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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイド 帝都に行く――  作者: あてな
【第一章】ドラゴンと少女たち帝都に触れる
21/41

丁々発止

 「そう言えば、もう一匹の人型のドラゴンと言うのはどこにいるのだ?」

 ヴィラーチェに関しては警戒半分と言った様子になった兵士たちは、ふと我に返って本題を切り出した。やはり来たか、と言った顔をする自警団達。

 「あー……。キルトランスど……は、今少し村を離れていてな。」

 いつもの癖で殿と付けそうになってジャルバ団長は言い直した。色めく兵士達。本来は最も脅威とされていたはずの人型ドラゴンが不在となれば、村の脅威が半減したことになる。

 「どこへ行っているのだ?」

 本来の帝国兵士らしい詰問口調が戻ってくるが、それに(ひる)むような自警団ではない。

 「さあ?今朝、北の方に飛んで行ったが、どの辺に行ったのかはさっぱりわからねえな。」

 うそぶく団長に懐疑の目を向ける兵士。モルティ副団長は素知らぬ顔で後ろを向くと、口に指を当ててヴィラーチェに黙っているように伝えた。なにせ普段の彼女であれば間違いなく「今朝てーとに行ったじゃないですか。」などと平然と言ってしまいそうだからだ。そして彼女に真意が伝わっている事を願った。

 はたして彼女は少し小首をかしげていたが、彼の意志が分かったのか満面の笑みでニッと笑って見せた。

 「いつごろ戻るのだ?」

 「さてね、なにせドラゴン様を縛ることは人間にはできないんで、適当に帰ってくるだろうぜ。」

 これは事実と異なる。キルトランスは基本的にあまり家から出たがらない。まして村から外に出る事などほとんどない。確かにドラゴン界とは自然が全く異なるアルビを見て回るのもつまらないという事はないであろう。だが彼はそれ以上に人間の文化や生活が面白いのだ。

 「それでは村の中を改めさせてもらう。」

 その瞬間、団長は一歩踏み出した。

 「そいつは諦めてもらおうか。」

 静かだが有無を言わさぬ迫力に兵士たちがたじろぐ。

 「き、貴様、帝国のいう事が聞けぬと言うのか?!」

 「今のお前さん達が帝国だって?笑わせるんじゃねえぞ。」

 ジャルバ団長はいつものような豪胆さで話を続けていく。この背中がタタカナルの平和を維持する自警団達の信頼の背中なのだ。

 「上からの命令書はあんのかい?タタカナル村の捜索命令でもあってここに来たのか?」

 「先日も俺たちに何の通告もなく、突然村を襲っておいてその態度か?」

 気圧されながらも反論する隊長格。

 「先ほど命令と言ったな。ドラゴン討伐は帝都から正式に命令されたものだ!」

 「そうかよ、お勤めご苦労さんなこった。だがな、お前ら帝国は村に火を放ったんだぜ?その時は『たまたま撃退』できただけで一歩間違えりゃ沢山の死者が出ていたところだ。」

 ジャルバの表情に明らかな怒気が込められる。

 「そんな奴らをこの村に一歩たりとも入れるつもりはねえ。」

 完全なる拒絶宣言をするタタカナル自警団の団長。団員たちは内心喝采を送る。

 兵士たちは狼狽えつつも村の方を見る。見ればいつの間にか自警団員がずらりと村の入り口の付近に集まっていた。

 いくら帝国の正規兵と言えども、騎士ではないのだ。数の不利はいかんともしがたい。まして本来の本隊である駐屯軍は全滅したのだ。応援を呼ぶことすら出来ない。

 ここは一度徹底するべきだと隊長格の兵士が思ったとき、緊張感にそぐわない声色でさらに緊張感が高まる言葉が流れた。


 「あのですね。その人間達は殺しちゃった方がラクじゃないですか?」


 モルティ副団長の肩に座った魔物が笑顔で放った言葉だ。

 そこでようやく彼らの中に恐怖が生まれた。外見で油断していたが、目の前の生物は列記とした魔物。異世界のドラゴンなのだ。

 だが思わず飛びずさって剣を構えようとした兵士達にさらなる恐怖が襲い掛かった。

 飛びずさった足元がぐにゃりと歪んだかと思うと、一気にジャルバ達の身長が伸びた。いや、正しくは自分たちが縮んだのだ。

 兵士たちが足元を見ると、自分たちの脚が膝ほどの深さまで『土に浸かっていた』のだ。彼らの口から悲鳴が漏れる。

 「な?オレ達がドラゴンを使えるわけじゃねえだろ?」

 内心余計な事をしやがってとは思ったが、とりあえず状況に便乗する事にしたジャルバ団長。頭を伏せ顔を覆うモルティ副団長。

 いくら鍛えられた兵士と言えども、膝まで土に埋められた状況から脱出するのは安易ではない。まして泥ではなく完全なる土。しかも沈む一瞬だけ液状化して、今は元に戻った普通の土なのだ。もちろん剣で穴を掘れば脱出は可能だが、その間に仕留められるであろう。

 「あなた方のお仲間は全員そうやって土の中で眠っています。」

 頭を抱えながらも言葉を紡ぐモルティ副団長。

 「なあ、悪いことは言わねえから、今日の所は大人しく帰ってくんねえかな?」

 少しだけ同情のような表情をしながら少し屈んで視線を合わせながら兵士を(さと)す団長に、あわてて首肯して助けを求める兵士達。

 「という訳なので、ヴィラーチェ。彼らを解放してあげてください。」

 肩の上にいる彼女にお願いをする副団長に、「そうなの?ま、どっちでもいいですけどね」と無邪気に答えるヴィラーチェ。

 兵士達にはその無邪気の裏に潜む魔物の狂気を感じたであろう。やはりこの魔物は人間の命など何とも思っていないのだ、と。彼女とまだ見ぬもう一匹のドラゴンがこの村を守っているのはたまたま気分がそうだっただけであって、気分が変わればこの村など一瞬で壊滅させることが可能なのだ。

 だが、兵士たちは気づいていない。三日前のあの日、数の優位に酔いしれて村人の命など何とも思っていなかったのは自分たちも同じだったという事を。実際に村長はその凶刃に倒れたのだ。立場が変われば人間はいとも容易く心が変わってしまうものなのか。

 途端に彼らの足元が盛り上がり、彼らは再び土を踏む事ができたが、その瞳から完全に戦意は失われていた。

 解放された三人は飛び乗るように馬に(またが)ると、(くつわ)を返した。

 「貴様ら!この事は報告するからな!覚えておけよ!」

 そんな捨て台詞を吐いて駆け出す三人。あまりにも分かりやすい負け犬の遠吠えを聞いて苦笑しながらも見送る団員達。

 「ほら、あんな事言ってますよ?やっぱりやっちゃいましょうよ。ちょちょいのちょいですよ。」

 せっかくの好意を反故にされて不満そうなヴィラーチェをなだめるモルティ副団長。

 「いえ、今回はこれでいいんです。無駄に死者を増やす必要はありません。」

 ジャルバ団長は頭を掻きながら振り返ってヴィラーチェを見る。出来る限り穏便に偵察隊を帰したかったが、結果的には失敗であった。だが彼女も彼女なりに考えての行動だったのだ。それを無下(むげ)に怒るわけにもいくまい。

 「まあ、そのなんだ。すまんな、気を使ってくれて。」

 こんな結果になってしまったが、結果的には彼女が味方でいてくれることが心強かった事も事実なのだ。ミナレバ駐屯地からの偵察隊が来ることは予想していた。だがどれほどの人数が来るかはわかるはずも無かった。今回たまたまたった三人だっただけで、これがもし分隊以上の人数が来ていれば状況はかなり不利だったかもしれない。

 ジャルバの言葉を額面通りに受け取って嬉しそうに尻尾を振るヴィラーチェを見て、なんとなく子供心に親切をして大迷惑をかける村の子供たちのような感覚がして苦笑した。

 「しかし、これで確実に帝都側には知られてしまいましたね。」

 遠ざかる兵士たちの背中を見ながら呟く副団長。

 「気にすんな。遅かれ早かれ知られていたことだ。」

 そう言いながら村へ戻りはじめるジャルバ団長に団員達も続く。(やぐら)の近くでは待機していた団員たちが喜び勇んでいた。

 モルティ副団長はふとキルトランス達が消えていった北の山脈の方を見ながら呟いた。

 「これであなた達の交渉の結果が本当に村の命運を左右することになりそうですね……。」



 こうしてこの日の昼には三人の兵士たちによって、討伐隊の全滅とタタカナル村の反旗が帝国軍部に伝わる事となった。

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