聖夜祭
「聖夜祭、人間はこういうの好きですね」
講堂の中央に置かれたもみの木に、生徒達が飾り付けをしている。
溜息をついたマルタの横では、子猫のルナが欠伸をしていた。
「騒がしい場所は、嫌いでしたか?」
凛とした女性の声。
長い白銀の髪を束ね、瞳を伏せた若い女性を見て
「これは、コアトリクエ校長。少し疲れてしまいまして」
マルタは口元を綻ばせる。
かつて、竜王フナブ・クーの竜奏医師として付き従った女性。
エーテルが強いため、その瞳は常に伏せられている。
現在は、王立アカデミーの校長に就任し、生徒の育成に力を注いでいる。
「……そうですか」
コアトリクエは、しばらくルナの方に顔を向けていたが
「今日は、騒がしくなりそうですね」
そう言って、踵を返す。
片目を開け、ルナはコアトリクエの背を見ていた。
「孫にも衣装とは、このことですわね」
アズールの昔のタキシードをククルに着せ、セノーテは満足そうに頷く。
「く、苦しい……」
襟元の苦しさに、ククルは自然と猫背。
「もう、そんなんじゃダンス踊れませんわよ」
「いくら自分の顔がイケメンすぎるから……ぶっは」
ワインレッドのドレスを着たセノーテのパンプスに足を踏まれ、ククルは痛みに顔を顰める。
「勘違いして欲しくありませんわ。ほら、ククルは編入してきたばっかりですし」
ダンスの相手がいないと可哀想でしょう、セノーテが続ける。
「いや、オレはダンスってそんなに……」
「ちょっと、私の方が先よ」
「あんたが、後ろに並びなさいよ」
長い列を作った女子生徒。
「……何の行列?」
その列の先には、仏頂面で椅子に座るアズール。
「アズール、性格はともかく顔だけはいいですから」
おそらくダンスの相手の争奪戦ですわ、とセノーテが言う。
それに最近、ククルの影響で柔らかくなったとも言われている。
(退院した後、二人で放課後何かやってるみたいですけど……)
聞いた所で「秘密」と言って、アズールは答えてくれない。
「アズール、みんなと踊れば悩む必要もないだろ」
フハハハハ、と馬鹿笑いをするククルを横目に
「貴様は、アホか………」
アズールは呆れて、溜息をついた。




