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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイド 帝都に行く――  作者: あてな
【第一章】ドラゴンと少女たち帝都に触れる
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淡い意識

 一方の部屋。つまりはキルトランスの部屋の隣であり、アリアとレッタとホートライドがいる部屋である。

 アリアとレッタがベッドの上で雑談に興じているのを黙ってみているホートライドではあったが、その心中は複雑である。

 最初に部屋割りの話が昼食で出た時に、ホートライドは自分もキルトランスと同じ部屋でも良いと言ったのだが、それはカタン大佐に難色を示された。

 だが考えてみればそれも当然であろう。年頃の自分の娘が年頃の男と同じ部屋で寝るというのは、例え部屋にドラゴンが居たとしても快いものではないだろう。そこの配慮をすっかり失念していたのだ。いくら安全だとは理解できたとしても、娘がドラゴンと同じ部屋で暮らすとすれば、それだけで父親として普通に不安になるだろうに、そこに人間の男がいればもはや論外である。

 そして部屋にはベッドが二つしか無い。広いベッドではあったが、それでもキルトランスは大きい。彼一人でベッドを十分占拠してしまう。そうなるとホートライドは自動的にイルシュと同じベッドに寝ることになる。

 そこでふと彼はイルシュについて考えた。

 (そういえば、村ではいろいろ一緒にいた時間もあったけど、イルシュと二人きりになった事はなかったし、夜は自分の家に帰っていたしな。)

 だから皆で一緒にいる時以外の彼女を知らないのだ。そしてそれを意識してなかった程度の興味しか無かっただけである。数週間ほどではあったが、自分が彼女を特に意識していなかった事を自覚した。

 (まあ、おっぱいは揉んでみたいけど。)

 正直である。と言うよりは、あれを見ると男女関わらず一度はどんなものなのか触ってみたくなるのは致し方ない。現にアリアもレッタも散々揉んでいる。

 それでも目の前で(たわむ)れているレッタの方に視線を送ると、自分の心が再確認出来た。

 部屋に戻って胴衣(ボディス)を解いた彼女の体の線はゆったりとして、無邪気な笑顔とは対照的に少々扇情的である。そもそも、イルシュが規格外なだけで、レッタの体の線も自警団連中の間ではよく話題になるくらいには性的魅力があるのだ。

 (……何日ここにいるか分からないけど、大丈夫かな……。)

 そう思ったが、彼はすぐに(かぶり)を振って否定した。

 大丈夫も何も、よく考えれば自分は三日間も一緒に寝ていたからだ。

 昨日は隣の部屋で別々のベッドで。一昨日は帝都の安宿で同じベッドで。そしてその前日はタタカナル村の彼女の部屋で。大体において疲労困憊してほとんど記憶はないが、冷静に考えれば中々の状況だ。

 (今さら心配する事でもないか……。)

 彼女の幸せそうな顔を見ながらホートライドは苦笑した。

 逆に言えば、レッタは四日以上アリアと一緒に寝ていなかったのだから、アリア欲が暴走している状態なのだ。先ほどからベッドの上で抱き合ったり頭を撫でたり匂いを嗅いだりと、ありとあらゆる触れ合いをしている二人を観ながら思った。

 ホートライドは知っている、レッタがアリアを愛している事を。しかもそれが所謂(いわゆる)普通の幼馴染みとしての友愛を越えている事も。もっとも、知っているというよりは子供の時から散々付き合っていれば嫌でも分かる程に露骨なのだ。

 だからそれを今更どうこう言う気にもなれない。ホートライドが好きになったレッタは、それを含めての彼女なのだから。

 そして彼もまたアリアを大切に思っている。レッタに自分だけを見て欲しいという欲望が無いわけではないが、二人の仲を引き裂いた時に手に入るレッタは果たして本当に自分が欲しい彼女なのか、という疑問もあった。


 それからどのくらい時間が経ったであろうか。放っておけば体力の尽きるまでじゃれていそうな二人の少女にようやく声をかけることにした。

 「明日からどうなるか分からないけど、とりあえずそろそろ寝ようか。」

 「あ、はい。そうですよね。」

 「ん~、まあそっかぁ。」

 少女たちはようやく顔を上げて彼の事を認識したかのような反応を返す。ふとレッタが弾かれたように起き上がって言った。

 「そう言えばさ!イルシュがウチで言ってたじゃん!この家、中にお風呂があるんだって!」

 「確かに言ってましたね。」

 アリアもその言葉に(うなづ)く。ちなみにこの場合のウチは当然オレガノ邸の事である。

 タタカナル村には個人の風呂を持っている家は無い。基本的に村人全員が共同の風呂を使う。

 水事情は比較的恵まれており小川や溜池は存在するが、文字通り「湯水のように」お湯を使えるほどの豊かさは無い。

 だが、帝都は南にあるラヤ湖から引いてある二本の運河が帝都を貫いており、生活用水も豊富である。街の随所に巨大が公衆浴場もあり、金持ちや貴族の邸宅には専用の風呂があるのは当たり前であった。

 言葉では聞いた彼女たちだが、いかんとも想像の限界はあり、実際にどんなものなのか興味は深々であった。もっとも単にイルシュの説明が下手なだけな可能性も高いが。

 村を出てまだ数日とはいえ、ようやく衣食住の心配が無くなった彼女たちに、ようやく必要以外の事に気を回す余裕が出てきたとも言えよう。

 だがホートライドは苦笑しながらレッタを諌める。

 「僕も見てみたいけど、僕らはあくまでも押し掛け客みたいなものだからね。図々しいお願いはしちゃダメだよ。」

 「分かってるわよ、そのくらい。ただ気になったってだけでしょ!」

 そういうレッタであったが、やはりどこか不満そうではあった。

 「もしかしたら入れてもらえる機会もあるかもしれませんから、今日はとりあえず寝ましょうよ。」

 声色からレッタの気持ちを十分に理解したアリアが苦笑しながら彼女に手を添えた。レッタは優しくその手を握り返すとホートライドに振り向いた。

 「って事で着替えるからちょっと外に出てて。」

 「はいはい。」

 そうなるであろう事は事前に予想していたホートライドは大人しく外に出ていく。


 部屋を出て廊下に立つ。

 二人の着替えはどのくらいかかるだろうか。5分もすれば終わるだろう。その間をここで無為に時間を浪費するのも馬鹿馬鹿しく思えたので、少し屋敷の中を歩いてみようかと思った。

 左右を見回すと、未だ見慣れぬ広くて暗い廊下があり、左右に一人ずつ見張りの兵が立っていた。

 もちろん彼らは監視はしているが、特に自分達と敵対するものではないだろうから、歩き回ってどうこう言われることもないだろうが、やはり気持ちの良いものではない。

 隣のキルトランスの部屋に行ってみようかとも思ったが、イルシュがどのような状況か分からない以上、不要に乗り込むのも躊躇(ためら)われた。

 その時、奥の兵士が少し顔を動かした後に敬礼をしたのが見えた。すると廊下の角から中途半端に敬礼を返しながら灯りを持ったイルシュが現れた。どうやらキルトランスの部屋には居なかったようだ。

 長い廊下で彼女を待ち続けるのも間が持たないため、ホートライドは自分からも向かうことにした。

 「どうした?こんなところで。」

 そう語りかけたイルシュは外套(がいとう)を羽織っていたが、その間からは薄い絹の寝間着姿が(うかが)えた。締め付けの強い軍服を着ていると彼女の胸はどうしても不必要に強調されてしまうが、ゆったりとした寝間着を着ると、だいぶん彼女の印象が変わる。

 大きな胸に持ち上げられた布は大きく広がり、少々太っているような印象になるが、腰に巻いた布の絞りがそうではないと主張する。頼りない灯りに照らされて鈍く光る絹は今まで見たこともない妖艶さを出していた。

 「あー、いや、今二人が中で着替えをしてるから……。」

 「だよな?!それが普通だよな?!」

 言葉の途中でいきなり食いついてくるイルシュ。締め付けのない胸元が大きく揺れてホートライドは思わず目を背けた。暗く静かな廊下に彼女の声が響き、兵士たちが何事かと首を向けたが、持ち場を離れるほどの状況ではないと判断してその場でこちらを見ていた。

 「なんで私が戻って着替えて、アイツが部屋で寝てんだよ!」

 その言葉でようやく状況が理解できたが、苦笑しか出ない。恐らくキルトランスの事だ。その辺で勝手に着替えろとでも言ったのだろう。

 服という文化のないドラゴンニュートの彼も、村で過ごすようなり人間の羞恥心なる文化をある程度は理解できたが、まだそれを応用できるほどまでにはなっていない。まして相手がイルシュともなれば、彼が気を回すなどという事は無いだろう。

 「まあ、ほら。一応は今回の計画の主役なんだしね。」

 そう適当になだめる。

 「でも私の家だぞ!」

 カタンの家である。まあ家族である以上は間違いはないのだが、彼女に所有権は当然無い。もっともホートライドの家だって彼の所有物ではないのだから、そこを言い出したら切りがない。

 「まったく、巡回がいるから外出るのヤなんだよ……。」

 その言葉でようやく合点がいった。その不自然な外套(がいとう)は寝間着姿を兵たちに観られないようにするためのものだったのか。

 確かに普段であれば館内に使用人は別として、赤の他人がいる状況はそうそう無いだろう。彼女もどうせ身内しかいないのなら、その薄い寝間着のまま自由に廊下を歩けるのかもしれない。

 暗い廊下でブチブチと文句を垂れ流すイルシュを見かねて話を逸らす。

 「ああ、そう言えばさっきレッタがお風呂がどうこう言ってたよ。」

 その言葉を聞くとイルシュは若干不機嫌そうではあったが、話を変えてくれた。

 「え?なんで風呂?……あ~、そっか。そういや明日は風呂の日だな。」

 それなりの名家でもどうやら毎日風呂に入れる訳ではないようだ。実際、水は豊富とは言え、湯を沸かす燃料はかかるのだ。

 だがそもそも今のアルビにおいて、風呂は習慣ではなく娯楽の延長である。毎日欠かさず入れるような身分は余程の豪商か王公貴族だけだ。

 だが、毎日入れないもう一つの理由を彼らは明日知ることとなる。

 「まあいいや、明日風呂ん時には声かけるからさ。」

 やはり風呂は楽しいらしく、彼女の声色も若干改善された。

 そして盛大にため息を付くと、イルシュは軽く手を振って歩き出した。

 「んじゃ、おやすみ。」

 ホートライドも返事をすると、とぼとぼと部屋に入るイルシュを見送った。

 「……そろそろいいかな?」

 扉が閉まるのを見て、ホートライドも自分の部屋に戻ることにした。


 二つの扉が閉まり、広く暗い廊下には再び静寂が戻った。

 二人の兵士も再びつまらなさそうに立ち尽くす。次の交代が早く来い、と願いながら。

 こうして帝都三日目の夜も平和に終わろうとしていた。

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