内戦⑥
ズヒューーーーーーーーーーーーーン…ドオン!
「またか…眠ることも許されないのか…」
いつの間にか、執務机でうたた寝をしていたオルタラント公ウェルズはグリフォンによる空撃により目を覚ました。
連日の空撃により、起こされることに慣れてしまい。あまり危機感を覚えなくなっている。
はじめの空撃で物資に壊滅的な打撃を受けたが…その後は、こちらの魔術師の奮闘により被害は最小限に抑えられていることもあるだろう。
ズヒューーーーーーーーーーーーーン…ドオン!
しかし、この爆音は何度聞いても慣れない。それは、兵達も同じようで、昼間すれ違う兵達は誰もが疲れ切った顔をしていた。
そんなことを考えていると、コンコン…ドアがノックされる。
「開いている…入れ。」
「失礼いたします。ブルーム殿下が至急…執務室へ来て欲しいとおっしゃっています。」
…最近は夜間の空撃に慣れてしまい、空撃があっても過ぎ去るのを待つだけで…軍議など開かれぬのだがどうしたのだろう?
「すぐに向かう…。」
そう言って執務机から立ち上がり、外套を羽織ると殿下の元へ向かう。
棟が分かれているとはいえ、そうは離れていない建物に入り、殿下の執務室の前まで来ると、使者らしい人物が部屋から慌てて出てきた。
密偵だろう…何かの指示を受けて急いでいるのだろう。かなりの勢いで出ていった。それを避け、執務室のドアをノックする。
「ウェルズ公か?どうぞ…入りたまえ。」
「失礼…どうされましたか?」
「いや…ラース将軍に使者を送り…返事がきたのだがね。」
そう言うとブルーム殿下は困ったように顔を歪めた。おそらく、厳しい返答がきたのだろう。
「どのような内容でしょうか?」
「…降伏の条件について使者を送った。こちらは領土の一部保証と身の安全、領民の保護を条件にしたのだが…認められたのは領民の保護だけだった。ほぼ無条件降伏を突きつけられたも同然だ。」
「…おそらく、ラース将軍は我々を潰し、再起の芽をなくそうとしているのでしょう。…しかし、無条件とは…これで降伏する訳にはいかなくなりました。」
いくらなんでも無条件降伏はあり得ない。ラース将軍は我々を殺すつもりだ…なら、譲歩はありえないだろう
「…そうだな…しかし、勝てるか?」
普段は自信に溢れた方だったが…近頃の敗戦ですっかり自信を失われてしまった。ただ、戦わずこのまま降伏すると逃げることも難しくなる。
「勝てます…勝ってみせます。殿下…ご決断を」
ここで降伏しても…負けても結果は変わらないなら、譲歩を引き出すのが難しくても勝負に出るしかない。
何より、この戦場では数は互角なのだ。グリフォンによる空撃は最小限の被害に食い止めているし、市街中心部では、大砲も使用場面が限られるはずだ。
短期決戦で賭けに出るのは、悪くない賭けだ。何より負けてもプロセリアに亡命する準備ができている。最悪…私だけでも逃げれれば自分の命と向こうにある財産は保証されるはずだ。
「ふむ…そこまで言うなら、ウェルズ公に任せよう。」
「はい…謹んでお受けいたします。」
その時だ…空撃ではない爆音が辺りに木霊した。
ドォオオオオオオオオン!ドン!ドォオオオオオオオオン!
「…大砲か?近いな。」
まさか、このタイミングで…総攻撃か?バカな…被害にお構いなしに攻撃しにきたのか?だとすれば最悪だ。
「殿下…兵を率いて確認に向かいます。」
嫌な予感がする。おそらく…夜に乗じて我々を殺すつもりだろう。今の状況で敵と当たれば苦戦させることも難しい。逃げることもできなくなる。
なら、いっそのこと先んじて逃げればいい。…自ら兵を率いてどさくさ紛れに逃げてしまうことにする。
そう考えていると…殿下が苦しみ始める。なんだ?首に細い糸のようなものが見える。
「な…なんだ!ぐっ…!ウェルズ公!ウェルズ公!ガハッ」
スパッと軽い音を立てて…殿下の首が床に落ちたのだ。現実味のない光景に放心状態になるが、吹き出る血が頬についたことで正気に戻る。
「ひ…ひぃ…うぁああ!」
叫び声をあげながら無我夢中っで自分の兵の元へ急いだ。兵舎に着くと既に戦う準備ができている様子だったが…
「すぐに…領地に戻るぞ!…準備しろ。」
「…それでは王家を見捨てることに…」
不思議そうな顔でそう言った男に…
「バカ!構わん!殿下は既にお亡くなりになった…早くしろ…間に合わなくなる。早く!急げ!」
決して正気ではない様子に…しぶしぶ準備をし始める兵達…準備ができると戦いの混乱に乗じて逃げ出したのだった。




