03 おぉ、これはあまりに……太ましい
「……え?」
何、今の映像。
……私の、記憶?
起きたら私は、ベッドの上にいた。
いつも通りの純白で煌びやかな。もふもふさいきょー寝心地ベット。
でも、今朝は赤の他人のモノように感じる。
「姫様、おめでとうございます!」
気づけば私のベッドに、年老いたメイドさんがにこやかな笑みで佇んでいた。
「……ん?」
「急に倒れられたときはどうしたものかと思いましたけれど、スキルツリーが開花したそうで す!」
「スキルツリー?」
って、なんだっけ。
え、私ってこんな喋り方だっけ。もう少し、お嬢様みたいな感じだったような。
~ですわぁ。みたいな。
「それも、千里眼を超える『万里眼』のスキルツリー! 母君の系譜が覚醒なさったのです!」
語呂わるいなそれ。
……少し冷静になって、ようやく今の現状を思い出せてきた。
私の名前は、アイリ・フォン・ハルア。
貴族社会が根付くこの世界で、お姫様をしていた……気がする。
だめだ。えっと。
自分って誰だっけか。これが世にいうアイデンティティの喪失か。
たしかこの世界の貴族や王族には、その血と共にスキルツリーが継承される。
そして、お母さんの生家に受け継がれるスキルツリーが『里眼』。
その力は、過去や未来を垣間見れる……とか。
え、つまりそういうことなの?
私が今まで見てたのは、夢でもなんでもなくって。
私の、過去と未来。
過去は遡り過ぎて前世の記憶でも見ちゃったのかな。いやシャレになんない。
ぴょんっと飛び上がって、部屋に置いてある大きな姿見で自分を確認する。
おぉ。……なんて、醜い。
ゆめいろリカちゃんばりのせっかく綺麗な青髪が、本体がデブ過ぎて違和感しかない。
しかも、私ってまだ10歳だっけ。
これじゃ子豚もいいところ。ブタが人間の皮を被ったと言っても過言じゃない。いや待てそれは過言か。
うん。痩せよう。
私の記憶が正しければ『魔法』は色々消費が激しいはず。
……ん、魔法?
そーいえば過去も未来も死の間際、頭の中で何か魔法がなんたら言っていたような。
あれって一体。
あ。
そうだ、わたしは魔法を知ってる。
「――ステータス」
口に出した詠唱と共に指を鳴らす。
すると視界に自分の情報が書かれた半透明の文字盤が現れる。
この世界は神と精霊、魔人の住まう場所。
それらに庇護された人間は、特殊な力を使える。
名:アイリ・フォン・ハルア
職:なし
健康状態:太め
基礎魔法
・【ステータス】
・【ウォーター】
・【ドライ】
固有魔法
・【英雄魔法(闇)】
・【大罪魔法(強欲)】
スキルツリー
【万里眼】
Lv1:回復(大)
【特性】
見通す力
おぉ。
……なにこれ。なんだかよく分からないけどチートっぽい感じがする。
私って――実はすごい人?
あ、いけないいけない。そうだった。
自分を勘違いして身を滅ぼした大馬鹿王女を、私は嫌というほど知っているんだった。
「どうです? ご自分のステータスは確認できましたか?」
「うん、できたよ。あんがと」
満面の笑みを浮かべてしまった私は、訝し気な視線のメイドを見てハッとする。
「姫、……さま?」
しまった。
『アイリ』としてあまりに言動が違いすぎるよね。
どっちかというとアイリよりも前世の柚葉のほうが今の私を形作ってるんだろう。気がする。たぶん。
んー。でもそうだよねぇ。
私って、いったい誰なんだろう。
「――もしかして!! そうですわよね! そんな偉大過ぎるスキルツリー、性格も変わってしまいますよね!」
……ん?
特に何にも言っていないのに、勝手にカン違いされてる。
「これは行幸……アイリさま。お代わりになられるのでしたら、どんな性格でも今までよりまし――っは! 失礼をいたしました!」
本当にうれしかったのか、今まで私の機嫌をとっていた仮面の姿ではなく本当の彼女が垣間見れた気がする。
いや普通に傷ついたけど。
自分が一番理解できているけど、本当にひどかったもんね。
他者を見下すとこしか能のない、地位だけはある――まさに『悪役』にぴったりな性格。
それが私。
でも、せっかくやり直すチャンスが天から降ってきたんだ。
私はもう、二度と間違えたくない。
……絶対に助けたい大切な人が3人いる。
一人はこんな私でも、友達だと言って守ってくれた大切な人。
一人は私のかわいい親違いの妹。
一人は私の所為で命を絶ったメイドさん。
あ、そういえば。
もう、あの子この家にいるよね。
「ううん、いいよ。ゆるーす。で、聞きたいんだけど新しいメイドさんって入ってくる予定ない? 私と同じ歳くらいの」
許す、という言葉を聞いてメイドさんはぱぁっと明るい表情に一変する。
いや、どれだけ酷いヤツだったんだろう私って。
自覚がないのが、なお凄い。
「は、はい。旦那様が購入しておりました。お嬢様が入学されるから、と」
あー、相変わらずあのおやじ良い趣味してんなー。
でも、腐ってもここの国王だから誰も逆らえない。
だからこのメイドも平然と『購入』なんて言葉が言えるんだ。
まぁでもそのおかげで、私はあの子に出会えたんだ。
いや、出会ってしまったといったほうがいいのかな。
「もういるの?」
「はい、ちょうど先ほどこのお屋敷に到着いたしました。今は他の侍従といるはずです」
その言葉を聞き、すぐさま私は自室を飛び出し、そうして駆けた。
ぶよんぶよんのぜい肉を揺らしながら、ものの数メートルで息を切らして。
実はステータスに、『健康状態:太め』と書かれていたので、少しナーバスになってます。






