アフロディーテ
「きりがありませんわ」
ラピスがブレスで撃ち漏らしたスコルピウスを、セノーテとククルは武器で片付けていく。
「そうだな」
後ろに隠れるククルに
「私を盾にしてますわね……」
セノーテは呆れ顔。
「いや、お前の方が強いし」
下手に動くと、ラピスのブレスの邪魔になりそうだ、とククル。
「それは言えてます……ククル、後ろですわ!」
「へ?」
他より、大きいスコルピウス。
尻尾の毒針を突き刺そうとした瞬間
「ま、お互い後ろには注意ってな」
弓矢が、スコルピウスの毒針を撃ち落とす。
「ギギッツ」
怯んだ巨大スコルピウスを、アルドルが炎のブレスで焼き払う。
「あ、危な……」
足の力が抜け、ククルはその場に座り込む。
「無事か、同志よ」
駆けつけたセトに
「ありがとう、同志よ」
助かった、とククル。
「嫌な感じでしたわね。統制がとれているというか……」
セノーテの言葉に
「そうだな。結構、頭のいい神獣だ」
セトは頷く。
「第二王子さんが、テスカポリトカに乗っ取られた影響とかーー」
「若、セノーテ殿下の前です」
アルドルに嗜められ
「あ、悪い。配慮足りなかった」
セトは頭を下げる。
(……アズール)
不安な表情のセノーテに
「大丈夫、まだあいつは乗っ取られてない。儀式は準備に結構時間がかかる……雪洞で暴走した時も不安定だった。オレたちが先に、黒の楽譜を手に入れて絶対に助ける」
ククルが声をかける。
「あいつ、セノーテと同じで性格悪いからな。しぶといぞ」
「……もう、励ましてるつもですの?」
セノーテの口元が緩む。
「そうだ、セトさん。さっきの弓矢、二重楽器だろ」
手に入れてたんだ、とククル。
「ああ、ここに来た時から……音が聞こえて」
神殿の近くに転送されていた、セトとアルドル。
「そこで、若が神殿の中央でアフロディーテを見つけました。楽器形態は、ハープなんです」
旦那様も若い頃はよく弾いていました、とアルドル。
「親父の話はいいだろ」
溜息をついたセト。
「ハープって、女性が弾くイメージがありましたけど……結構、力がいりますのよね」
兄のグランから教えてもらった、セノーテ。
「セトさん、ハープ弾ける?」
「まあな」
役に立つ日が来るとは思ってなかったけど、とセトが答えた。
ポツポツ、と水滴が空から零れる。
「雨?」
ククルが空を見上げると
「すまぬ、妾の力でゲゼル神殿とイグニス砂漠を隔ていた膜に穴が空いたようじゃ」
この空間は同化する、とラピス。
「お疲れでしょう、ラピス様! 俺がハープ弾きましょうか!!」
セトが言うと
「妾は、ピアノの音の方が好きじゃ」
ラピスに断られた。
「……」
「若、元気だしてください。私は、ハープの音好きですよ」
落ち込むセトを、アルドルが慰めた。