箱舟
神獣リームスと戦う竜王フナブ・クーとグランたちの援護を、アルドルとラピスに任せ、竜奏医師であるセトとセノーテも同行。
ククル、アズール、マティアはウェルテクスの背に乗って箱舟の内部に侵入。
「俺はここで、入り口を見張っている」
そう言って、ウェルテクスはククルたちを見送った。
「電源が生きてる……」
すごい、とククル。
「俺たちの前に、誰かが入ったみたいだな」
先を越されたか、とアズール。
「さすがに大剣は扱いが」
ゼウスの武器形態の感覚を確かめるマティア。
「ベッドがあるな……部屋か?」
「居住区じゃない? だって箱舟ってトゥーラから来たんでしょう」
長旅に備えて居住区がつくられたんじゃない、とククル。
マティアと黒猫アズールは顔を見合わせ
「そういや、頭は良かったな」
「トゲのある言い方……ひょっとしたら、コールドスリープから出れなかった幽霊が」
「こ、怖い話をするな」
動揺するマティアに
「あれ、苦手? じゃあ、ウィツィに話したとっておきが」
からかうククルの前を、白い女性が過った。
まるで、こちらに来いというように。
「今、白い女の人が……」
「貴様、いい加減にしないと引っ掻くぞ」
爪をとがらせるアズールに
「本当だって、こっち」
ククルは、白い女の後を追った。
「あれ、確かこっちに」
「おい、ククル」
アズールが注意する前に、ククルは足元の何かに引っかかって転んだ。
「どうか、彼のことを……救ってあげて」
澄んだ女性の声。
「今の、コアトリクエ校長先生……」
少し若かったような、とアズール。
「アズール殿下も、見えたなら幽霊ではありませんよね?」
マティアは、目を泳がせる。
「誰だよ、こんな所に本を置いたやつ」
文句を言いながら、ククルは本を開いた。
いつの間にか、その内容に夢中になっている。
「何の本だ?」
マティアが聞くと
「これ、黒の楽譜だ!!」
見たことある譜面がある、とククル。
「じっくり読みたいから、ちょっと待って」
そう言って、床に座り込むククル。
「バカ、手に入れたならさっさと出るぞ」
アズールが、急かす。
「しかたない、引きずっていこう」
マティアが、ククルの腕を掴む。
「来なさい、イラマテクトリ」
それを私にに渡しなさい、と中年の竜騎士。
「まさか、先に侵入していた……」
大剣で警戒するマティアと
「他人を乗っ取るやり方、ヨアルリだな」
威嚇するアズール。
「ククル、行くな」
マティアが止めるのを聞かず、ククルはヨアルリの元へ向かう。
「メルルカで、細工をしてよかった」
ヨアルリが言った。
ククルは立ち止まると
「……ごめんなさい。お父様」
イラマテクトリの声。
「どうしたんですか」
貴方を生かせるのは私とテスカポリトカ様だけだ、とヨアルリ。
「わたしのやったことは……あの暴漢たちと同じだった」
憎いから、報復するのは当然……
「だって、母様を傷つけたことがこんなにも悲しい」
そして、イラマテクトリは振り返る。
「母様が来てる。わたしの無理なお願いを聞いてくれて、ありがとう」
だからお父様も一緒に、と手を差し伸べる。
「私は……私はただ……」
ヨアルリはその手を払い、床に膝をついた。
少し若いコアトリクエに手をひかれ、イラマテクトリは溶けるように消えた。
その光景を前に
「やはり、コアトリクエ校長……」
「イラマテクトリ迎えに来たのか?」
マティアとアズールが言った。
「残りのエーテルを、箱舟に残した残留思念に注いだのでしょう」
どこまでも愚かな女だ、とヨアルリは乗っ取っていた竜騎士を解放した。
ククルたちが黒の楽譜を手に入れ、箱舟を脱出。
竜王フナブ・クーはミクトラン進行のため、最後の力を使い箱舟を剣としてオベリスクへと衝突させる。
ゲートを失い、姿を現したミクトラン。
「ありゃ、どこか壊れたな……」
空を見上げ、竜王フナブ・クーの力技にウィツィが呟いた。
空に浮かぶ巨大な大地に、その場にいた誰もが息を飲んだ。
地上とは、重力が対となっているためこちらからみると逆さまの大地。
竜王フナブ・クーの命と引き換えに開かれた道。
守護竜たちと、竜騎士・竜奏医師たちは、ミクトランへ向かう。