第1話 天使降臨
「1cmの距離」という作品と同時連載を始めました。こちらは不定期更新になると思います。こちらの方は、無理をせずに気長にやるつもりでいます。ちなみに「1cmの距離」の方は、平日は毎日更新、土日休みです。どちらも是非読んでください。
虹が出ていた。
その虹をポカンと口を開けて見ていた杉田哲治は、虹の中に黒い物体があるのを発見した。
あれはなんだ?隕石じゃねぇだろうな。なんか分かんないけどこっちに来てないか?
その物体はゆっくりゆっくりと哲治の下へ落ちてきていた。よくよく見ると、それは女の子だった。
おいおい待て待て、女の子じゃねぇか。普通女の子って空から落ちてくるのか?これじゃまるで「シータ」(天空の城ラピュタの女の子の名前)じゃねぇか。ちょっと待てよ、受け止めないとやばくないか?でも受け止めたら俺がやばくないか?
哲治の心の叫びなどお構い無しに、女の子はゆっくりと哲治の上へと落ちてくる。哲治は、自分が住んでいる賃貸マンションの屋上に寝転がり、虹を見ていた所だった。こんな晴れている日に何で虹なんかでてんだと不思議に思っていた所だったのだ。
女の子がどうにも哲治がいる屋上へと落ちてくるようなので、仕方なく受け止めてやる事にする。このスピードなら何とかなるだろうと踏んでいたのだ。
しかし、女の子が哲治の腕の中に来た途端、ずっしりと体重が両腕に圧し掛かって来た。これはヤバイと思ったが、とにかく下に降ろす事にした。若干乱暴に降ろしてしまったので、女の子は目を覚ました。
「ここは、どこですか?」
年は、恐らく高校生くらい。真っ直ぐに伸びた黒髪は肩の高さまであり、色白で、目が大きく日本人形のような美少女だ。少女は白いワンピースを着て、靴は履いてなく、裸足だった。
「どこって、東京だけど。」
「東京って、人間界ですか?」
少女は哲治の目を見つめて変な事を聞いてくる。
「人間界?まあ、人間界だな。他にどんな世界があるのか俺には分からんが。」
哲治はこいつはもしかして変人じゃないかと考え始めていた。
「お前、空から落ちてきたんだけど、どっから来たんだ?」
「天上界・・・。」
「はあ?天上界?なんだそりゃ・・・。頭どっか打ったんじゃねぇか?とりあえず病院行け、病院。」
いよいよこいつは変人に違いないと確信を持ち始めていた。
「私・・・。天使なんです。」
「おいおい、冗談は止してくれよ。俺だって暇じゃないんだぜ?精神科に行った方が良いんじゃないのか?」
少女は哲治の目をじっと見て、
「分かりました。私が天使だという証拠をお見せします。でも、ここでは誰が見ているのか分かりませんから、どこか人気の無い所へ連れて行ってください。」
なんか変な事に巻き込まれてしまったと思ったが、この少女が言う、天使の証拠を見てみたい好奇心がむくむくと湧き上がって来てしまったので、取り敢えず見て、本当におかしな奴だったらすぐに追い出せば良いだろうと考え、少女を自分の部屋へと招き入れる事にした。
哲治の部屋は、独身男子の部屋なだけあって、非常に汚い。服は脱ぎっぱなし、カップラーメンの容器は置きっぱなし、いつ使った物か分からないコップがテーブルの上に置いてある。台所も洗ってない食器であふれている。ゴミも出していないので、袋が山積みになっていた。
部屋の間取りは、2DKで居間の隣に寝室が一応ある。学生にしては、良い住まいに住んでるほうだと自負している。
哲治は、このマンションの近くにある、私立大学の文学部に所属している。今二年生だ。一年留年しているので、哲治は今21歳だ。大学の方もサボり癖がついてしまって最近は全く行っていない。彼女も今の所はいない。作る気も無い。作る気が無いからと言って女が嫌いだと言うことではない。ただ、面倒なだけだ。
哲治は、特に目立った顔立ちをしている訳じゃないが・・・まあ普通だろう。背は高いほうだ185位ある。最近計ってないから分からないが、もしかしたらまた伸びたかもしれない。
少女を招き入れて、哲治は取り敢えず表面上に落ちているゴミやら服やらを大雑把に襖の中に投げ込む。
少女はその姿を驚きの眼差しで見ている。
「それで・・・証拠を見せてくれるんでしょう?さあ、どうぞ?」
少し意地悪く聞いてやる。
すると少女は手を胸の前で交差して、目を閉じる。一瞬強い風が部屋の中を掻き回した。哲治は目を開けておく事が出来ず、閉じていた。
風が収まったようなので、恐る恐る目を開いてみると、そこには哲治の目を疑う物があった。
「なんだ・・・それ?」
呆然とした哲治が自分でも出した覚えのない声が口からこぼれ出ていた。無意識のうちに出た言葉だ。
「翼です。天使ですから。翼を持っています。」
少女の背中には大きくて美しい白い翼が生えていた。少女が哲治にも良く見えるようにと背中をこちらに向ける。
「触っても良いか?」
「良いですよ。でも強く引っ張らないで下さいね。痛いですから。」
哲治は少女の背中、丁度翼の生え際を触ってみる。明らかに本物。作り物ではない。翼に羽根が一本一本生えている。その一本を引っ張ってみる。
「いった〜い。引っ張らないで下さいって言ったじゃないですか。翼にも神経通ってるんですから。」
目に涙を溜めて叫んだ。
「悪りぃ。本物なのかと思って、これ動かせるのか?」
「もちろんです。天使は翼で飛ぶんですから。」
哲治は、まだ少女の背中をまじまじと見ている。無理も無い、こんな物を見たのは生まれて初めてなのだ。
「飛んでる所を見せてくれないか?」
「駄目です。外で飛んでもし、人間に見られでもしたら、私は破門です。人間に見られてはならないので、いつもは隠しているのです。」
「俺には見せて良いのかよ?」
「特別一人の人間には見せても良い事になっています。これは特別です。この人間界で暮らすにはどうしても一人の人間には知らせる必要が出てきてしまいますので。」
そう言うと、少女は美しい白い翼をしまってしまった。あっというまに消えた翼。見ていたのに、どこへ消えたのか哲治には皆目見当もつかない。目の前でマジックを披露された様な気分になった。
「私はサクラといいます。年は人間界で言うところの17歳です。天上界には歳を数えると言う習慣がありませんので。折り入ってあなたにお願いしたい事があります。」
このサクラという少女が、哲治に向き直って話し始めた。
「実は私、天上界の学校で赤点を取ってしまって・・・。あまりに成績が悪いので、罰として人間界へ3ヶ月間修行をして来る様に命じられました。その3ヶ月の間に一つの課題を課せられています。それをこなさない事にはもう3ヶ月修行期間が延びてしまいます。お願いします。3ヶ月間ここに置いてくれませんか?それから、出来ればその課題の手伝いをして頂けないでしょうか。」
「その課題って何?」
哲治はどかっと座って、お前も座れと手で合図する。サクラも慌てて腰を下ろす。
「それが、恋をして来いという物なんです。」
「恋?」
「はい、恋をしないといけないんです。天使というものは人に幸せを与えなければなりません。しかし、恋という物を知らない者に幸せを与える事は出来ないと言うのです。私は、恋という物がどんな物なのか良く分かりません。それが落第を取った理由です。恋を知らない物は一人前の天使にはなる事が出来ないのです。」
「俺にその手助けをしろと?」
「はい、お願いできますか?」
哲治は、サクラの顔を見た。真剣に哲治の目を見る眼差し、本当に困っている様に見える。
「よし、良いだろう。今日から3ヶ月だな。俺がお前に恋という物の醍醐味を教えてやる。俺がお前に良い男を紹介してやるから心配すんな。」
哲治はサクラの真剣な眼差しに、気圧されてとうとう引き受けてしまった。面倒臭い事この上ないが、たまには人(天使)助けも良いじゃないか。
こんにちは。
新連載です。楽しんで頂けましたでしょうか。
無謀にも同時連載を試みています。もう一つの「1cmの距離」もよろしくお願いします。




