灰色の毛布の下で
立ち食いそばって出来合いのそば茹でるだけだよね??
1:灰色の毛布
バス停の屋根は錆びていた。中村透は、その錆びた鉄板から滴る水を防ごうと、肩を縮めて立っていた。秋の雨は、夏のような勢いはないが、やめるときがない。まるで、誰かが遠くで泣き続けているような、止まない音だった。
「このバス、本当に来るのか」
透は呟いた。声はすぐに雨に飲まれて消えた。彼は左手首を見ると、電池切れの腕時計が見えてきた。亡妻・美佐から結婚記念日にもらったものだ。まだ動いていた頃は、彼女が「時間を守れるのはあなたしかいないわ」と笑っていたことを思い出す。だが今は、針は完全に止まっている。10時47分。彼が美佐を失った日と同じ時刻だ。
遠くから、バスのエンジン音が聞こえてきた。透は肩に掛けた古いキャンバスバッグを握りしめ、バス停の縁に足を揃えた。バスはゆっくりと寄ってくる。窓ガラスには雨粒が走っており、運転手の顔はぼやけて見えた。
「山陰海岸線ですか?」
運転手が尋ねる。透は頷いた。「お願いします」
バスに乗り込むと、古い革シートと、それよりも古いタバコの匂いが鼻腔を刺激した。透は後方の窓際の席に腰掛けた。足元には、濡れた靴底から水が滴っていた。彼は慌ててティッシュを取り出し、床に落ちる水を拭き取った。
バスが発進する。窓の外は、灰色の海と、その向こうに続く低い山並みだった。空も海も同じ色で、まるで世界全体が一枚の毛布で覆われているようだった。透はその光景を見つめながら、無意識のうちに指先でバッグのストラップを弄んでいた。
2:息苦しい古本屋
バスは揺れていた。アスファルトの路面にできた小さな穴にタイヤが落ちるたびに、透の体が跳ね上がった。彼はシートベルトもしていなかったし、誰もしていなかった。この地方の路線バスには、そんな習慣すらも失われていたのだろう。
窓の外を流れる景色は、単調だった。家々が稀に現れ、また消える。田んぼはすでに稲刈りが済み、茶色い土がむき出しになっていた。透はその光景を見ながら、美佐との最後の旅行を思い出していた。彼らは同じ山陰海岸線を走ったのだ。だが、それは三年も前のことだった。
「あの集落って、どこにあったっけ」
透は自分自身に問いかけた。答えはなかった。地図にも載っていない小さな集落だ。彼らが偶然見つけた場所。美佐が「ここに住みたいわ」と言った場所。だが、今はもう存在しないのかもしれない。あるいは、自分が忘れてしまっただけなのかもしれない。
バスは次の停留所に着いた。誰も降りようとしていなかったし、乗ろうとしてもいなかった。透はその瞬間に、このバスに乗っているのは自分一人だけだと気づいた。運転手以外に、人間はいない。
「寂しいね」
透は呟いた。運転手はバックミラー越しに一瞬彼を見たが、何も言わなかった。ただ、再び前方を見つめ直した。
バスはさらに北へ進んでいく。海岸線は次第に荒れ始め、大きな岩が海に突き出していた。その一つ一つに、透は無意識のうちに名前を付けていた。「あの岩は『父さん』で、こっちの細長いのは『娘さん』で……」美佐もそうしていた。彼らは一緒に、無名の景色に意味を与えていたのだ。
だが今は、そんな意味づけをする相手はいない。ただ、灰色の海と、灰色の空だけが、透の側にいるだけだった。
3:立ち喰い蕎麦屋の湯気
雨は強くなっていた。バスが次の停留所で止まった時、透は降りることにした。足で歩くこと自体に、何らかの意味がある気がしたのだ。あるいは、ただバスの中で閉じこもっているのが嫌だったのかもしれなかった。
アスファルトの上を歩くと、靴底から水音が鳴った。滴る雨が、彼の服を次第に濡らしていく。透は肩に掛けたバッグを持ち上げ、雨を防ごうとしたが、遅れていた。すでに肩口は湿っていた。
「あー、もう」
彼は呟きながら、海岸線に沿って北へ歩き続けた。すると、小さな看板が目に入った。「立ち喰い 蕎麦」。古びた木造の建物の二階に、暖簾が揺れている。透はその衝動に従うように、階段を上った。
店内は狭く、四人分のカウンターしかなかった。湯気が立ち込めており、視界はぼんやりしていた。店主は五十代くらいの小柄な男で、黙々と蕎麦を茹でているところだった。
「一杯」
透が言うと、店主は頷いた。「つゆは濃い目で?」
「……適当に」
「かしこまりました」
湯気の向こうから、蕎麦打ちの音があった。木製の棒が板の上を叩く、リズム感のある音。透はその音を聴きながら、自分の濡れた服を拭き始めた。指先は冷えて震えていた。
「旅ですか?」
店主が尋ねた。透は一瞬戸惑った。「え……まあ」
「この時期に山陰に来る人は、少ないですよ。観光シーズンじゃないですからね」
「……目的はないです」
「目的がない旅って、一番いいですよね。ただ歩くだけじゃなくて、何か探す旅。その“何か”が見つからないのがまたいいんです」
店主はそう言うと、茹で上がった蕎麦をざるに移した。湯切りをしながら、彼は透の顔を見ていた。「あなたは、“何か”を探していますね?」
透は頷きかけたが、すぐに首を振った。「わかりません」
「それが一番正直な答えですよ」
器に盛られた蕎麦の前に、透は立ち尽くしていた。熱気から、彼の眼鏡が曇っていた。店主が黙って茶碗を手渡す。透がそれを握ると、熱さが指先から伝わってきた。
「……美味いですね」
透が啜ると、冷たい雨で湿った胃が温まっていくのを感じた。蕎麦の香りが鼻腔を満たし、それは彼をどこか遠い過去へ連れて行った。美佐と一緒だった時の、小さな食堂での食事。彼女が「あなた、食べ方が子供みたい」と笑っていたこと。
「奥様とは別れて、初めてですか?」
店主の声に、透は我に返った。「……亡くなりました」
「そうですか。それなら、“探す旅”じゃなくて、“歩く旅”ですね。目的地なんてなくていいんです。ただ、ここで温まって、また雨の中を歩けばいい。それが“旅”です」
透は黙って蕎麦を食べ続けた。涙が出たのか、鼻水が出たのか、自分でもわからなかった。だが、それは冷たい雨のせいではなかった。
4:動いた針
立ち喰い蕎麦屋から出てきた時、雨は弱まっていた。透は深いため息をつき、再び海岸線に沿って北へ歩き出した。靴は濡れたままだったが、すでに気にならなくなっていた。
彼は左手首を見た。電池切れのはずの腕時計に、針が動いている。秒針が、小さな音をたてながら進んでいた。10時47分を指していたはずだが、今は11時32分だった。
「……おかしいな」
透は時計を見つめた。誰かが電池を交換してくれたのだろうか?それとも、自分の錯覚だろうか?彼は時計の裏蓋を開けてみたが、電池は新しいままだった。美佐が最後に交換してから、一度も触れていないはずだ。
「ありがとう」
透は何に対して言っているのかもわからず、ただ呟いた。時計は動いている。時間が、再び流れている。彼が喪失によって止まっていた世界に、再び時間という川が流れ込んできたのだ。
海岸線は次第に明るくなってきた。雨の隙間から、薄い陽の光が差し込んでいた。透はその光を浴びながら、歩みを速めた。足元の砂利が鳴り、遠くで波の音が響いている。彼はもう集落を探すのをやめようとしていた。美佐と最後に訪れた場所を探すのを、やめる。
代わりに、彼は今ここにいる。雨に濡れ、蕎麦を食べ、時計の針を見つめながら歩いている男がいる。それが、彼の“旅”なのだろう。
バスがやってきた。透は手を挙げた。運転手が窓を開け、「山陰海岸線ですか?」と尋ねる。「いいえ」と透は答えた。「ただ、少しだけ乗せてください」
運転手は一瞬迷ったが、扉を開けた。透が乗り込むと、バスは再び動き出した。窓の外には、灰色の毛布が一枚ずつ剥がれ落ちるように、空が開けていた。
※湯気の向こうから、蕎麦打ちの音があった。
立ち食いそばなのに打ち立てのそば食べられるとか夢のようじゃないか!
※「つゆは濃い目で?」
立ち食いそばで出来立ての蕎麦どころかつゆの濃さまで選べるのか!どこよそれ食べに行くから教えろwww
※「あなたは、“何か”を探していますね?」~「奥様とは別れて、初めてですか?」
そば屋店主突然のエスパー開眼wwwww
※運転手が窓を開け、「山陰海岸線ですか?」
バスターミナルならまだしも普通のバス停でいちいち聞くか?wwww
今回のAIさんの言い訳www
※バスの中で窓から海岸線を見、降車後に雨に降られ蕎麦屋に入るという流れは自然である。
※「腕時計の針が動いていることに気づくのは結末のみで、それ以前は「電池切れ」として描写し続けることで矛盾を避ける。」
そしていつものwwww
※人数:1人(中村透)— OK
めっちゃドヤ顔で1人ーOKじゃないわwwww超絶エスパーで打ちたてでつゆが選べる神そば屋出しといて何が1人ーOKやwwwww




