第2話 幼馴染
「お前、もちろん洋服なんか持ってないよな?ていうか、手ぶらで来たのか?」
「はい。」
女の服なんか買った事など無い哲治は、サクラの服をどう調達するか迷った。服はまだこいつを連れて行けば良いかもしれないが、下着はどうすんだ?
そこでちらっとサクラの胸元を見る。天使はブラを着けないのか・・・。でも、こっちにいる間は着けないと不味いだろう。あいつに頼むしかないだろうなぁ。
哲治はおもむろに携帯電話を取り出すと、どこかにかけ始めた。
「もしもし。」
「おお。俺。お前にちょっと頼みがあんだ。とにかく俺ン家にすぐ来てくれ。じゃあな。」
それだけ言うと、電話を切ってしまった。ふと気付くと、サクラが哲治の手の中にある携帯電話をじーっと見ている。どうした?と、声をかけると、
「それが、携帯電話といわれている物ですね。ちょっと見せてくれませんか。」
サクラがあまりに興味津々なので、携帯を手渡した。天上界では、地上界の事を学ぶ授業があるようで、携帯電話という物は知っていたが本当に目にするのは、初めてだという。サクラは、携帯を裏にしたり、下から見たり、斜めから見たりしていた。そして、パカッと携帯を開いた。それを見て、哲治は慌てて止めた。が、遅かったようだ。
「どうして、裸の女の人がいるんですか?」
きょとんとした顔で、哲治を見る。そんなきょとんとした顔をされても、逆にこっちが恥ずかしくなって来てしまう。良いから寄越せ。と、携帯をサクラの手から奪った。
あぁ、見てたのに。と、残念そうに下を向くサクラを見て、悪い事をしたかなと思って、今度ちゃんと見せてやるとだけ伝えておいた。それまでに、待ち受け画面は変えておいた方が良さそうだ。
「よし、サクラ。これからこの部屋を掃除するぞ。お前は、台所を片してくれ、俺はこっちをやる。」
気を取り直して、哲治が言う。サクラは、台所に入り、その凄さにたじたじとなっているようだ。哲治は、はて、天使というものは掃除をするのだろうかと不思議に思った。
「さくら。掃除とか出来るのか?」
「習った事があります。でも、やった事はありません。えっと・・・、これがスポンギで、これが洗剤ですよね?」
さくらが、右手にスポンジ、左手に食器用洗剤を持ち上げて見せた。
「ああ、『スポンジ』な。」
そのあまりに真剣な顔で間違えるものだから、つぼに入ってしまった哲治は、『スポンギ』って何だよ?と、腹を抱えて笑い転げてしまった。そんな哲治をどうしたら良いのか戸惑った顔で、眺めている。
ひーひー言いながら、やっと笑いが治まり掃除に取り掛かる。眺めていた筈のサクラは、とっくに台所掃除に取り掛かっていた。
「なあ、サクラ。お前どんな男が好みだ?」
取り敢えず、サクラにどんな男を紹介したら良いのか、リサーチする為に色々聞いておこうと思った。
「分かりません。」
サクラは、食器を洗う手を止める事無くそう言った。
「じゃあ、今までで好きになった奴はいるんだろう?」
「いません。」
相変わらず手は止まる事無く、こちらを振り向く事さえない。
「おいおい、マジかよ。別に、天上界では、恋愛を禁止しているとかじゃねぇんだろ?」
「禁止はされていません。ただ、私は誰も好きになる事はなかっただけです。」
う〜ん、と腕を組んで、哲治は思案した。
「ところで、俺みたいなタイプはどう思うんだ?」
サクラは、初めてこちらを振り向いた。両手には、泡が山ほどついている。洗剤の使いすぎだろう。どんだけ、つけたんだと突っ込みたくなった。
「あの、哲治さんはとっても優しいと思います。それにカッコいいですし。」
何となく、照れているようだ。可愛いところもあるんだな。と単純に哲治は頬を染めたサクラを見ていた。
ガチャッという大きな音とともに、女が入ってきた。
「ちょっと、馬鹿哲。私を呼び出そうなんて、百万年早いのよ。すぐ来てくれ・・・ですって、偉そうに・・・」
物凄い勢いで、捲くし立てていた女がサクラを見て、止まった。見知らぬ少女の前で、大声を出していた事を恥じているようだ。お前にそんな恥じらいがまだあったのかと心の中で、罵った。
「何こんな美少女部屋に連れ込んでんのよ。」
「ああ、この子俺の親戚の子なんだ。3ヶ月だけ、うちで預かる事になったんだ。だけど、こいつ洋服も持たずに来ちゃったもんだから、着るもんなくてさ。悪いんだけど、一緒に行って、見立ててやってくれないか?サクラっていうんだ。サクラ。こいつ俺の幼馴染で、山下由紀。」
俺の幼馴染、山下由紀。産まれた時から家が隣同士で、同い年ということもあり、毎日のように遊んでいた。幼馴染といったら、年頃になるにつれ疎遠になって行くものだが、こいつとは、違った。高校も同じ学校だったし、今在学中の大学も一緒だ。毎日つるむという事は流石にないが、週に2,3回は会っている様に思う。俺達二人に、特別な感情が生まれた事は一度たりともない。というか、止めてくれ気持ち悪りぃ。想像するのもおぞましい。そんな存在だ。
「別に良いけど。大丈夫、あんたこの子に手出さないでしょうね?」
「出すわけねぇだろ。身内に手出すかよ。」
出すわけがない。嫌、出せるわけがない。彼女は天使なのだ。手など出して、罰でもあったったら、たまったもんじゃない。
その後、二人は買い物に出掛け、哲治は地道に部屋を片していった。こんなに自分の部屋が綺麗になったのは、引っ越してきた日以来だ。なんとかやり遂げた哲治は、大の字になってねっころがえった。
暫くして、二人は帰ってきた。両手に袋を一杯抱えて。帰ってきた二人は、すっかりと打ち解けているようだった。
「サクラちゃんって本当に良い子だわ。本当に手出すんじゃないわよ。」
分かってるよ、しつけぇなと、横になったままお座成りに答えた。由紀が、今日は夕飯を作ってやると偉そうにいったので、多少気分が悪いが、そこはそれ飯に惹かれて食べてやる事にした。由紀は、飯を食って、帰って行った。
さくらを寝室のベッドに寝かせ、哲治は、居間で寝る事にした。
「お前に、手なんか出さないから、安心して眠れよ。おやすみ。」
おやすみなさいと、小さな声でサクラが言ったのを後ろ手に聞いて、寝室を出た。
明日から、サクラにとっても哲治にとっても忙しい毎日が始まる。
面倒くせぇなぁ・・・。
それがこの時の、俺の本音だった。
どうもいつも有難うございます。
なかなか投稿出来ませんが、少しずつ頑張ります。
別連載中『1cmの距離』も宜しくお願いします。
こちらは、平日は毎日更新しています。
それでは、また。




