代替するような感じ?」
「似ているけれど、違う。」
[検体番号2-木製の扉]
それは一人の26歳の一般女性から突然発生した。
経緯は不明、明確な理由も不明。なんで扉の形になったのかも不明。
その扉は周囲のランダムな物体や生物を強制的に20万km以上離れた場所に転移させる異常性を持つ。
「………ヤバいやつじゃん。」
「そうだね……でも今となっては此処を脱出する唯一の方法。……なんで収容室から動いてるかは知らないけど。……手、握って?」
「……今すごく怖い台詞が聞こえた気がしたけれど、うん、分かった。」
差し出された手を握り、二人は扉に近付いた。
扉が開いた。扉に辿り着く前に。
そこには人が立っていて、立っていなくて、いて、いなくて、くろくて、しろくて、あまい
それが確かになる直前で、二人の視界はひっくり返ってねじれて消えた。




