後付けで看板猫の前世の話にしたお話
昨日投稿した11話のひとりごとに上書きしたので
これが11話です。
題名どおりです。
そのつもりはなかったのに、4話の看板猫の前世の話になりました。4話を読まなくても大丈夫です。
2000文字くらい
「離婚する」
日曜の昼下がり、滅多に鳴らない家の電話をとると、男が挨拶抜きにその一言を放った。
「……ディスプレイには本田とあるが、本田か?」
高校の時の友人の本田ならば、10年ぶりだ。
「離婚する」
「それはわかったから、久しぶりとかないのかよ」
「すまん。お前との約束を破った」
本田の深刻な謝罪の声。
「約束って?」
「紗栄を幸せにするという約束だ!」
突然激昂する本田。
「ちょっと、落ち着けよ。これから会うか?」
「いいのか」
「どこにいる?」
「お前の家の前だ。お前が電話している姿も、だらしない格好も丸見えだ」
ハッと窓の方を見るとカーテンが少し開いていて、隙間から外が見えた。もちろん本田の姿も。なぜかスーツ姿だ。
「そこにいたならチャイムならせよ」
「居留守をつかわれたらショックだから電話したんだ」
「とりあえず入れよ」
両親が数年前に亡くなり、俺は実家で一人暮らしだ。そろそろ猫を飼おうかとは思っている。
電話を切り、散らかってはいないが昼から飲んでいたビールの缶やつまみを片付けていると、ガラガラと玄関のとびらが開けられた。
勝手にスリッパを履いて入ってくると思ったが、物音がしないので玄関を覗くと、スリッパを手に持って涙を流す本田の姿。
「……このスリッパ、紗栄が選んだのか?」
「はぁ?」
「水玉は紗栄が好きな柄だ。お前は昔、紗栄と恋人だっただろ、だから…」
「待て待て待て」
俺は本田からスリッパを取り上げる。
「ここに来たのか!!」
「言いがかりもここまでくると怒りも湧かないが、とりあえず落ち着け」
「あいつは最近コソコソしてるから怪しいと思っていたがお前か!!」
「落ち着け」
俺は思わず本田に向けてスリッパを振りかぶる。
スパァーン! と音がして本田が目をパチパチさせた。
「いい振りだ」
「だろ」
いつもの本田に戻ったようだ。
本田は少し乱れた髪を整えて、急に来てすまないと言った。
「車で来たのか?」
「タクシーで来た」
「ビールでも飲むか?」
「氷入りのお茶がいい。のどが渇いた。」
そうだ、こんな奴だった。
『尾形、俺は野中紗栄を好きになったから告白する』
当時、紗栄と付き合っていた俺に宣言し、いいよと答えた俺。もちろん隣に彼女もいた。
告白されて付き合っていたけれど、交際が面倒だと思ったていたから、ちょうど良かった。
俺はその場で振られ、目の前でカップル成立を見た。一応、格好つけて「泣かすなよ」とは言ったが……
「俺は幸せにしろとは言った覚えはないが」
「間違えた。香田が言ったんだった」
「懐かしいな、香田秀人か?」
香田も当時よく遊んでいた友人だ。
俺はコップに氷を2ついれ、麦茶を注ぐ。
「お前に伝えたあとに香田に伝えたんだった。いつのまにか逆に記憶していた」
「わざわざ香田に言うとか、律儀だなぁ」
「香田も紗栄と付き合っていたから当然だろ」
「ん?」
「そうだ、お前には言うなと言われていた。今言ったことは忘れろ」
「……ああ」
二股、だったのか。今さらだし、別にいいけど知りたくはなかったな……
「俺の勘違いで騒がせたな。帰るわ」
「……離婚とか言ってたけど、結婚したんだな」
「3年前にな。でも終わりだ」
「よく分かんねぇけど、奥さんの話は聞けよ?」
「次は香田の家だ」
もう俺の言葉は耳に入らないようだ。
「そういえば、なんでスーツなんだ?」
「離婚届を出すからだ。その前に紗栄の相手を探し出して、そいつに証人の署名をさせなければならない」
「まずは奥さんの話を聞くのが先じゃないか?」
「証人は2人必要だった。尾形、頼めるか?」
「い……いや、俺は遠慮するわ」
「そうか、また離婚したら遊びにくるからな」
「本田、奥さんの話を聞いて話し合えよ」
「じゃあまたな!」
まさに嵐のように去っていく友人を見送りつつ、また静けさを取り戻した部屋を見てため息をつく。
――とりあえず香田に連絡をいれておくか。
結局、香田は無関係だった。
奥さんも浮気はしておらず、結婚記念日のサプライズを企画していただけだったそうだ。2人は仲直りして、仲睦まじそうに一度挨拶に来た。
(二股するような女に惚れる本田が理解できないが、
惚れたら関係ないんだろうな……)
人を好きになった事がない俺からしたら少し羨ましい気もする。
それからは、なんだかんだと理由をつけては、本田が俺の家に遊びにくる。たまに香田も来る。
一人に慣れた俺には少し煩わしい時もあるが、その煩わしさが心地よいとも思う。
一人の俺を心配してることくらいは分かるからな。
俺は今日も彼ら専用のスリッパを玄関に並べ、また来たという表情をつくり彼らを迎え入れた。
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前世の夢を見ていた。懐かしいけれど悲しい。
売り上げの勘定を終えたマスターが伸びをしている。
もう、部屋に戻る時間だ。俺もいつもなら外にパトロールに出る時間。
だけど今日は……
「ニャー」
「珍しいなコロンが甘えてくるのは!」
マスターが俺を抱き上げた。
結局は恋とか愛とか分からないけど、人の優しさは前世も今もよく分かる。
俺はありがとうのかわりに「ニャー」とマスターの手を舐めた。
キリよく10話分を書きましたので、連載を終わりにします。
ここまで読んでいただいた方、ありがとうございました!




