異世界の自由研究(異世界、ヒューマン)シリアス
孤児院の少年3人と、読み書きを教える落ち人の話。シリアスになってしまいました。
2300文字くらいです
「俺はスライムが燃えるか調べる」
「じゃあ俺はスライムが千切れるか調べる」
「俺は紐できつく縛ってみる」
「それはやめろ!」
ゴンッゴンッゴンッと順番に拳骨をされる俺たち。
俺たちを殴ったのは落ち人先生。
この世界じゃないところから来たらしい。みんなは話半分で聞いてるけど、変な奴なのは間違いない。
暇人のようで、俺たちのような孤児に読み書きを教えるために、何日かに一度やってくる。
どうせ読み書きが必要な仕事なんか就けないと教えてやっても、知識に無駄はないからと来るのをやめない。
結局、読み書きを教わっているのは、俺とガイとレオだ。なんだかんだで読み書きができるようになった。
そんな俺たちも遊んでばかりはいられない。労働力として駆り出されることも多い。今回は街中に大量に発生したスライムを捕獲する依頼があったため、狭い所も入れる俺たちの出番だ。
しばらく会えないよ、とそのことを先生に話したら、自由研究というものを宿題にだされた。気になることや知りたいことを見つけて調べてこいという。
だからスライムが火で燃えるか調べると言ったのに拳骨で殴られた。
「命で遊ぶな」
俺は、いつもはヘラヘラして冴えないオッサンが、珍しく怖い顔をしたから思わず怯む。
「……あとでまとめて始末するなら同じだろ!」
俺は頭を押さえながら、それでも思ったことを言う。
「それとこれは別の話だ」
俺たちは、なお「同じだろっ」とくいさがったら、
先生は呆れたようにため息をついたあと、命の尊さとやらを延々と語って帰っていった。
――親に捨てられた俺たちに命の尊さ?
何度も笑いそうになったけど、同時に泣きそうになったから、俺たちは黙って聞くしかなかった。
****
「あいつの頭の中はおめでたいな」
俺がスライムを専用の袋に放り込みながら他のふたりに声をかける。
子供が片手で握れるほどの大きさだが、グニャグニャしていており、更に触るとヌルっとするので気持ちが悪い。だが人間にとっては害になる存在だ。
形が自由にかわり人間の体液を好むので、寝てる間に口から体内に入ることがある。
死ぬことはないが悶絶ものの腹痛だそうだ。
「しょうがないさ……オラッこのっ!」
ガイがスライムに砂を投げつけて捕獲する。砂をかけるとザラザラするので滑らなくなる。
「親に捨てられるような世界で生まれてない奴だからな」
レオはスライムが隠れる場所を次々と発見していく。スライムは少し魔力がある。簡単に見つけるレオには、魔力を感じる能力があるとしか思えない。
――レオは知っているのかな、その力が貴族にしかないこと……でも例外もあるかもしれないからな…
俺はこれ以上は考えるのはやめて、スライムの捕獲作業に集中することにした。
きっかけは、俺たちの横を通り過ぎた親子が手を繋いで歩いていたのを見て、ガイが言ったひとことだった。
「俺たちの親、生きてると思う?」
俺はスライム捕獲の手を止め、思わずレオを見てしまった。レオが俺の視線に気づき眉をひそめる。
「なんで俺を見る」
孤児に不似合いなサラサラの金髪に青い瞳。
「別に」
「変な奴だな」
「俺は生きててほしくないなぁ〜」
ガイがまだ親子の背中を眺めている。
「考えてもしょうがないよ」
「俺はどうでもいい」
そして何やら考えていたガイが大きく頷く。
大体、ろくなことを言わない時のガイだ。
「なあ! 自由研究は親が生きているかってのはどうだ?」
ほら、な。
*****
研究もなにも、孤児院の院長室は誰でも簡単に入れるし、書類は無造作に置いてある。
――院長は俺たちが文字が読めないと思って油断してたな
落ち人先生は罪深い。
知らなくていいことを俺たちは知ってしまった。
ガイの親父は人を殺した。母親は赤ん坊のガイを家に置き去りにして行方知らず。
レオの父親はやはり貴族だ。聞いたことのある名前だった。母親は使用人らしいが、折檻ののち追い出され、レオを産んですぐに亡くなった。
俺もクソみたいな親だ。父親は妹に手を出し孕ませた。俺をおいて2人で心中した。
「どれもひどいな」
ガイは笑った。
「そうだな」
レオもニヤリと笑った。
俺はグチャグチャ考えていたけど、2人の顔を見て、俺も笑えた。
「先生には、悪い奴は生きている事がわかったと言おう」
宿題、ちゃんとやって偉いよな。俺たちは。
俺たちの自由研究を聞いた先生の反応は想像と違った。
「いい仲間と会えて良かったな」
と、なんでもないことのように返事をしたのだ。
同情されるかと思ったから拍子抜けだ。
確かにあのクソみたいな親に育てられるより、ガイとレオと一緒に育って良かった。
「仲間は大事にしろよ」
そう言って先生は寂しそうに笑う。
――そうだ、こいつも誰もいないんだ
落ち人だから帰るところがないし会いたい人とも会えないのか……
「しょうがねぇなぁ、先生も仲間にしてやるよ」
ガイが落ち人の肩を叩く。
「だから寂しそうな顔するなよ」
レオは落ち人の腕を叩く。
「仲間のルールは嘘はナシだからな」
俺は軽く落ち人の腿に蹴りを入れた。
「……よろしく」
落ち人先生は複雑な表情で笑った。
その後の落ち人は、ここに住みついて俺たちに様々なことを教えてくれたり、たまに城に行ったりしている。
落ち人はこちらにはない技術を持つ医者だと後から知った。王の病も治したらしい。
あと、レオの父親がレオを引き取ると言い出す騒ぎがあった。きっとろくでもない理由だろう。だって本人が一度も会いにこないし。
もちろんレオは即断った。
けれど相手は貴族だし、強硬手段にでられたら逆らえない。落ち人が王様に相談したところ、それからは一切父親はレオに関わらなくなった。
俺たち4人は平穏な毎日を過ごしている。
そして今年の自由研究は先生の嫁は誰がいいかにしよう、と俺たち3人は話し合っている。




