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勇者の守護者〜誰かのために出来る事〜  作者: Dr.醤油煎餅
第六章 超級と勇者
109/151

93話:ビャクヤの花嫁

 ジンがミルキアから発った、次の日の夕方。ガロリド皇国の城、皇城に少しだけ騒動が起こっていた。


「し、侵入者です!」

「どこに居るんだ!?」

「入ったのは分かるんですが、どこに居るんかまではまだ分かりません!」

「探せ! 王族や文官の方々を御守りするのだ!」


 警護を取り仕切る近衛騎士の隊長は取り巻きに指示するが、結局最後まで侵入者を捕らえることは無かった。


*  *  *


 ジンはペストマスクを着けて黒いコートを羽織って怪しい姿をして皇城に侵入した。

 そして目的の人物のいる第五皇女のサテラの居城をマップで確認しつつ目的の部屋を目指す。途中、巡回の兵士は何人か見えたが、ジンの姿は認識されてない。そのまま騒ぎもなく、勇者がいる居室についた。喉を弄って女声をだす。


「勇者様、勇者様に会いたいという方がお見えです。どうされますか?」

「………通していいわよ」


 中からサテラの声が聞こえてきた。何かを話していたのだろうか。微かな足音も聞こえる。


「失礼しまっ!」


 ジンが扉を開けると、死角から上に蹴り上げられる。ジンは顎に当たる前に片手で受け止める。部屋の奥からは威力を抑えた攻撃が飛んでくるのでもう片方の手でそれを弾く。


「効きませんね」

「理由くらい聞いてくれてもよくない?」

「不審者が侵入してきたら撃退するのは道理でしょ」

「成程、納得だ」


 ジンは蹴り上げてきたアスタルテの足を掴んでそのまま吊るす。その際に彼女の背中から大量の手が出てきてジンに絡みつく。ジンは邪魔に思った手を全て引き千切って外す。


「貴方、本当に人間?」

「鍛え上げた人間ならこれくらいできますよ」

「少なくともウチの国の騎士や兵士よりも力があるのよ、その子が勝てないって我が国最強って事じゃない?」


 サテラはジンと問答しつつも、結構大暴れしたというのに外の衛兵はおろか、中にいる騎士すらも気付いている様子はない事に気付く。サテラは前に説明されたアスタルテのスキルを思い浮かべ、それを言い出す前に先手を取るようにジンが庇う。ジンがマスクを少し弄ると女声から合成音声の様になった。


「騒ぎは俺が誤魔化しているからね。こっちは関係ないよ」

「そう」


 アスタルテの内通の疑いが晴れると、サテラは打てる手がない事を察した。一発逆転の切り札も打てるけれど周りへの被害がデカい。今すぐに捕らえるべき対象でもないのなら情報収集を優先することにした。取りあえず、席を勧め、ジンは勧められたとおりに座る。

 アスタルテとサテラのメイドのミルニアはお茶やお茶請けの用意をする。


「本日はどんな用件で来たの?」

「んー、用事と仕事が一段落したんでね。担当の勇者の様子を見に来たんだよ」

「そ、それだけで、城の警備網を簡単に突破してきたんですか」

「ザル警備だしね。異世界の軍事施設の方が入るのに苦労したよ」


 警備に関しての雑談が入る。この離宮はサテラの魔法の研究の利用が主な目的として使われていて、王宮から離れていて独自の警備態勢を敷いている。異常が起これば主人であるサテラに全て伝わる仕組みになっている。来客もそれに含まれており、その知らせが無いのでジンに対して撃退の為の攻撃をしてきたらしい。

 それはそれでジンの話にサテラが興味を示した。


「異世界の軍事施設?」

「うん。目視とセンサーなんかの機械、振動計に風力計、重量感知もあったりするから入るのにそれらを誤魔化さないといけないのが辛かった」


 ジンは昔を懐かしむようにしんみりとした口調で話す。しかし、琴葉は気になった事に質問した。


「何であなたは異世界の事を知ってるの?」

「何でって、俺が異世界で死んでこの世界に生まれ変わった存在だから、所謂転生者ってやつだね」

「……ラノベみたいな?」

「まぁ、チートスキルももらったけど」

「ねぇ、私も話に混ぜてよ!」


 淑女にあるまじき声で反応するサテラ。それを面白がるジンは話を振ってやる。呆れたように給仕するアスタルテ。しかし、ナノカには目の前の疑問の方が気になった。


「さっきの分からなそうな言葉を解説すると、ラノベは物語小説で、チートスキルは強い固有スキルの事で良いかな」


 ジンはこっちの常識をどれくらい学んでいるのかを確認して会話を再開する。


「………えっと守護者は全員、転生者なの?」

「俺が知る限りは俺の同僚と部下が転生してきてたかな。そうじゃないのもいたけど」

「それって、話しても良かったの?」

「他で勇者の守護者が暴れてるんでね。俺が話さなくてもどこかでバレるさ」


 菜花の質問にジンは答える。別に隠し事をする気もないので正直に答える。


「前世っていうの? その時のあなたの名前は?」

「それは言えない。言ったらこっちでの仕事に影響が出そうなんでね」

「そっ、なら、帰ったら?」

「素っ気ないぜ」

「当たり前です」


 アスタルテが呆れ気味に給仕をしてくれる。けども、侵入者であるペストにはお茶が出なかった。


「おおう、歓迎されてないぜ」

「侵入者を歓迎する理由はないです」

「そうかー。まぁ、本題に入ると、明日のことについて聞きに来たんだよ」

「明日? 何かあったっけ?」

「………超級迷宮の事ね。まぁ、丁度、今日伝えようと思ってたけど」

「何があるの?」

「ある少女を生贄にして、この先二十年の安全を保障してもらうのさ」

「………?」


 どういうことなのか分からないというような顔をする菜花と琴葉。迷宮は魔物と宝物が出てくるものぐらいしか教わっていないのだろう。


「迷宮の中には内の魔物が一定以上になると人を襲うために外へ放出されるんだ。この国の迷宮の一つの超級迷宮は二十年に一度必ずそういった魔物の放出が起こる。その中の質が悪い魔物として出てくるのがビャクヤっていう魔物だ」

「質が悪いって、どういうこと?」

「くそ強い。この世界で最強の称号に近い超級冒険者がチームで挑んでも倒されるくらいにな」

「それを納めるために、ある一つの家が持ち、受け継いでいった希少なスキルがあって、その人がビャクヤに食べられてもらって殺してもらうんだ」

「………」

「どうしようもないのさ。その子がかわいそうだからと助けても、解き放たれた怪物も対処しないといけない。相手は自分を霧に変えたり、分身したり体を変えたり。無限に近い魔力で自己再生が可能。さて、そんな化け物を君達はどうするんだい?」


 ジンは少し厳しい事を言う。彼は菜花達に生贄には同情するなと言っているのだ、平和な世界の価値観を持つ彼女らからしてみれば辛い事だ。


「どうしようもない事だ。大人であればそんな事なんていくらでもあるからな、気にしたいならそれに伴う責任を見るべきだな」

「……うん」


 菜花は素直に頷く。ジンはそのまま用事は終わったと離宮を出て行く。

 離宮に残った者達はというと。


「…………」


 不貞腐れている菜花をどうにかしようとしている。菜花は顔を顰めて、不機嫌そうにしている。


「………ねぇ、アスタルテさん」

「はい、何でしょう」

「……前に聞いた時に私の兄って聞いたんだけど、あの人って妹とかいるの?」

「一応、前世で実妹の人が居ましたね。それ以上はあんまり。あの人、自分については話してくれなかったですから」

「………何で?」

「仕事が忙しいからですね。後、競争率が激しかったのと、婚約者がいましたし」

「ふぇ?」


 素っ頓狂な声を出す菜花。まさかいるとは思わなかったのだろう。


「仲は良いようでしたよ。時期が悪くて、結婚は出来なかったようですけど子供は出来てたみたいですし」

「え、えー」

「意外だったんですね」

「それは、うーん、そうでもないかな、モテる要素は多かったし」


 少し不満そうだが、納得気な菜花。そんな話をした後にさっきまでの暗い話を思い出したのか少し真剣な顔になる。


「ねーー、」

「ダメですよ」


 菜花が言おうとしたことを察して、それを事前に防ぐ。


「犠牲になる子は覚悟の上です。それに今回の子は自ら志願してここに来たんです。その覚悟を無駄にすることは出来ませんし。ご家族には功績に見合った支援と援助をしています、それに過去には赤子や老人を犠牲にしています」

「………そう」


 不満はあれども、納得して頷く菜花。やりきれない感情を胸に抱きながら険しい溜息を吐く。


*  *  *


 ペストは王宮に入って中を見学している。スキルを使って無意識に干渉して見回りの騎士なんかを遠ざけるようにする。そんなこんなで、中を回っていると中庭に出る。

 そこには綺麗な白髪をした少女が花を愛でていた。良い服を着ているので、貴族の少女なのであろう。綺麗な翆眼で顔立ちも良く整っている。しかし、周りに護衛の姿は見えない。


「………誰かいらっしゃいますか?」

「凄いですね、まさかバレるとは」

「目は見えませんが、それ以外は意外と鋭いんです」


 少女はフフっとたおやかに笑う。ペストは話題に困ったのか黙ってしまう。すると少女が気を使ったのか、自己紹介を始める。


「始めまして。私はヒードラ家の長女、スミア=ヒードラです。宜しくです」

「ああ、噂の」

「はい、噂の令嬢です」


 明日死ぬとは思えないほど明るい令嬢だ。

 メニューで彼女の事を見てみる。


◇  ◇  ◇


スミア=ヒードラ(前世:酒井 雛子) 種族:人間 性別:♀ 年齢:15歳


職業:魔導士


レベル:19

HP :240

MP :240

STR:240

DEF:240

RES:240

AGI:240

INT:240


称号:ヒードラ家令嬢 生贄の令嬢 ビャクヤの花嫁 幸せな令嬢 惜しまれる子 優しい子 女は度胸で生きるのだ


❖コモンスキル


・戦闘スキル

短剣術   (Lv4)

嗅覚強化  (Lv10)

聴覚強化  (Lv10)


・魔法スキル

影魔法   (Lv8)

魔力同調  (Lv7)

魔力解放  (Lv4)

魔力視認  (Lv10)


・生活スキル

料理    (Lv2)

掃除    (Lv2)

計算    (Lv8)

読み書き  (Lv10)

裁縫    (Lv4)

話術    (Lv4)

交渉術   (Lv4)

礼儀作法  (Lv5)

鑑定    (Lv7)


・創作スキル

なし



❖固有スキル

異世界人補正

魔毒

【酒井 雛子】

世界大百科事典(■■)


ギフト  

神の隠蔽

風神の祝福


・装備

武器 :なし

防具 :絹のドレス

装飾品:なし


◇  ◇  ◇


 確かにもったいない。惜しまれる理由もわかるが、聞いた話では彼女が自分から志願したらしい。であれば、覚悟があって志願したのだろう。


「随分と明るいんですね」

「明日死ぬんですよ。最期まで明るく生きた方が良いじゃないですか」

「羨ましい事です」


 自分が明日死ぬとしてもこんなに明るい状態ではいられないだろう。ジンは羨ましく思う。


「別に寂しくはないんだけどね。それに今日は王様が私の事を歓待してくれるそうだし、楽しみなの!」

「そうですか」


 彼女に一切の悲壮感はない、隠している気配もないから心底楽しそうで、ジンにとっては羨ましい限りであった。


「それじゃあ、俺も貴方の為に何かしてあげましょう。皇王よりも自由があるので大分いろんなものを差し上げられますよ」

「本当!? じゃあ、そうね、お米、お米って知ってる?」

「ええ、知ってますよ」

「それ、それを食べてみたいの!」


 興奮した様子のスミア。だいぶ、嬉しそうにしているのが分かる。元々の性格なのか死が近いから興奮しているのか。

 それに応える為にもジンはとっておきのモノを取り出す。ストレージから折り畳みの机と椅子を取り出し、スミアを座らせる。そのままストレージからとっておきの料理を取り出す。その匂いはスミアには嗅ぎ覚えのあるモノだ。


「カレー?」

「ええ、そうです。見れないのなら補助しますが?」

「場所と位置関係さえ教えてもらえれば大丈夫ですよ」


 消毒済みの机の上に、紙ナプキンの上にスプーンをのせて準備させる。そして、メインの料理であるカレーライスを盛り付けて差しだす。因みに、匂いは風属性の魔法で外へ散らしている。


「はい、どうぞ」

「ハァァァッ!!」


 目で確認は出来ないのだろうが嗅覚の鋭い彼女なら目で確認せずともその旨味を認識できる。

 先ずは一口、口の中に入れる。


「うんっ、まぁぁぁい!」


 口の中にある香辛料の刺激が米との旨味を引き立てる。極めつけは具材と料理人の腕により煮込まれ引き出された旨味の暴力。料理技術の発展していないこの世界ではここまで試行錯誤されている料理はない。ヒードラ家の納める領地にはニホン商会も手を伸ばしているが彼女は肉体的なハンデのせいで外に出れずにいたので貴族の料理しか食べた事がない。日本のジャンクな食事は転生してからというモノの美味しいくはあるが、舌に合うものは食べた事が無かった。

 そんな彼女は美味しすぎて涙を流し始める。


「がっつくのは、はしたないと思いますがね」

「むぅ、こんなにおいしいんだもん。硬い事言わないでよ」

「お水もどうぞ。右手に出したのでお気をつけて」

「ありがとう」


 お礼を言うとスミアはお代わりもして満足するまでカレーの味を堪能する。ジンは彼女の口元についていたカレーをぬぐってやる。


「んー、満足。ご馳走様」

「はい、お粗末様です」

「ありがとうね、我儘聞いてもらって」

「別にいいさ。俺も良い暇潰しになった」

「ハハハ、豪胆なヒトだね。ここ城の中よ、私が声を上げたら見回りの人がすっ飛んでくるよ?」

「んー、逃げるのも薙ぎ払うのも訳ないさ」

「ふっ、ふふ、それならビャクヤも倒してほしいな」


 明るい声にこらえきれない感情をのせる。彼女は体を抱えて震えはじめる。


「嫌だよぉ、死にたくないよぉ、怖い、イヤだ、なんで私が」


 ペストのコートを掴み、心情がどんどん漏れていくスミア。覚悟が決まっていたのに、ジンの料理が彼女の生存欲求に火を付けてしまった。


「嫌だ、イヤだ、イヤだ、嫌だ、いやだ、死にたくない、もう死ぬなんて…………」


 歯をカチカチ鳴らして恐怖を露にするスミア。ジンにしがみ付いて縋りつく。

 しかし、


「ごめんね」


 ジンには何もできない。それだけ言うとジンは荷物を片付けてスミアを振りほどいてからそのまま何処かへ行ってしまう。


「あ、ああああ、あああ、あああああああ!!!」


 少女の号泣の声が中庭に響く。その異常を感じた兵士たちが近づいていく。お付きのメイドがスミアを宥めて客室へ連れていく。暫くすると、スミアは落ち着いたが体調の不良を訴えて予定されていた王族たちとの会食は欠席することになった。

 次の朝、スミアが死ぬ日がやって来た。

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