静かな時間。
子供たちは早々に夕食を終え、部屋に引き上げて少し経ったところで、夫の分の夕食を用意する。当然ながら夫が定時に帰ってくることは滅多にない。加えて出張も多い。休日出勤や接待なども多々。おかげで子供たちは小さいときには、夫の顔を半ば忘れてしまい、抱っこを拒否したことすらあったくらい。
フンフンフ~ン♪と鼻歌で支度をしていると夫が帰って来た。
「ただいま。ご機嫌だな。何かあったのか?」
「ん?別に。」
言われてみれば、アレルギーが悪化して以来、こんなに明るい気分になったのは久しぶりだわ。
オーブントースターで温めた揚げ物を、トングを使って盛り付ける。お気に入りのガラスの小鉢にカット野菜とミニトマトの乗せる。そして今日はカット生ハムをトッピング。これだけでずいぶんと見栄えがする。
「お。サラダか。うまそうだな。調子はどうなんだ?」
夫の顔がほころぶ。食卓がさみしくなってしまっていることには理解を示してくれているのでありがたい。
「変わらないね。すぐには良くならない。」
「メインの揚げ物も見慣れて来ちまったな。」
「ごめんね。」
「まあ、仕方ないよ。早く治るといいな。」
夫はそう言いながら、もうグラスにビールを注いでいる。食いしん坊ではあるが、そこそこに妥協してくれるのがありがたい。
かなりの亭主関白で、グラスすら自分で出さなかった夫が、このところ自分でグラスやビールを出すようになってくれたことはちょっとした収穫ね。
テーブルに食事を運んだところで、私も一緒にテーブルにつく。もう夕食は軽く済ませていて、お腹はすいていないから、一緒に座ってお茶を飲むだけだけど。
「たまには飲もうよ。」
「飲みたいけど、もうしばらくやめとく。」
こういうとき、さみしそうな顔をするのよね。一緒に飲みたいのは、わかる。それに私も呑ん兵衛だから、本当は飲みたいんだけどね。
「少しなら大丈夫だろう?」
「勘弁して。そう言って、ツワリの時期に無理やり飲ませたあと、大変だったじゃない?」
「どうしてそんな事ばかり覚えてんだよ。」
夫が苦笑する。実は最初の妊娠のとき、ツワリで気持ち悪いと言っているのを無理に飲まされて、大変な目に会ったのよね。「気持ち悪いと思うから気持ちが悪いんだ!飲め!」って。
さすがにあれ以来、無理に飲まされないけど、やっぱり飲ませたい気持ちは変わらないようね。
夫とは社内結婚。付き合っている頃は「この人しかいない!」って思ったし、ドキドキが止まらなかった。今はケンカもするけど、静かな感じ。もちろん、色々と感謝もしている。