第3話 美女と野獣達
今日は、大学にサクラを連れて行ってみようと考えている。
その前に、サクラには学ばなければならない事がある。それを今この俺が朝っぱらから教えてやってるわけなのである。
「良いか?俺とお前は遠い親戚だって事にするぞ。親戚って分かるよな?」
こくんと大きくサクラが頷く。幼稚園児が頷くような大げさなもので、哲治は苦笑してしまった。
「お前は、俺の部屋に3ヶ月暮らす事になった。サクラは電気の通らないような物凄い田舎から来たって事にしておこう。」
サクラは、一応地上の事を勉強してきたと言ってはいたが、たまにとんでもない事を言い出すことがあるので、ど田舎に住んでいたってことにしておけばまあ何とかなるだろうとふんでいた。
「それから、俺には敬語で話すな。哲治さんっていうのも何だか気持ち悪いから止めてくれ。」
サクラは不思議そうに首を傾げていたが、またしても大げさに頷く。幼稚園児を諭している様な錯覚に陥る。
「余計な事は絶対に言うなよ。私は天使だとか、空から来たとか、天上界がどうのとか・・・。」
そんな事をこの世で話した日には、変な女と思われるのが目に見えている。なんせ3ヶ月しかないんだ。第一印象は大切だろう。確かに、サクラは美人だし恐らく友人に会わせれば皆彼女に好感を持つだろう。
しかし、変人となると話は別だ。
「良いか、第一印象が最も大事だ。笑顔が基本だ笑顔。自分の一番可愛いと思う笑顔で笑うんだぞ。よし、やってみろ。」
サクラは、哲治の指示通り笑顔を作って見せた。が、それはエンジェルスマイルとはかけ離れた酷い有様だった。口の右端だけが引き攣ったように上がり、目が笑ってない。ちびまるこちゃんに出てくる野口さんの笑い方のようだった。くっくっくという不気味な笑い声が聞こえてきそうだ。正直怖い。
「何だ、そりゃ。怖い、怖すぎるだろうが!お前仮にも天使なんだろう。天使ってもんはもっとこう可愛らしく笑わないとダメだろ。まず、口の両端を同じように持ち上げて、口を少し開けて・・・何だこう・・・うふって感じで笑うんだよ。っっって俺超キモいだろ。男がうふってなんだよ。やらせんなっっ!!!」
大の男が首を傾げて、うふって笑ってきしょく悪いだけなんだが、やって見せないと分からんだろうとやってはみたが、自分で自分にドン引きした。有り得ない。きしょい。キモい。
俺の嘆き悲しみ、身悶えている姿を見て、サクラは笑っていた。その笑顔を見て、
「そうそう、それそれ、その笑顔だよ。やれば出来んじゃんか。その笑顔が見たかったんだよ。うんうん、それなら可愛いだろ。」
サクラのその自然に微笑んだ顔は、いかにもエンジェルスマイルで、俺のキモい笑顔を見せたかいがあったってもんだ。とにかく笑顔は◎という事だ。
一か八か、サクラを大学に連れて行くことにした。
昼時に、学食に行けば俺の友人が飯を食っているだろう。俺の友人達は、必ず昼に学食で飯を食っている。外に出ようという発想はないようだ。確かに安いが、味は今一なんだが。
俺の後ろをテクテクとサクラは着いて来る。久しぶりに女と歩いたせいか、早足になっていたのに気付かなかった。足の速度を緩め、サクラの歩幅に合わせる。俺が横に来たのが分かって、俺を見上げて、嬉しそうに笑う。確かに、笑っていると天使に見えなくもないが、由紀が買ってきた服を着ているので、普通の高校生に見えてしまう。高校生・・・。あぁ、まずい。高校生って学校行かなきゃいけねえじゃねえか。サクラが学校に通ってなかったら不味いだろ。
「サクラ、お前、18歳って事にしろ。高校はもう卒業して、今仕事探し中って事だからな。」
サクラは意味が分からないっていう顔をしているが、黙って頷いた。
「哲治さん・・・、哲さんのお友達って皆良い人ですか?」
「哲で良い。それから、敬語も止めてくれ。俺の友達はまあ皆良い奴らだと思うよ。」
サクラは、ションボリごめんなさいと言った後、哲治の顔を覗き込んで、
「由紀さんは、哲さ・・・哲の彼女です・・・彼女?」
タメ口に慣れていないのか、ぎこちない事この上ない。その内慣れるだろうと放っておく事にする。
「気持ち悪い事言うなよ。あいつはただの幼馴染だ。小っさい時から一緒だからな。腐れ縁って奴だ。」
サクラは、哲治の顔を見上げ、ニコッと笑った。その笑顔がなんだか愛しくて、妹を持ったような気がして、たまらずサクラの頭をくしゃくしゃっと撫でた。
大学に着き、早速学食を覗くと、案の定友人達は飯を食っていた。一応先に紹介しておこう。
まず、4人テーブルの奥左側に座っているのが、斉藤智弘だ。長身で、金髪頭をトレードマークにしているらしく、他人より頭一つでかいあいつの頭を見たら遠くからでも直ぐに奴だと分かる。顔はいわゆるイケメンでモテるのだが、なんせ軽いもんだから、次々と女を変えている。いくらなんでもこいつをサクラと付き合わせたいとは思えない。
それから、その隣が近藤大地。大阪出身で、とにかく明るい。朝から晩まで面白い事を考え、口に出している。他人を笑わせるのが生きがいとか何とか言っている。だったら、お笑い芸人でなれと言うのだが、それは、嫌なんだそうだ。俺ぐらいじゃ売れないんやと、コテコテの大阪弁で言う。とにかくうるさい。年中お祭り頭の持ち主なのだ。
手前の左側に座っているのが、木村光一だ。こいつはとにかく真面目。黒ぶちの眼鏡をして、いつも本か参考書を持っていて、勉強が趣味だと平気で口にする。ただ、こいつはむっつりスケベのようで、露出度の高い女が通ると、目の色を変える。自分でも気付いていないようだが、俺にはバレバレだ。
そしてその隣に座っているのが、永澤陽介だ。この4人の中で一番普通。優しいと女の子にも人気があるし、顔もそこそこ格好良い。困っている奴をほっとけなくて、色々と相談に乗っては、動き回っている。相当なお人好しだ。だが、それを苦には思わないらしい。人が幸せなら俺も幸せという、現代日本において貴重な人物であるといえよう。
俺は、陽介をサクラに紹介しようと思っていた。この4人の中では、一番まともだと思っている。サクラが陽介を気に入れば良いがな。
「よ〜、お前ら相変わらず食ってんな。」
4人同時に俺に振り返り、よう。と、それぞれ挨拶をする。それから、俺の隣にいるサクラに目を向けているようだ。
「おいおいおい、その可愛いレディはどちら様だよ。お前の彼女だとか言わないよな。」
「ほんまべっぴんさんやんけ、惚れてしまいそうやろ〜。」
「君には似合わない綺麗な人を連れているみたいだね。」
「どうしたの。その子、哲の知り合いか何か?」
これらの台詞が同時に聞こえる、俺は聖徳太子じゃないんだから、そんな一気に聞き取れるかって言うんだ。まあ、頑張って2、3人いっぺんに聞き取れたら良いほうだ。
「俺の親戚の子。サクラ。大学見たいって言うからさ、連れてきた。これから3ヶ月俺の部屋で預かる事になったんだ。」
「あの、サクラです。どうぞよろしくお願いします。」
緊張してるのか、カチカチになっているサクラに何か食うか?と聞くと、うどんが食べたいです。というので、食券を買いに行った。サクラは、俺の後を着いて行くべきか、ここで待っているべきか迷ったようだが、あそこにいる男4人を前にして、怖くなったのか俺の後について来た。
「煩いけど、悪い奴らじゃないから怖がらなくて良いぞ。好きなタイプの奴はいたか?」
「分からない。」
下を向いて俯く、サクラを見て、頭をくしゃくしゃっとして、
「大丈夫だ。怖くない。俺がいるからな。あいつらに変な事させないから安心しろよ。」
哲治を見て、サクラは笑顔を見せる。その笑顔を、俺は気に入っている。
うどんを、お盆に載せ奴等の席の隣に座ると、煩いあいつらが、次々に質問してくる。
「おい、こいつ今食ってんだからよ。話したいならこいつが食い終わるまでまってろよ。」
ちぇっと、口々に舌打ちをしているが、俺はそれを完全に無視する。
「なんだよ。哲お前保護者みたいだな。」
「みたいじゃなくて、保護者なんだよ。預かっている以上、こいつになにかあったら、俺の責任になるんだよ。良いか、お前らサクラに妙な手出してみろただじゃおかねぇからな。」
「なんやねんそれ。お前のキャラちゃうやん。面倒臭い事はやらんのんとちゃうかいな。」
しょうがないだろ、黙っとけ。と、うどんを啜りながら毒づく。すっかり、サクラは怯えている。
奴らは、次の授業が始まると言って、急いで学食から出て行った。だが、次の時間は空いているのか、陽介だけがまだ学食に残っている。サクラに陽介を近づける絶好のタイミングだ。




