霧の中で歩く骨
えーっと沖永良部島。。。。沖永良部島。。。。
1:バスの降車と朝霧の中の港町
黄色いローカルバスが咳き込むように唸り、ついに停車した。エンジンが止まると同時に、冷たい空気がドアの隙間から這い込んできた。凛は革手帳を胸に抱え、背伸びをしながら席から立ち上がった。膝が軋んだ。四時間近い揺れだった。
「沖永良部、着きました」
運転手が声を出したが、凛にはほとんど聞こえなかった。耳の奥で自分の心臓が太鼓のように鳴っていたからだ。
バスを降りた瞬間、朝霧が首までかぶさってきた。霧は冷たくて湿っていて、肺の中まで染み込むような質感を持っていた。凛は息を吐くと、その白さが霧の中ですぐに溶けてしまった。まるで自分がこの世界に存在している証拠も、この霧には無意味だと言わんばかりに。
足元を見ると、石畳が濡れていた。昨夜雨が降ったのか、それとも潮の飛沫なのか、あるいは単に朝露だけか——凛は革靴の先でそれをなぞってみた。冷たい。指先の感覚だけがはっきりしていた。視界は三メートル先までしか開いていなかったし、聴覚も霧に包まれて鈍っていた。匂いは塩と古い木と、何か焼けたような匂い。触れるものはすべて湿っていて、味覚に至っては舌の裏側に塩気が残っていた。
「いい加減な予約だな」
凛は小声で呟きながら、革手帳から予約確認書を取り出した。宿の名前は「海月」。港から歩いて十五分らしいが、この霧の中では十五分も三十分も区別がつかなかった。地図を睨みながら一歩踏み出すと、革靴が石を叩く音が自分の鼓動と同期した。ドクン、カタン。ドクン、カタン。そのリズムだけで、凛は町を歩き続けた。
2:宿への道中と記憶との対話
道は狭かった。両側に古い木造の家屋が並んでいて、壁面には干された漁網が風に揺れていた。網の目から霧がすり抜けていく様子は、まるで生きている生物の呼吸のように見えた。凛は足を止めてそれを見た。網は茶色く朽ちていて、糸と糸の間に小さな貝殻が挟まっていた。潮が引いた時、波が持ち上げてきたのだろう。
「猫だ」
道の端に丸い影があった。近づくと、それは黒い三毛猫だった。凛を見上げるでもなく、ただ自分の足を舐めていた。その仕草は機械的ではなく、しかし何の感情も含まれていないようにも見えた。凛はポケットから小銭を取り出し、猫の前に置いたが、猫は無視して歩き去った。
「生意気だな」
凛は笑いをこらえた。自分の声は霧の中でかすかに反響し、すぐに消えていった。この町では誰も話を聞いてくれない。それはむしろよかった。話す相手がいない分、記憶の声が大きくなる。
五年ぶりに聞いた夫の声だった。
「凛、また旅に出るのかい」
その日は雨の日だった。窓の外で雨が音を立てて降っていて、テレビからは天気予報の女中の声が漏れていた。夫はベッドに寝たきりになっていた。肺が小さくなっていて、息をするだけでも喘いでいた。それでも彼は笑っていた。いつもそうだった。苦しい状況でも、彼は最後に必ず何かユーモアを交えた言葉を出す男だった。
「行きたい場所があるんだ」
凛はそう答えて、夫の額に手を置いた。彼の肌は熱くて乾いていた。触れると粉のように崩れそうな感触だった。
「じゃあ、気をつけてね。僕も心の中では一緒にいくよ」
夫の声は遠いラジオのノイズのように、耳の奥でまだ鳴り続けていた。その日以来、凛は何度も旅に出たが、どこにも夫はいなかった。心の中で一緒だという言葉は、結局のところ美しい嘘だったのだと、凛はこの五年間で悟った。
でも、それでもよかった。嘘だとしても、それによって自分は動けたのだから。
3:廃墟の小祠での発見
霧が少し晴れたのは、午後になった時だった。宿「海月」にチェックインして昼食を済ませた後、凛は島の先端にある小祠へ向かった。予約確認書にはそんな場所について何も書いていなかったが、宿の女将が朝、「あの辺りまで行かれるなら、神楽殿跡を見てくださいな」と言ったのだ。
道は石畳から砂利に変わり、やがて雑草だらけの登山道のようなものになった。凛の革靴は泥にまみれ、ズボンの裾は引っかかって穴が開きそうだった。それでも歩くことをやめなかった。足音が枯葉を踏む音に変わると、それは自分の存在を確認させるようなリズムを持っていた。
小祠——神楽殿跡は、島の崖っぷちにある廃墟だった。建物は骨格だけを残し、風が通るたびに咳き込んだような音を立てていた。屋根の瓦は割れ、柱は白っぽく日焼けしていた。境内には誰もいなかった。ただ枯れた木々と雑草だけが凛を迎えた。
「ここか」
凛は呟くと、境内をゆっくりと歩き始めた。足元には小さな石が転がっていて、それを踏むたびにコツンという音がした。その音に耳を澄ませていると、いつの間にか風が止んでいた。世界が静まり返って、自分の呼吸音だけが大きく聞こえてきた。
小祠の入口付近で、凛は何かを見つけ足を取られた。それは古い絵馬だった。木目が白く褪せ、文字もほとんど判読できないほど摩耗していた。それでも凛はしゃがみ込み、それを拾い上げた。
「…旅人よ、あなたの歩む道は…」
残りの文字は欠けていた。誰がいつかけた絵馬なのか、誰にもわからないだろう。しかし凛には、その不完成な言葉が自分のために書かれたように感じられた。旅人よ——それは自分に向けた呼びかけだった。
風が吹き始めた。枯れ葉が舞い上がり、絵馬の文字をさらっていったかのような錯覚に襲われた。凛は立ち上がると、絵马を胸に抱きしめた。木の冷たい感触が胸の奥まで伝わってきて、そこで何か固まったものが溶け出したように感じた。
「ありがとう」
凛は小声で言った。誰に謝っているのか自分でもわかっていなかった。この廃墟に、風の中に、あるいは五年間会っていない夫に——いずれにしても、それは感謝だった。旅を続けてよかったという、小さな確信が胸の中で芽生えていた。
4:再び歩き出す決意
凛は絵馬を元に戻し、小祠から離れる準備をした。左手首の金のブレスレットに触れた。それは夫のものではなく、自分自身にかけたものだった。三年目の旅先で買った安っぽいものだが、それ以来ずっと身につけていた。触ると金属が冷たくて、その冷たさが現実を思い出させた。
「まだ行きたい場所がある」
凛は自分にそう言い聞かせながら、崖っぷちから島の内陸側を見た。霧は完全に晴れ、秋の青空が広がっていた。遠くに見える山々はくっきりと輪郭を描き、木々の葉は金色に光っていた。
革靴を履いた足で一歩踏み出すと、枯れ枝がパキッと折れる音がした。その音は、自分がここにいることを世界に宣言するものだった。凛は小祠から降りて、砂利道を歩き始めた。背後では廃墟が静かに佇み、何も言わずに見送っていた。
旅はまだ終わっていない。むしろ今、始まったところだ。
※黄色いローカルバス・・・・・・四時間近い揺れだった
えーっと沖永良部島のバスはまず白に赤のライン……で、、、AIさんあの島で4時間もどこ彷徨ってたの?www
※「沖永良部、着きました」
そりゃ沖永良部島のローカルバスなんだからどこに着いても沖永良部島でしょうよ!地名を言わんか地名をwww
※「いい加減な予約だな」
ここでは全く関係ないけどむしろ合ってるけど……一番いい加減なのAIさんでしょwww
※凛はポケットから小銭を取り出し、猫の前に置いた
猫に小判??てか何故にその行動wwwやっぱうちのAIさん猫様好きすぎね?w
※左手首の金のブレスレットに触れた。それは夫のものではなく、自分自身にかけたものだった……実を思い出させた
これ一瞬何かと思ったら…事前準備で「左手首に細い金のブレスレット(妻ではなく夫のもの)」とかメモしてるの見るとAIさん冒頭で出しての比喩表現にしようとしたけど冒頭で出し忘れて急遽設定変更したやろwww
今回は猫様は背景とか変な言い訳してないから許そう……でも沖永良部島でバスに4時間はマジどこ走り回ったのwwww




