②清掃員は罪悪感覚える
本日は3話掲載します。
次は17時です。
2人を見た瞬間に、罪悪感に襲われた。
全部、俺が原因じゃないか!
俺は2人の間に割り込んで、田中の説得を試みた。
「真壁! やっぱり俺の思った通りだ! この女と繋がっているんだな! そのせいで俺は!」
軽いイタズラが洒落にならないレベルになり、なぜか田中は犯人を俺だと判断したようだ。
……野生の勘か?
正解は正解なのだが、証拠もないのに犯人と断定するあたり、あいつも「誰かに復讐された」という自覚はあるのだろう。
システムに「口外禁止」の規約は存在しなかったが、真実を話すのは何かペナルティがあるような気がする。ここは真実を上手く隠して説得しなければ。
「落ち着けよ。俺たちは、なんで田中がそんなにエキサイトしているのか分からないんだ。説明してくれよ」
「はぁ? すっとぼけるなよ! 謝ってリカに説明しろよ!」
思ったよりも深刻な事態になっている。
「本当に落ち着けよ。それって、俺と別れたあとに何かがあったんだろ?」
「落ち着け、話してくれ」と繰り返すと、田中はしぶしぶ事情を説明し始めた。
俺を貶めた直後、謎の美女に変なリアクションをされてリカに誤解されたこと。それを俺の仕業だと思い、ずっとトイレで俺を探していたが見つからなかったこと。
そして、諦めかけた時にこの飯村先輩を見つけた、ということらしい。
そんな無駄な労力を使う前に、リカに誠心誠意謝れよ!
「それ、何分後の話だ?」
「あん? 5分か10分後くらいだけど?」
「時間的に不可能だろ。俺が田中に罠を仕掛けるためにアイデアを考えて、飯村先輩に事情を説明して、説得して実行する……それだけのことをその短時間でやるなんて、無理だと思わないか?」
――それを1人でやってのけましたけども(笑)。
「うっ……お前は優秀なんだから、できるだろう!」
「本当に飯村先輩だったのか? よく見てみろよ」
田中はマジマジと先輩の顔を見た。
「髪色が違う気がする……周りが暗いから気付かなかった……」
「だろ? 本当に関係ないんだよ!」
飯村先輩はね! 俺は真犯人だけど!!
田中が少し考え込んで立ち尽くしていると、
「何をしている!」
声と共に、2人の警備員がやって来た。
従業員通用口の近くだから、誰かが通報してくれたようだ。
田中は踵を返すと、一目散に逃げ出した。
警備員の1人が追いかけ、残る1人が俺たちに事情を聞いてくる。
先輩は「知らない男性によく分からないことをまくし立てられ、困っていたところを真壁くんに助けられた」と答えてくれた。
俺と田中の関係を伏せてくれたようだ。
話し終わる頃に、追いかけた警備員が戻ってきた。どうやら田中には逃げ切られたらしい。
警備員たちが持ち場に戻り、ようやく先輩と2人きりになった。
「真壁くん、助けてくれてありがとうね!」
「いえ、元同級生が迷惑をかけてすみません。警備員に事情を伏せてくれてありがとうございました」
「それは別に良いんだよ。でも……ちょっと事情は知りたいかな?」
元同級生だけどほとんど会話したことがなかったこと、再会してなぜか敵愾心を持たれてうざ絡みされたことを話した。
なぜ飯村先輩に絡んだのかは分からない、とだけ答えておく。(俺が原因だとは口が裂けても言えない)。
「そういう同級生っているよね。勝手に妬んだり恨んだりされたら、どうにもできないもん。真壁くん、本当にありがとうね!」
「お力になれて良かったです(笑)」
「真壁くん、お腹空いてる? 良かったら何か奢らせてくれないかな?」
「元同級生が迷惑をかけましたし、それは悪いです。それに、あいつは今も逃走中で危険ですから、駅まで送りますよ」
「……そうだね、エスコートしてもらおうかな?」
「任せてください!」
俺たちは駅に向かって歩き出した。
正直な話、「彼女の好感度を上げろ」という緊急クエストがあったから助けたものの、道中は何を話していいか分からない。
例えるなら、アイドルを見て「可愛い」とか「歌が上手い」と思っても、いざ本人を目の前にしたら会話なんてできないようなものだ。
こんな美人と、恋愛経験なし(※あるいは童貞)の俺がどう会話すればいいのさ!
★
「はぁ、はぁ……何とか巻いたか……」
田中は雑居ビルの隙間に身を隠し、一息ついた。
「真壁の言うことは筋が通っている。俺の思い込みだったのかな……」
落ち着いてみると、なぜあそこまで真壁に執着したのか自分でもよく分からない。
リカに謝ろうと電話をかけてみたが、着信拒否されていた。
前にもケンカした時にされたので「またか」と思ったが、今回は自分が完全に悪い。田中はリカの好きな花束を持って、彼女の職場で直接謝ろうと決意した。
★
経験が浅いせいで、自分から上手く話題を振れなかった。
先輩もそれを察してくれたのか、駅までは当たり障りのない会話になった。
駅まではそんなに距離もなく、5分ほどで到着する。先輩は定期券を改札機にタッチして中へ入った。
「送ってくれてありがとうね! 真壁くんとちゃんと会話したことがなかったから、楽しかったよ〜」
「そう言って貰えて嬉しいです。飯村先輩みたいな美人にそう言ってもらえると、自分に自信がつきますよ(笑)」
「美人なんて……案外口が上手なんだね。女の子に慣れてる?」
「本心ですよ! 気をつけて帰ってくださいね」
「真壁くんも気をつけてね! バイバイ、また話そうね!」
俺は踵を返すと、来た道を戻るように歩き出す。
俺の家は、商業施設を通り過ぎた先にある。
歩きながらスマホでクエストの達成を確認しようとしたその時、背後に視線を感じた。
振り返ると、先輩がまだそこにいて、こちらに向かって手を振ってくれていた。
俺はペコリと頭を下げると、今度こそ駅を後にした。
お読みいただきありがとうございます。
拙い作品ですが、毎日更新出来るように努力します。
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