↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/29

別れ


早川マサル(勝)

一卵性双生児の弟。明るくて素直な活発な少年。気弱な兄を支える優しい子。いつも兄と勘違いされている。


早川ソウスケ(宗佑)

双子の父親。サッカーJ2リーグのプロ選手。遠征中に不慮の事故で命を落とす。


早川ヨウコ(陽子)

双子の母親。フリーのカメラマン。取材の時に宗佑と出会い結婚。双子を出産している。今は専業主婦になっている


高屋宗一郎

養子に行くことで名字が変わっているが宗佑の実の兄。六芸館高校(りくげいかんこうこう)のサッカー部監督をやっている。


 数日後に父が日本に静かに帰国した。ナイフで暴れていた男から子供を庇った結果背中に数回刺されてその時は無事だったが、傷口から細菌感染したらしく直接的には敗血症で亡くなったそうだ。

男はそのまま逮捕、男から大量の麻薬反応が出たらしく薬が切れ暴れていたと言うことだった。

 陽子もマサルも泣いている中、イサムは通夜も葬式も泣かなかった。いや泣けなかったと言うのが正解だろう。父との突然の別れに現実離れし過ぎて頭が真っ白になっていた。

 そんな中一人の男性が陽子に声をかけて来た。

「すまない遅くなってしまった陽子さん宗佑は?」

「お義兄さん。ありがとうございます。こちらです」

「子供を庇ってこうなるなんて…お前らしいが自分にも子供がいる事を忘れやがって…その助けた子供と言うのは?」

「幸い無事だったみたいです…報道の規制も父が関係者に配慮する様にと手配してくれまして」

「陽子さんこんな時にすまないが、イサムを私のいる六芸館に入学させてはどうかな無論今はまだ1年生と言うのはわかってる中学卒業後は六芸館の寮で彼を受け入れたい」

 高屋宗一郎、養子に出た宗佑の実の兄で、六芸館高等学校のサッカー部の雇われ監督をしている。若い頃に網膜剥離になりプレイヤーとしての人生は断たれたが監督としての才を発揮し今に至っている。

「あの子がそれを望むなら私に止める権利は有りません。私は母親としては何もしてあげれてませんから」

「そんな事無いよ,母さん。僕達のわがままを全部受け入れてくれたじゃない」

 話しを聞いたイサムが母を諭すように話しかけた。

「伯父さん、僕は六芸館に行きたい。全国から凄い選手が集まるんでしょ?そんな中でレギュラー勝ち取って父さんみたいにプロの選手になりたい」

 今まで漠然とした感覚が父の死を前に決意の固まったイサムの言葉に宗一郎はこの子の決意を受け止める為動き始める。

 一方このやり取りを陰で見ていたマサルも心に揺らぎが生じていた。父の残したものの引き継ぎ、それを何一つできていない自分の行動に腹立たしく野球に逃げたと言う感覚がマサルを襲っていた。マサルの心にまた新たな闇が広がっていった。

 イサムを欠いた朝比奈のサッカー部は難なく決勝進出を決め、決勝もイサムのメンタルを考慮してイサムなしで挑むも気持ちが繋がった朝比奈サッカー部は県大会優勝で幕を閉じた。

 この事で冬の全国大会への出場を決めることとなった。


 マサルはこの葬式の日以来、サッカーボールを持ってサッカーの練習をする様になる。本人も何故今更サッカーなのか理解出来ずにいたが、サッカーボールに触れることで父を身近に感じていたかったのだと思う。

 イサムもこの事に気がついていたが改めてサッカーに引き戻す事はしなかった。マサルの葛藤は今後も続き野球への影響も与えてしまう事になるがそれはまた別の話しで。

 試験休みが終わり、1学期の終業式を迎え夏休みへと突入した。宗佑が亡くなり陽子は一つの決意が生まれていた。

「いっくん、まーくん。ちょっと母さん話があるの」

 二人を呼び寄せ陽子は母としての決意を話し始める。

「母さんね、本当は貴方達が大きくなってから仕事に復帰しようと思ってたの。お父さんの残したお金とお爺ちゃんからの援助だと貴方達をいい学校に入れてあげれそうにないの…」

 そこまで話すとマサルがイサムと向き合って頷き、話し始める。

「ボク達話したんだ。母さんが父さんの事で落ち込んでるから元気になれる方法を。母さんが大好きな写真家活動に戻ったらって」

「僕達のことなら大丈夫。料理は母さんより僕の方が得意だしね」

「もう、親をからかわないの…でもありがとうね。母さん仕事に戻ってもいいかな?」

 二人同時に

「「勿論!」」

 無意識に合わせたかのように母を送り出した。陽子は二人を抱き寄せ「ありがとうね」と涙した。


 空はいつも以上に蒼く海もいつも以上の澄んだ碧に凪いでいた。しかし海の少しの澱みがじわじわと広がっていく事にマサルはまだ気が付いて居ない。澱みという奈落は他の誰も気が付かないままゆっくりと広がっていく。


ゆっくりと


ゆっくりと

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。