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勇者の守護者〜誰かのために出来る事〜  作者: Dr.醤油煎餅
第六章 超級と勇者
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97話:勇者の迷宮攻略(後編)

 ヌルの案内に従って、五人は進んでいく。道中には胴体が宝箱でできたワニだったり、宝石の体を持ったクマなどが、三歩歩けば十体くらいにエンカウントするような頻度で魔物が出て来た。ジンが自分で倒したものだけ、その死体をインベントリに入れる。

 ジンは先頭を走り、襲い掛かってくる魔物を殺していく。たまに、横からも現れたりするが、ジンが先に死にはしないが瀕死になる攻撃を加えて菜花と琴葉に倒させる。それでも彼女達からしたら充分に暴れるので、かなり手古摺っている。アスタルテは糸を操り、後ろから来るのを細切れにする。前後で隙の無い陣形を組み順調に進んでいく。

 入ってから十数分すると、下に続く階段についた。


「よし、行くぞ」

「休憩は?」

「死ぬぞ」


 ジンが後ろから迫ってくる魔物の軍勢を指差し、菜花は納得して。この迷宮に休憩する為の場所は今のとこ確認できない。

 速やかに下層に降りると今度もヌルの案内に従って走り始める。下層になっても出てくる魔物にあんまり変化はない。従って、やる事もあんまり変わらないジンが弱らせた魔物を菜花と琴葉が処理していく。そして下層に降りるを何回か繰り返す。最初の階層を一階として数えた場合、地下五階にまで来た。


「さてと、ここの奴等を全体を倒せたら、あそこで休憩しましょうか」

「お、おえぇぇぇぇ」

「流石に揺れてたか」


 スミアはジンにおぶさっていたので、跳ねる揺れるで三半規管を責められて参っていた。


「亀? が、一杯」

「………よし、お前らあれの一体を自力で倒してこい」

「えっ!?」

「大丈夫だ。他は俺がやって置くし、罠も解除するし、足場の方は心配するな」


 それだけ言うとジンは走り始め、一体の魔物を蹴り上げて菜花達の方へ飛ばすと残りは自分だけで相手をする。


*  *  *


 菜花達の方に飛んできた魔物は二足歩行の亀の様な存在である。二十メートルはある身長に、王冠や立派なマントを羽織っており豪華な錫杖を持っている。加えて、ジンに蹴られた影響も少ないらしく、亀とは思えない程機敏な動きで菜花達に襲い掛かる。


「うらぁぁぁぁ!」


 菜花は自身に与えられた神器を振って亀を迎撃する。身体能力を強化し、更に体も強化して丈夫にする。琴葉は魔法での援護に回る。


「硬っ!」


 菜花の神器は太刀。切断に特化した武具であると同時に強化された渾身の力で亀を切断しようとしていたがそれを阻まれる。弾かれるのではなく、受け止められた。懐に入ってしまい、焦る菜花。

 素早く離れるがその瞬間、菜花がさっきまでいた位置に亀の前脚が降ってくる。凄まじい衝撃で地面が割れる。亀は離れた菜花を狙うために持ってた錫杖を振るう。菜花は刀で防ぐが大きい鉄球が突っ込んできたような衝撃を受ける。


「うっ!」


 菜花は後ろへ飛んで衝撃を殺すが、鈍い痛みが体に響く。強化しているというのにそれを超える衝撃に驚く。


「…………あっちは巻藁みたいに切っていくのに」


 ジンの方を見ると簡単に亀の魔物を両断していく。四十体はいたはずなのにもう片手で数えられる程になっている。

 菜花は亀の攻撃をよけながらジンの動きを観察する。彼は魔法を纏わせて、刀で負わせた傷口を引き裂くようにして亀の胴体や首を切断している。亀の股下を通り過ぎると同時に弱い部分を切り裂いている。亀からの攻撃は受け流しながら流れに乗って敵をあしらっている。


「足を止めるのはマズいって事かな…………」


 それを理解すると足を止めずに素早く動く事を意識する。確かに硬い相手に足を止めて撃ち合うのは防御に自身の無い菜花にとって悪手だったのだろう。それを理解すると菜花の戦い方も変わってくる。亀の足元を走り回って翻弄する。


「魔法も併用した方が良いかな」


 風属性の魔法を使って空気膜を複数作り、その上を飛び回って回る菜花。亀は追いつけずに翻弄される。様子を見ていた琴葉も戦闘に加わる。彼女は掌に魔力を集中させ火と風の魔力を混ぜ合わせ高温の風の刃を射出し始める。気を引くと同時に首と足首の柔らかい所に裂傷を作っていく


「これで、終わりっ!」


 琴葉の攻撃を亀が気にし始めると菜花への意識が逸れる。その隙を一瞬で詰めて振り下ろしの攻撃で一撃で首を切断する。そのまま、落下する菜花を何処から来たのかジンが受け止める。


「お疲れ様」

「………酷い目に合ってる」

「終わり良ければ全て良しって事で良いだろ」

「許せない。何か報酬を要求する」

「………、後日、超級冒険者の一人を城に行かせるから好きに要求してやれ」


 ジンは取りあえず部下アスタルテに亀の甲羅を外して、下に敷いて休憩所を作らせて、倒した魔物の処理と簡易的な料理も作るよう命じて自分は少し休憩する。


「そんなに任せていると部下に後ろから刺されるよ」

「ふっ、刺さらないから大丈夫だ」

「基準がオカシイ」

「それよりも、折角、迷宮に入ってまともに手に入る報酬だ。受け取っておきなさい」


 軽い掛け合いを終わらせると下に着地する。そのまま小さい巾着を取り出して、倒した亀を中に収納して。それを菜花に渡す。


「どうすればいいの、コレ?」

「んー、王様にでも渡せば?」


 休憩後、ジンはまた準備を整えると走り始める。菜花と琴葉、アスタルテもそれに続いて走り始める。凄まじい衝撃と揺れの所為でおぶさっているスミアは道中何回か吐いてしまう。一応、ジンは彼女に気遣って大人しめに動いてはいるが、それでも衝撃は伝わる。ほぼ一般人の彼女にはつらい体験だろう。


「大丈夫ですか?」

「良いの。一緒に居させて…………、安心するから」

「はいよ。辛くなったら休ませますんで」

「………私たちは?」

「走れ、飲まれて死ぬぞ」


 立ち塞がったり、追いつかれたりする魔物だけを処理しながら迷宮の最下層にまで辿り着く。全部で十階層だったらしい。全員の目の前には四十メートル位の大きさの扉があり重厚な雰囲気が漂っている。


「ここが最下層っぽいな」

「疲れた」

「まぁ、ここで終わりなんだ。頑張ろうか」


 目の前にあるバカでかい扉を開けようとするが、ただで開くわけがない。


「どうすんの、これ?」

「簡単だ。開かないのなら」


 ジンはそう言って拳を構えると、全力で振り抜く。


「ブチ開ける」


ガァァァアアアアアン!!!!


 凄まじい轟音と共に扉をこじ開ける。そこには財宝や家の残骸なんかが納められている。


「地面に降りても大丈夫そうだぞ」


 地面を鑑定してみると、状態異常をかける効果が消えている。ここは財宝の置き場所なのだろう。室内自体の事は凄まじく広いという事だけしか分からない。


「なに、ここ」

「最下層だな。どうやら毎度の氾濫で持って帰る物はここに収納している様だな」

「スゴい」


 菜花は感嘆の声を漏らす。室内の景色は金銀財宝に廃墟が合わさり、どことなく不思議な雰囲気がある。室内は皇都ぐらいの大きさは軽くありそうに思え、加えて室内自体も綺麗に装飾されてある。ジンもここまでの構造物を見たことは無い。


「さて、どうしたもんか」

「出口は分からないんですか?」

「奥にある事は分かるんだけど、はてさて周りに鬱陶しいのが大量にいてどうした物か」

「鬱陶しいの?」


 すると周りの財宝と廃墟が動き始める。次第に形を作り、集合を始める。


「なに、これ」


 高密度に財宝と廃墟が圧縮され獣の形を作る。姿を見たことは無いが、姿形はよく知っている。ギリシャ神話で語られる冥府の門を守る三つ首の番犬ーー、ケルベロス。


「財宝が番犬とはコレ以下に」

「ふざけている場合じゃないでしょう! なにアレ!!」

「ケルベロスってやつだな。中身は違うが、あれはお前らの手に余るから、俺がやる。参戦するなら遠距離から適当に魔法を撃ってくれ、俺を巻き込んでも良い。アスタルテは護衛と破片を防いでやってくれ」

「了解です。菜花さんたちは離れたところで撃って下さい。これに当たっても死にはしません」


 ジンが一歩前に出る。スミアは先に降りててアスタルテの傍にいる。


「じゃあ、行ってくる」


 ジンは走って、財宝のケルベロスに向かっていく。刀を上段に構えて勢いよく振り下ろす。刀からは凄まじい光の斬撃が放たれるが、ケルベロスは前足でソレを潰す。


(硬い、しかもコイツ少し変だ)


 ジンは鑑定でステータスを確認する。


◇  ◇  ◇


ナニモナイ 種族:なにもない 性別:なし 年齢:なし


レベル:1

HP :1/1

魔力 :0/0

筋力 :0

敏捷性:0

防御力:0

魔法防御力:0

知力:0


称号:ナニモナイ なにもない 何もない 何も無い 何も無い


コモンスキル


・戦闘スキル

なし


・魔法スキル

なし


・生活スキル

なし


・創作スキル

なし


固有スキル

なにもない


ギフト  

なし


◇  ◇  ◇


 何もない奴であった。どういう存在なのか分からない。HPが低いのがせめてもの救いだろうか? 生き物なのかもわからないが。倒し方も今は分からない、ならばやる事は一つ。攻撃し続け、攻略法を見つける。それがジンの答え、そしてそれに従い刀を振う。

 ケルベロスの財宝の体に向かって、各種属性の斬撃を飛ばしまくるがまるで効果がない。


(当たり前か。それにしても体力一の癖に真正面から仕掛けるのか、勝算があるのか知力が無いからなのか)


 コイツの正体についてもジンは考え始める。


(体はかき集められた財宝の体を持っている。であれば、財宝が集まる前はどうだったのか。幽霊とか、そんな感じか? 付喪神、物体操作(ポルターガイスト)、色々あるけどこの魔物にここまでの大質量を動かす力があるのか?)


 考え始めたら止まらない。意識を逸らすのは弱点をさらけ出すのと同じなのでなるべく避けたいが、奴の弱点を探すためにも考えなくてはいけない、本当に目の前の敵についての情報が少なすぎる。


(アスタルテ達の魔法は効いていない。狙うは結構攻撃している俺だけか。面倒がないのは良いが、どこまで持つか)


 表でラスボスは倒したというのに、そこに裏ボスが控えている。派手なお迎えに、ジンは苦笑する。数十秒打ち合って、予測を付けて攻撃を開始する。


(体が財宝なら、一辺全部剥がす)


 やる事は簡単。財宝の身体を切断していき、インベントリに財宝をしまう。苦しむ様子はないが、徐々に体が削られていることに気付かれたのかインベントリによる収納を警戒して避け始めた。先ずは足を狙い、攻撃手段と機動力を奪いに行く。


*  *  *


 財宝ケルベロスは首を動かし、前足と嚙みつきでジンを殺そうと迫る。しかし、機敏に動き、翻弄するように縦横無尽に動くその様はケルベロスを苛立たせる。体の体積が小さくなっているような感じている。その些細な変化を危機として感じた。

 危機? ケルベロスは不思議に思う。自分に危機なんてない、自分が死ぬことは無いのだから。体はない、魂魄そのものの自分に攻撃する力なんてない。レイスやノーライフキングとは違うのだ、彼らは実体化された存在で攻撃されれば消えるだけだが、自分は魂だけの存在だ。繋がる体が無ければ自分に影響は及ぼせない。だから、危機を感じることは無い。薄く小さい危機感を強引に捻じ伏せて攻撃を続ける。


*  *  *


 ジンが狙うのは四脚の付け根と、中心部分。爆破とかの直接攻撃は効果が薄そうなので、風属性の魔法で切り離し、インベントリ収納を意識する。

 脚の付け根と胴体の中央に向けて、体を切断するようにして細めて凝縮した風の刃で切断する。足の付け根は切り飛ばせた、しかし胴体は無傷。四脚は亜空間に収納して、今度は倍近い魔力を込めて風の刃を放つ。今度はしっかり胴体を分断する。すぐさま近づき、下半身を亜空間にぶち込む。魔力で操っている訳でもないのら、魔力の流れで本体の動きが分かる訳でもない。完全に勘だ、人形を操っている本体をまずは見つけ出す。


「グッウンン!!!」


 ケルベロスが叫ぶと体の一部が吹き飛んでジンに飛んでくる。ジンは刀を振ってそれを弾く、弾いたものは収納するのを忘れない。吹き飛んだ財宝の破片のせいで、少し時間を喰ってしまった。そしてその時間のせいでケルベロスの体が組み変わった。


「シンプルに犬か。三つ首に未練はなさそうで何より」


 先程よりも体格は小さくなったが、それでも二十メートルはある巨体。変わらずに脅威、しかも素早さが格段に上がった。

 前足の脅威が格段に上がる。しかも、動きが変わり始める。ジンと剣と拳を合わせるたびにドンドン人間のような動きを取り始める。


(外と同じ、学習している)


 外で戦ったビャクヤの事を思い出す。奴も動きを学習していたが、【なにもない】は体型ごと真似を始める。学ぶ獣の対応は難しい、ビャクヤから学んだ事だ。凄まじい程の学習能力と、それを反映できる能力。本当に面倒くさい。相手の弱点とそれに対する対応が変わらないのが唯一の救いだろう。


(さてと、これはどうしようもないな)


 大分、切り取ると、完全にジンと同じような姿になる。財宝でできたジンの人形だ。しかも動きも悪くない。体の硬度も最初とは比較にならない。ジンも【なにもない】もどんどんギアを上げて剣戟を始めていく。

 しかし、武器の差がありすぎて財宝人形のジンはどんどん追い詰められていく。最後には一欠片の宝石が残り完全に亜空間へ移送する。これで終わった。


「終わった…………」


 なんだか胸騒ぎがする。ジンはそう感じると、もう一度青い刀を構える。


*  *  *


 【なにもない】は困惑していたが、次の狙いを定める。自分を倒した相手を狙おうか。いや、強すぎて乗り移れない。なら、これより弱い奴を。端にいる奴の一体。アレを乗っ取る。


 本能で弱者をかぎ分け、【なにもない】は襲いに行く。しかしそれは黒づくめの男の何気ないひと振りによって切断される。干渉されないはずの魂を一刀両断で切り捨てられる。焼けるような痛みと共に死亡し、消滅してしまった。


*  *  *


(これで終わり。胸騒ぎも無くなった)


 ジンは胸を撫で下ろし、菜花達の方へ戻る。


「お、お疲れです。どうしたの、あれ」

「お疲れ様です。何が起こったんでしょう」

「凄まじすぎです。どうしようもないです」


 菜花と琴葉、スミアは口から感想とねぎらいが漏れる。アスタルテは一歩引いたところから話す。


「出口は何処か分かりましたか?」

「少しは褒めてくれ。まぁ、この部屋の最奥だから早く行こう」

「最奥って、見えない」


 菜花は最奥を見ようとしても奥は見えない、流石に身体強化の魔法を使う状況でもないので取りあえず奥へ向かう。


「昨日、聞きたかったんだけど、迷宮って破壊できるの?」

「核を破壊出来たらここから別の場所に移動するね。核の機能を停止させれば迷宮の存在は完全に無くなるね。それに迷宮は封印の役割もあるからね、なくなったら何が出て来るか」

「その核すら壊すのに、いえ、見つけるのに苦労するほど小さく見づらいのです」

「それに、超級迷宮にできる程の何か。封印解いたら、何が起こるか」


 ジンとアスタルテは迷宮を解けるかどうかよりも迷宮がある事により封印されているものについて話す。


「でも、この迷宮が無ければ、スミアさんの家の人達は困らないんだよね」

「まぁ、私の様な人達は少なくなるでしょうけど。それでも解き放った存在の方が被害が大きければ本末転倒な気がしますからね」

「………また、二十年たったら、あんなのが出て来るんだよ?」

「もう、覚悟は出来てるんです。それにこの人のお蔭で綺麗な景色も、人の顔も満足する位良いのが見えましたから。別にいいんです」

「そんな……」


 菜花はまたも何も言えなくなってしまう。やはり、自分は何処まで行っても世間知らずの小娘なのだろう。


「まぁ、破壊するけどな」


 暗い空気をぶち壊す、空気を読まない発言が飛び込んできた。

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