101話:勇者達の一コマ
祈達はミシェル達を連行してルーカスに向かっている。今、皇国内は超級迷宮が消滅したことで国内は大騒ぎだった。その為か、国内の移動は抑制されている。迷宮は別の場所に移るとそこそこの数の魔物を排出するのだ。有事の事態でさえそれなりの戦力を集めて対応するのだから初動を見逃したら一大事である。
「正直、こんな大所帯の怪しい集団で動くのは無理があると思うんだけど」
「砦将の許可証がありますし、大丈夫じゃない?」
「実際、砦将は何処まで権力があるの?」
そこまで国政について勉強してないので、祈はラティーナに質問する。質問されたラティーナは少し考えて答える。
「…………辺境や国境付近の砦に努める砦将は国のトップの信頼が厚く、武に長ける人物を置くのが一般的ですね。他国と共謀して敵軍を招き入れるのを防がせたり、内乱が起こった場合反乱側を後ろから鎮圧する為にもそう言った人物を配備されます」
「ほーん」
「そして、中央から離してしまうことのお詫びとしても辺境や国境付近の地域に対して強い権力を持たせているんです。いざとなったら、周囲の街から徴兵する事も出来るんですよ」
「………それだけ強くて、信用があるのか。確かに強そうだったよね」
「ええ、ハウンド卿は若い頃は剛剣の武人として知られていたんですよ」
雑談に花を咲かせながらラティーナ達は街道を進んでいく。関所の砦を通過してから二日後にルーカスに辿り着く。
* * *
皇都に転送された菜花は迷宮崩壊後、騎士団に保護されて皇城に戻されている。戻された後はいつも通り離宮で過ごしている。
普段の離宮には要人が三人にメイドが二人で住んでいるが今はメンバーが二人ほど増えている。王女サテラの知人と菜花と琴葉の知人だ。まぁ、少し時間が空いて泊っているだけなのだが、住んでいる訳ではないのだが。
そんな離宮の一室にて、離宮の主のサテラ、召喚された勇者とその友人の菜花と琴葉。そして、その三人に招待された公爵令嬢のエリーゼとスミア。それに加えてそのお付きの人が揃っていた。
エリーゼが連れてきた付き人にアスタルテは驚いていた。なんと、彼女の姉、レティシアだったのだ。が、2人とも驚きが顔に出ることは無かった。何も言わず自分達の仕事をこなす。
そんな一室の中で会話が始まった。
「エリーゼは久しぶりね」
「はい、お久しぶりです。サテラ様」
「貴方は初めて会うわね。スミアだったかしら?」
「初めまして。皇女殿下、勇者様方。ヒードラ家の長女、スミアと申します」
「まぁ、さっき一緒だったけどね」
公爵令嬢たちが目上の存在である皇女のサテラと勇者とその友人の菜花と琴葉に挨拶する。エリーゼは度々あっていたりするので、礼儀が必要な仲ではないのだが、今回は招待した初対面のスミアがいる。なので形式的にでもこういったことを済ませることにする。
「それでサテラ様、今日はどういったご用件で私達を?」
「久しぶりにあなたが王都に来たのだから話したかったからに決まっているじゃない。それにあの超級迷宮を攻略して報酬を貰って来た人の話も聞きたいから、そっちも招待したの」
「相変わらずですね」
エリーゼは呆れた顔をする。こういう要求に慣れているのが分かる。
スミアは連れてこられたというのに自分には何の要求もない事で少し不安になり、こっちはこっちで困った表情をしている。
という事で、スミアは自分から聞き出してみる事にした。
「…………あの、私はどうすればいいんですか?」
「迷宮の報酬が出たよね! 見せて貰えないかな!?」
「あ、はい、分かりました」
興奮した様子でスミアに詰め寄るサテラ。若干引いているスミアは少し下がって頷く。ペストに貰った、迷宮報酬の入っている異次元巾着袋を取り出す。
「この中に入ってますけど、流石にどんなものかもわからないのをここで出すのは気が引けるので、どこかに出しても大丈夫な場所はありますか?」
「それならいい場所をしっているから、案内するわ。付いて来て」
そう言ってサテラはスミア達を案内したのは離宮の地下。魔法の実験なんかに使う場所である。ここは直ぐにでも結界でこの場所を丸ごと封印できる特殊な空間である。どんな危険物が出て来るか分からない超級迷宮の報酬を出すのにはぴったりと言える。封印の強度を超える存在があったら壊れるが、そこは気にしてもしょうがない。
「ここですか」
「うん、私の実験施設の一つ。さぁ、出してみてくれたまえ」
「………まぁ、良いですけど」
スミアは取りあえず言われた通りに報酬を出すことにする。巾着袋に手を突っ込み最初に取り出すのはTシャツ。次に腕輪、指輪、カットラスに鏡台、大きめのコートを出した。
「なに、これ?」
「何でしょうね」
「先ずは調べてみませんか?」
「そうだね。よし、鑑定していこう」
そう言ってTシャツから鑑定していく。
◇ ◇ ◇
虚飾欲の服 等級:特級
◇ ◇ ◇
生存欲の腕輪 等級:特級
◇ ◇ ◇
収集欲の指輪 等級:特級
◇ ◇ ◇
破壊欲の魔剣 等級:超級
◇ ◇ ◇
情欲の鏡台 等級:特級
◇ ◇ ◇
守護欲の大衣 等級:特級
◇ ◇ ◇
「説明が見えない。少なくとも普通の道具ではないのは確定だね」
自分の鑑定結果をメモに取るサテラ。鑑定はレベルが上がるとその能力も上がるが、鑑定対象の等級が上がったりレベルが上だったりすると見えないことがある。今回はサテラからすると格上すぎる道具を相手に鑑定が通用しなかったという事になる。今回は私的な実験の為、国宝である【眼神の眼鏡】は借りる時間は無かった。
「しかし、効果と能力を知りたい。……アスタルテ、調べて」
「…………了解です」
困ったお嬢様だと思いながら、鑑定能力で見ていく。しかし、流石に高レベルのアスタルテでも超級迷宮の戦利品を鑑定するのは眼にかなりの負担がかかったのか血が溢れて来る。
「姫様、すみません。この剣だけはどうにもできませんでした」
そう言って血涙を流すアスタルテ。そんな彼女を心配して全員が休ませる。特に姉のレティシアは熱心に彼女に寄り添った。自分の侍女の珍しい姿にエリーゼは驚くが、顔には出していない。そのまま、少し休んだ後に見えた分だけの結果を紙に書き込む。
◇ ◇ ◇
虚飾欲の服 等級:特級
装着者の理想の服に変形する。どんな形を取ろうと金属に匹敵するほど強度を持つ。汚れても自動的に魔力を吸い上げ汚れを落とす。損傷も自動で修復。常に装着者には最適な気温、湿度、通気性を保持。
◇ ◇ ◇
生存欲の腕輪 等級:特級
装着者のHPを吸収・保管する。最大貯蔵量は二百万。装着者が死ぬ量を吸収することは無い。装着者が致命傷を負った場合、貯蔵したHPを使用して装着者の損傷を修復する。
◇ ◇ ◇
収集欲の指輪 等級:特級
モノを収納できる。収納物が呪われていたとしても隔離して収納が可能。収納した物は幻影板を投影することにより確認が可能。幻影板を使用して仕分けも可能。
◇ ◇ ◇
破壊欲の魔剣 等級:超級
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情欲の鏡台 等級:特級
鏡に写した人間の性欲求を増大させる。写した人間は鏡台を別室に移動させるまで鏡台の中に記憶され、効果を及ぼし続ける。影響範囲は室内のみ、広さの指定はなし。
◇ ◇ ◇
守護欲の大衣 等級:特級
衝撃の吸収が可能。蓄積した分は任意のタイミングで袖先から放出が可能。装着者のDEFをスキル等で増加させた分も含めて五倍にする。加えて五倍化させたDEFを他者に振り分けが可能。
◇ ◇ ◇
アスタルテは頭の中にある情報を描きだし終える。【破壊欲の魔剣】だけは読み取れはしたけど書いてある内容は理解ができなかった。
そんなモノを鑑定してみてアスタルテはぼやく。
「一つ、一つが国宝に匹敵しますね」
「怖い事言わないで下さいよ。持ちたくなくなっちゃう」
スミアはアスタルテの一声に委縮してしまう。そこにアスタルテが忠告する。
「先に【収集欲の指輪】で【破壊欲の魔剣】を収集しておきましょう。名前からして優しい効果は期待できませんから」
「う、うん」
スミアは忠告に従って指輪の能力でカットラスを収納する。
すると、琴葉が何かに気付く。
「何か部屋の中が暑くないですか?」
「そう言えば、私もそんな気がしてきました」
「おかしいわね。空調を変えたわけじゃないんだけど………………。まぁ、いっか。取りあえず、実験を進めましょう。先ずは服から」
サテラはそう言ってスミアに服を渡す。その場で着替えられる様にサテラ付きのメイドのミルニアはシーツを使って彼女の周りを囲み、アスタルテがそれを掴んで空中から固定する。そのままミルニアが入って中で着替えの補助をする。スミアは鮮やかな流れに流されて気付いたらドレスと下着を剥ぎ取られ、Tシャツだけの状態になった。
着替えの様子は外からではシルエットしか見えないが、煽情的なボディラインは同性であるサテラ達であっても何故か興奮してくる。
スミアは着替え終わると、シーツの膜を上げて出て来る。先程までTシャツだったのにシンプルなワンピースに変わっている。
「着替えましたよ」
「………ん、あっ、ハイ。それでどんな感じ?」
「最初は少し丈の短い服でしたけど。ワンピースに代わりましたね。それと、下着も丸ごと補ってきました」
「下は履いてないの?」
「取られました」
淑女にあるまじき服装。いや、大胆な女の子だ。女子しかいないのが幸いだっただろう。それでもそんな恰好をするものではないが。
「うーん、何かしら、そそられる感覚があるわね。魅了の力があるのかしら?」
着替えたスミアの格好にサテラは何かしら自分の心に引かれるものがあったのか首を傾げる。
「勇者様方はどうですか?」
「うーん、シンプルで可愛いし、私も欲しいかな」
「ダメです、私の物ですから」
「残念。琴葉はどう?」
「私もこれ欲しいですね。羨ましいです」
菜花達にも好評なようだ。続けて実験をしていくとーー、
「増えた」
「増えましたね」
何と【虚飾欲の服】が増殖した。正確にはサテラが切れ端を少し貰うと、その切れ端から服が生えたのだ。部屋中にいた全員が驚いている。
折角なので全員分増やす。切れ端でないと増殖しないのか、ほっといても無限に増殖することは無かった。
「着心地が良いですね」
「汚れも落としてくれるなら、これからは服はこれだけでよさそうですね」
「やめなさい。分かってはいても衛生的ではありません」
「おー、すごいすごい。早着替えも楽勝だね」
菜花が興奮したように服の形を変えていく。セーラー服、制服、メイド服に巫女服と次々に服を変形させる。
「お見事、お見事」
「凄いですね」
アスタルテの適当な反応に感心したような様子のスミア。そのスミアも何故か水着に着替えている。黒いハイネックビキニが彼女の白い肌によく映える。
「それで、何で水着なんです?」
「いや、室内が本当に暑くて。これじゃないと耐えられなそうなんですよ」
「服を着ているだけで、適温に保たれるそうですが……………あっ」
異常事態な彼女達に少し首を傾げるアスタルテだったが、少し思い当たることがあった。
「あの鏡台を収納した方が良いですね」
アスタルテは手際よく巾着を用意して鏡台を収納する。すると、室内を取り巻いていた不思議な空気が鏡台の収納によって収まる。
「なんか涼しい、って、私、なんでこんな格好!」
一気に顔を赤くして体を隠す。ほぼ手遅れだが、自分の服を簡素なワンピースに戻す。周りの人間も熱が冷めた様に段々と落ち着きを取り戻す。
「何が起こって?」
「鏡台の効果で興奮させられてたようですね」
「鏡台…………。あっ、そう言えば興奮するってあったんだっけ」
「少し映るだけでも影響が出るようですね。収納はしましたが、出すときはお気を付けて」
「りょーかい」
サテラは軽く返すと室内の人間を巻き込んで報酬の効果を試す。それは日没まで続き、その日公爵令嬢たちは泊ることになり、王女と勇者たちと親交を深める事となった。
* * *
場所は変わって水の勇者――清水蓮人はフォルス公爵派の人間と共に皇国のルーカスに向かっていた。
「話は本当なんですか?」
「ええ、信頼できる筋からの情報です」
「………話を聞く限りは可能だとは思わなかったけれど、実際に実行されてるわけだしね」
「全く、信じ難い話です」
彼らはミシェルとヘレンの結婚式について話していた。あの結婚式は本国の中でも重要な戦力が集められて警備していた。それを簡単に突破した人間がいたと聞いた。今回ルーカスに向かっているのは、結婚式に出席した令嬢に何があったのかを聞きたくて向かっている。
「攫われたという令嬢は大丈夫なんでしょうか?」
「気になる話題はいくつかありますが………。本人に利用価値がある以上、乱暴されることは少ないと思いますよ」
「そうすか」
今、蓮人達は飛空艇で移動している。その船内の一室で蓮人、ネフィル、フォルス公爵が数人の護衛と一緒に話をしている。
「何にせよ、どういう人間が何の目的でさらったのか。今回の対談で少しは分かると良いのですが」
フォルス公爵は溜息を吐いて呟いた。目標はルーカス、目的の情報が聞けるのか、その対価は何か交渉の内容を頭の中で煮詰めていく。
* * *
姫奈は農作業に従事していた。正直、戦ったり冒険者をしたりは彼女の性に合わないので、こうして牧歌的な生活を送らせてもらっている。
この世界で一般的な農民は扱いが悪い。僻地の方だと過重な税を払えず、子どもなんかを奴隷として売って税金を払っている所もあり、実際姫奈も知識としてそれを教えられた。ニホン商会の農場地帯では一旦作物をすべて買い取る事で金を渡す。(横領の心配はあるが横領なんかすれば、上からの制裁が起こり後悔することがあるので滅多な人間はしない)そして、いくつかに分けた集落一つ一つから税金としての代わりを貰っている。それはインフラ整備や教育機関の為に使われる。それは住民に説明されて真面目にそこに使われる。
ニホン商会は農場の改良と守護に努めている。農場は集落ごとに産業が分かれていて、米や麦を作るような耕作や、牛や豚を育てる様な牧畜などを集落ごとに行っている。そしてそれをさせるのが現代の肥料なんかの科学技術による農地の改良で安定的な農作物生産を助けている。
加えて、ダメ押しの一手。この世界に生える不思議な木【世界樹】が生えてる。今はまだ幼木だが現在でも百メートル級の高さがあり、凄まじい存在感と共に大規模農場の中央にそびえたっている。【世界樹】の効果は土壌の改良と守護地の防御。世界樹自身が根付いた土地の他の植物にいい影響を与え、また害意を感知した場合、世界樹自身が撃退行動を取る。その効果をまだ小さいが立派に果たしている。
「おーい、姫奈ちゃーん! そろそろ昼時にするぞー!」
農作業をしていた姫奈は、遠くから年配の女性に話しかけられる。
太陽が一番上にあるので、もう昼頃になったと今更に気が付く。今日の昼食はおにぎりと漬物だった。中には昆布とか梅とか入っていて、シンプルな味付けが口の中に入る。詰まりそうになると、水筒の中身で流し込む。
「美味しいですねー」
「平和だねー」
姫奈は日本に帰る事を半分諦めていた、史実から読み取ると神でないと異世界に繋がるような魔法は使えないと考え、自分達には無理だと端から諦めている状態だ。弟妹達はニホン商会の学園機関で日々勉強している、あちらも充実している様だ。帰っても貧乏な生活なら、こっちでそれなりの生活を享受する事の方が良いと考えていた。
「世界樹は今日も大きいですねー」
「そうだねー」
平和な時間、平和な場所で平和な異世界での生活を姫奈は十分に堪能していた。
* * *
炎の勇者――、緋山勇樹は日々の訓練を聖城の練兵場ではなく、近くの迷宮に入っていた。目的は実戦経験を積む為だ。しかし、クラス全員が入るわけでは無い。貰ったスキルによっては戦闘に不向きなモノは入らない。実際、勇樹もそういわれて、その類のクラスメイトは最近見ていない。聞いてみたところそれぞれに合った職場に案内されているそう。
それは置いといて、勇樹は聖都付近の五級迷宮【悪獣の庭】にいる。レベルはレドロスとの訓練でそこそこに上がっているが、動きを読みにくい敵相手に少し苦戦している。
勇樹が前衛として足止めをして横薙ぎに神器を振って距離を取ると、後衛の人間が魔法で牽制してさらに距離を取らせる。牽制の攻撃を嫌って四つ足の獣は後ろに引く。
「はぁぁぁぁ!」
そこを勇樹が一気に距離を詰めて一閃、横薙ぎの剣で一気に引いた複数の獣を両断する。それのカバーの為に一人が短剣を振って取りこぼしを掃除する。
勇樹は今四人パーティーで行動していて、勇樹と一人が前衛、後衛が一人に、回復薬と補助役に一人の構成で動いている。最もオーソドックスで動きやすい布陣と言えるだろう。実際、最終層付近であるが、特に苦戦もせずにここまで来れていた。
「次が、迷宮ボスか」
「頑張ろう」
「そうだね」
パーティーメンバーは声を掛け合い、次の難敵の為に自分達を鼓舞する。
「安心してくれ。どんな存在だろうと、俺達なら倒せる」
勇樹は同に入った口調で周りを安心させる。実際彼らの実力なら五級の迷宮の制覇位は余裕だ。そして数十分後、迷宮を制覇した一行が聖城の方へ凱旋した。




