88話:新武器
「さぁ、ディックスをびっくりさせてあげるわ!」
北門を抜けていくとヴェロニカが気合を入れ始めた。
気合を入れるのはいいが、これ以上テンションを上げるよりも冷静さが必要なんじゃないかな。
隣を見るとノクスは両手を握り拳にして、前を見据えている。
ノクスも気合入っているみたいだな。
早速、ヴェロニカを先頭にして森の中へ入っていく。
モンスターを警戒しながら、2人の様子も観察する。
「2人とも、装備が変わった?」
「そうよ。レンタルはもう嫌だったから買ったわ。
レンタルよりちょっとだけいいモノにしたのよ」
「僕も杖を買ったよ。
魔法の威力とか持続時間とか色々と強化されたから、買って良かった」
レベルが上がって北の森のモンスターを倒せるようになった2人は、レンタルをやめて店売りの武器を買えるくらいには稼げるようになっていた。
まぁ孤児院にいるから生活費がかかってないというのが大きな要因にもなってるとは思うけど。
北の森を進んでいき、最初に見つけたのはゴブリン3体。
「3体だけど問題ないか?」
「大丈夫です。ヴェロニカ、暗闇からの縛りでいくよ」
「分かったわ。お願い」
2人の中では決まった戦術があるみたいだ。
ゴブリンに気づかれる前にノクスが魔法を使っていく。特に変化が見えないということは、ヴェロニカに暗視付与をしたのだろう。
という事はその次には。
そのタイミングでヴェロニカがゴブリンに向かって駆けていく。前に見た時よりも速くなってるな。
接近するヴェロニカにゴブリンが気づいた直後、周りが暗闇で包まれた。こっちも前より広範囲になってる。
暗闇の中はどういう状況なんだろうか、と思っていると私に暗視付与がされた。
暗闇の中の様子が見えるようになると、ヴェロニカがゴブリンの喉から籠手を離す所だった。
喉を殴ったのかと思っていたが、離した直後に喉から血が吹き出した。殴っただけであの出血はおかしい。籠手に何かありそうだ。
引き戻した腕でゴブリンのみぞおちにパンチが繰り出され、勢いよく後方に飛ばされていった。あの1体はもう戦闘不能だろうな。
「いくよ!」
残り2体。まだ暗闇は継続しているが、ここでノクスが声をかけた。という事は、あの影を使って相手の動きを一定時間止める魔法を使うのか。
暗闇の中でキョロキョロしていたゴブリンの動きが変わった。周りではなく足元ばかり見て、腕で足を触ったり、叩いたりしている。
その間にヴェロニカが後ろから近づき、後頭部に一発、後ろ首に一発をくらわせていた。ただ、ここでも首から血が吹き出していた。後頭部からも血は出ているが、量が全然違う。
もう1体にも同じように攻撃をしてから、ヴェロニカがゴブリンから離れた。
ゴブリンは3体とも首から血を吹き出しており、それぞれ止血しようと手で押さえているが、あの量は止まらないだろう。
そこから数分経たずにゴブリンは消えていった。
「お疲れ様。攻撃を一発もくらわずに3体を倒せたな。
見ていたけど、どういう戦い方だったのか教えてくれるか?」
「はい、まず暗視付与と暗闇は見た通りです。
分かりにくかったのは、残り2体になった後の僕の魔法だと思います。
あれはディックスからのアドバイスを元に、動きを全て止めるのではなく、下半身だけを止めるように改良したものです。
下半身だけにすることによって、同時に複数のモンスターを対象にしても大丈夫になりました。
今の所、下半身だけにすれば2体同時でも1体を全身止めた時と同じくらいの時間は続きます」
「なるほど。だから上半身は動いていて、足を動かそうとしていたのか」
「そういうことです」
「あとは、ヴェロニカの攻撃で首から血が吹き出していたけど、あれはなんで?」
「それはこの新しくした籠手のおかげだよ。
見てこれ。籠手を握るとここの部分が尖ってて、これで殴ると突き刺さるのよ。
握ってない時は指に沿ってるから、そんなに危なくないわよ」
ヴェロニカの籠手を見させてもらったが、確かに手の甲から指にかけて、尖った金属が付いている。後頭部を殴った時はそこまで刺さらなかったから出血が少なめだったのかな。首の方が皮と筋肉は薄そうだし。
「こんなの売ってるのか」
「売ってないよ。買った後で付けられないかなって思って相談して付けてもらったのよ」
「よくそんなこと対応してくれたな」
「いい職人さんだったんだよねー。次もその人に頼もうかなって思ってるわよ」
そんな人がいるのか。私の剣も作ってもらえないかな。
私が今使っているのと同じくらいのサイズの剣はなかなか売ってないから。
2人の状況を確認したら、次のモンスターを探しに行く。
ハニービーにゴブリン。3体まではどちらも問題なく倒せている。
ヴェロニカの攻撃力が上がったのはいいことだが、それ以上にノクスのサポートが効いている。このサポートがあるからヴェロニカは安全に戦闘ができて、攻撃に集中できている。
「ヴェロニカ、私が王都に行く時に伝えた魔法はまだ上手くいってないのか?」
「あの風魔法の威力を上げる案だよね?
練習はしているけど、まだ上手くいってないよ。
手のひらに集中させても、腕の周りに出す時とそこまで威力は変わらないし、この籠手の攻撃力を超えるほどじゃないから、モンスター相手には使ってないよ」
「そうか。練習は続けていってよ」
「はーい」
魔術師だからな。武器である魔法の強化はした方がいい。
ガサガサガサガサッ
話をしていたら、周囲から複数の草をかき分ける音が聞こえてきた。
その音の早さから、多分レッサーウルフだな。しかも複数体。
「多分レッサーウルフだ。
2人が倒すための1体は残すから、それ以外は私が倒すよ」
剣を右手に、投げナイフを左手に持ち、2人の前に出る。
その直後、左右からレッサーウルフが現れた。
左に1体、右に2体。ちょうどいい。
左の1体にナイフを投げて牽制しておき、その間に右へと踏み込む。
急接近したレッサーウルフに横薙ぎの一閃を放つ。私の剣に爪をぶつけようとしてきたが、剣速に追いつかずに顔面が斬り裂かれた。
それに怯まずにもう1体が噛みついてくるが、素早く身体を捻り、攻撃を躱す。すれ違いざまに腹部に左腕を捩じ込む。
キレイに入ったパンチによって後ろへと飛んでいった。
左側の1体の様子を確認すると、ナイフを避けてからこちらに向かってきている所だったので、余裕を持って躱す。
「3体だけだったみたいだから、この1体は2人でやってみろ」
「分かったわ。ノクス、一旦支援無しでやらせて!」
「しょうがないな。危なくなったら縛るからね」
吹き飛ばした1体の方へと向かいながら2人の戦いを見る。
ヴェロニカは俺とレッサーウルフの間に入り、それによってレッサーウルフはターゲットをヴェロニカに変えたようだ。
ヴェロニカへと駆けていき、腕を振り上げて攻撃を仕掛けた。
それをヴェロニカは冷静に横に避けた。
その後、数回攻撃を避け続けていく。その間に吹き飛ばした奴の首を落とした。
「ノクス! 縛って!」
「分かった。Uターンする時に縛るよ!」
「りょーかい」
次の攻撃を避けられ、向きを変えて次の攻撃へと移ろうとするレッサーウルフ。
そのタイミングでレッサーウルフが横に倒れ込んだ。
向きを変えようとした勢いで外に放り出されたってことか。顔は動いているから足だけ止めたのか?
いや、足も1本だけ動いてるな。まぁ3本使えないなら立てないか。
倒れたレッサーウルフに向かって駆け出していたヴェロニカは、レッサーウルフに接近した所で高く跳んだ。
は? と思ったが、右腕を大きく引き、落下と同時にレッサーウルフの首へと右腕を叩き落とした。
ゴンッ!
オーバーキルかな。落下するスピードも速く感じたから、風魔法も使っていたような気がする。
突き出した右腕を引くと、レッサーウルフが消えた。
「やったわね!」
「上手い具合に倒れたよ。
立ったままよりも倒れた方がヴェロニカは倒しやすそうだから、この形はいいね」
レッサーウルフも単体はこれで問題ないな。
後は複数体相手の戦闘を見て、そっちも問題ないか確認したい。
ちょうど良く出てきてくれるといいんだけど。
その後、レッサーウルフは出てきたが単体のみだった。
レッサーウルフ複数体との戦闘はまた別日に確認だな。
xxxxxxxxxx
所持金:2,624,780G
xxxxxxxxxx




