火竜の騎士と風竜の騎士
王立アカデミー・校長室
「コアトリクエ校長、ドアに手紙が挟んでありましたよ」
差出人の名前がありませんが、とロスが言った。
「……机の上に、お願いします」
ロスは、深い溜息をついたコアトリクエを横目に
「アルメニアには、竜王陛下も同行すると聞きました。もしや、コアトリクエ校長も……」
「ワタシには、どうしても果たさなくてはいけないことがあります」
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竜騎士訓練場
「まだ、こんなものでは取り戻せない」
木製の人形相手に、木刀を打ち込むマティア。
(確か、病み上がりだよな……)
その様子を眺め「本当、バカ」とセトは肩を竦めた。
ほぼ同じ年に、セトが火竜の騎士、マティアが風竜の騎士として任命された。
本来なら王立アカデミーを卒業した後、竜騎士としての下積みを経て任命される。
最年少の十八歳で火竜の騎士になったセトとは違い、マティアは典型的な努力型。
セトは声を掛けずに立ち去ろうと思ったが
「風竜の騎士、休憩って言葉知ってる?」
自然と足は、マティアの方に向いていた。
「セトか……真面目に話すのは珍しいこともあるものだな」
その言葉にセトは眉を寄せる。
「その言い方だと、俺がアホみたいだろうが」
「いや、いつもドラゴンでハーレムが何とやら言ってるだろう」
「ふっ、メスのドラゴンの良さは凡人にはわからん。まず鱗の美しさから首の優雅なライン」
「茶化しに来たのなら……」
近くにあった木刀を手に取ると
「人形相手じゃ、つまんねぇだろ」
同僚のよしみで付き合ってやる、とセトは言った。