イラマテクトリ
「三十八度……カロル草の花粉に負けたみたいやね」
今日は安静にしなあかんよ、と医務室のレナ先生。
「まあ、三日は静かだな」
窓際に座る黒猫のアズール。
喋る事が出来るようになったことで、ククルが倒れたことを知らせることができた。
「本当は、子供の頃に一度かかると免疫ができるのですが」
ワタシが付き添いますので休んでください、とコアトリクエ。
「コアトリクエ校長、体調の方は……」
気遣うレナに
「この子の面倒は、ワタシがみたいのです」
コアトリクエが答える。
「分かった。でも、無理はあかんよ」
そう言って、レナは踵を返す。
「ありがとう」
(目を媒介にってことは、ククルとウィツィはコアトリクエ校長先生の子供みたいなものか)
かなり複雑だが、とアズールは思う。
そして、日傘の少女をぼんやりと思い出す。
「コアトリクエ校長先生、もしかして娘さんもいますか?」
動揺したコアトリクエが、椅子から立ち上がる。
「……アズール殿下、イラマテクトリと話を?」
「いや、話っていうか拒まれたというか………」
ククルの血を含んだ時に映像として見たと、アズールは説明。
だが、あの映像では彼女はーー
「……あの子は、ワタシが不注意で殺したようなものです」
だからこそ似ているククルを放ってはおけない、とコアトリクエは言った。
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ミクトラン・闇の神殿
「レイクホルトのラケルタ、仕留められた。守護竜使えないってのに化け物かよ、あのジジイ」
ウィツィの報告に
「まあ、アレスの回収が優先でしたからね」
ステラの姿で答えたヨアルリ。
「プルウィアは?」
「しばらくは、湖の底でしょう。アレスがこちらにある以上、ウェルテクス同様に下手には動けない」
「その姿だと、全く威厳がない」
ため息をついて、眼鏡のブリッジを押し上げたウィツィ。
「娘が見たら、泣くよ」
「……」
刃物のように鋭い光を宿した視線が、ウィツィに向けられる。
「別に、ヨアルリのやり方を否定するつもりはないよ。でも、やっぱり元は人間だ」
「その話は、やめましょう。気分では、ありません」
ヨアルリは、いつもの穏やかな口調。
「へーい」
ウィツィは、気だるげに言った。
玉座には、神獣の王ーーテスカポリトカが眠っている。
一度目覚めたものの体が馴染まず、消耗している。
「やっぱり、儀式は間に合わない?」
「やはり、黒の楽譜を破壊するのが優先になるかと」
「面倒だなぁ」
ウィツィは、ため息をつく。
ヨアルリは肩を竦めると
「今回は、大物が動くかもしれませんね」