子猫の飼い主
「お前が居ると、あの畜生が寄ってこないからな」
畜生とは、子猫のことだ。
よっぼどククルのことが気に入っているのか、柱の影に隠れてこっちを見ている。
しかし、アズールに怯えて近寄ろうとしない。
(昔から、動物に嫌われてる僕から見たら贅沢な悩みだ)
アズールは溜息をつくと
「なぜ、そこまで嫌う?」
「お前には、あいつら凶暴さがわからないのか」
ククルは顔を顰める。
「触ったことないからな……」
「お前、混ざってるからな」
大抵の動物はアズールの威圧オーラを警戒して寄らないだろ、とククルは続け
「黄の曲を引けば、出来るかも。竜の威圧オーラを和らげる効果があるんだ」
「ほ、本当か!?」
ちょっと嬉しそうなアズールを見て
「あの畜生に、ちょっと触らせるだけだからな。あいつらの凶暴さを、身を持って実感するがいい」
フハハハハ、と馬鹿笑いをしながらククルが黄の曲を弾く。
「ニャー、ニャー」
警戒していた子猫が、アズールの足元に擦り寄ってくる。
「お、おお……これは、確かに危険な生き物だ」
そして、初めて小さな命を両手で抱き上げた。
「ねえ、あれってアズール様?」
「あの方って、笑うのねぇ。いつも、仏頂面だし」
「バイオリン弾いてる方は、友達かしら」
友人の女子学生たちが噂をしているのを聞いて
(……アズール、珍しく楽しそうですわね)
余計な世話だと言っていたくせに、とセノーテは肩を竦める。
「あら、ルナ。ここに居たのね」
「ニャーン」
穏やかな女性の声を聞いて、子猫は嬉しそうに駆け寄って行く。
「戻って来たら、居ないから心配したのよ」
「マルタ先生の猫でしたか……」
少し残念そうなアズールの後ろで
「この人は?」
子猫の飼い主ということもあり、警戒しながらククルが聞く。
「調律学のマルタ先生だ。確か、楽器調律用の道具を直しにしばらく留守にしていたと聞いていましたが」
マルタはアズールの言葉に頷くと
「ええ、ちょっと辺境の方まで」
腕のいい職人ほどそういう所に居るのよね、と言う。
「君が、編入生のククル君ね」
優秀だって噂は聞いてるわ、とマルタに視線を向けられ
(何だ、この感じ……)
ククルは、ゾクリと背筋を震わせた。




