92話:夜戦の結果とお出迎え
「さて、どうする?」
「俺の事?」
祈は信壱にどうするかを尋ねる。
「うん。今回、貴方達は負けた。後ろの人間は預かる。それであなたはどうするのかなって思った」
「それは………、付いて行くしかないんじゃない? 後ろ盾も少なくて、針の筵になるような城の中とか戻りたくないわ。他の連中もどっか行っちゃったしね」
信壱は城の中では味方が少ない事を思い出す。このまま戻っても罰されることは無いだろうが、それでも居心地の悪い場所には他ならない。
「それよりも、俺は姫様の力になりたいな」
「なんで?」
「少なくとも本国の方にはもう力を貸したくはないな。いやな感じが止まんねぇ。それに、戦争する可能性が高いならこれ以上はかかわりになりたくない」
「成程」
「それに、美人なお姉さんとムフフな関係に」
「最低」
少し見直した信壱の評価を最低に戻しておく祈。という事で信壱はラティーナについていくことに決まった。
話の終わりを見計らったのか望達が話し掛けてくる。
「行き先は決まった?」
「はい。姫様に付いて行って、役に立とうと思います。多分、あいつらもこっちに来てるんですよね? だったら、それからの事はあいつらと話しますよ」
「やっぱり、元から抜け出すつもりだったのね」
「え? もちろんですよ。最初から裏切るつもりでした!」
望は何とも言えない顔になる。何というか強かな少年である。望は呆れたような見習いたいような変な感覚になる。すると、ラティーナが会話に入って来た。
「一先ず、関所を目指しましょう。まだ夜ですけど、こんな目立つ戦闘と大軍があっては皇国を無用に刺激してしまいます」
「了解です」
一次的に全員、トンテキに乗る。そのまま大勢の軍隊を置いて出発しようとしたが。
「兵隊さん達は置いて行っていいの?」
「あっ。そうね。退却させておかないと」
ラティーナはトンテキに乗って指揮官を呼び出す。大慌てで一人の中年の兵士が出てきた。
「こっ、これは、ラティーナ様。あ、あの、どちらへ?」
「これから皇国に事情を説明した後にフォルス公爵領へ向かいます。貴方達は即時撤退し今回の結果を詳細にお父様に伝え、沙汰に従いなさい」
「っ! …………はい、了解しました」
ミシェルがいなくては責任を受けるのは彼なのだ明るい未来など予想できるわけもない。事前に敵戦力を把握していたのにそれを生かしきれず、とんでもない被害を出し、勇者と騎士団長、総大将を奪われて眼前で脅されて目標の逃走を許す。これ以上の失態と屈辱はないだろう。
中年兵士は暗く俯きながら返事をすると、兵士に呼びかけて道を開けさせる。
「感謝するわ。今回の事はミシェルが主導していたこともしっかりと報告なさい」
ミシェルの私物を中年兵士に渡すと今回の責任はミシェルにあると国王に説明するように伝える。これで、中年兵士の負担は軽くなる筈だ。
それが伝わると中年兵士は少しだけ負担が軽くなったような顔をする。
「それじゃ行きましょうか」
まだ暗いが、襲撃とかは大した問題にはならない。それなりに夜目が効くものが沢山いる。何より、トウガに勝てる生物などそう居る訳がない。本人は今は寝ているが問題が起こったら、たたき起こせばいい。
* * *
全員でトンテキの上に乗り、数十分かけて皇国の関所に辿り着いた。予想通りというか関所には大勢の兵士が構えていた。
「と、止まれ!!」
これまた、当たり前の言葉をかけられる。一目見て怪しい集団なのがまるわかりだろう。ここはラティーナが話をすることになった護衛の騎士であるアンジェリカも後ろについていく。
「こんばんわ。私はガイネア王国第一王女のラティーナ=フォン=ガイネアです」
「ひっ! お、王女様ですかっ! 申し訳ありませんが少々お待ちください。お、おい、砦将を呼んで来い!」
ラティーナが呼びかけた兵士は慌てて部下に呼びかける。数分すると、重厚な鎧を着込んだ年配の男が出てきた。風格だけで強いことが分かるほど険しい顔をしている。国境の砦将は国王からの信用が厚い者しか務められない。それを考えると、実力も信用も高い人物なのだろう。
「砦将のベルトマン=ハウンドです。ラティーナ様、お久しぶりでございます」
「ハウンド卿。お久しぶりです、本日は急な訪問になってしまい申し訳ありません。また、先程の戦闘の詳細についてお話をさせてもらえますか?」
ラティーナは王族の証であるペンダントを見せる。ベルトマンはそれに刻まれている刻印を読み取ると、それが本物であることを確認した。
「了解しました。では、砦の中へ、お付きの者達は従魔に関しては中庭へ、それ以外は姫様と共に、部下には従魔に手を出さない様に言い付けてますのでご安心を」
「その前に、本件に関する捕虜を確保しているので。檻の方に入れておいてくださいますか?」
「分かりました。おい、牢屋に連れていけ」
ベルトマンは部下に言いつけて、トンテキに括り付けられていた、ミシェル、ラインハルト、ノモルを牢屋に連れて行かせる。
そしてベルトマンの興味は。というより猜疑心はトウガの方へ移った。まぁ、妙な恰好をした男が要人のそれも若い女の傍にいるのだから気になるのは無理はないだろう。
「そ、それで、ラティーナ様。そちらの彼は?」
「彼は…………味方ではあります。下手な事はしませんののでご安心を」
「左様ですか。では、皆さんこちらへ」
* * *
取りあえず、ミシェル達との戦闘までの経緯とラティーナが此処にいる理由と目的を話す。
「成程、今回の事は我が国への進行が目的ではなく、あくまでもラティーナ様を確保するのが目的という事で良いんですね」
「はい。無駄に緊張状態を敷いてしまい申し訳ありません」
「いえ、理由が分かりましたのでスッキリしたところです。にしても、大胆な真似をしましたね。ミシェルという男は大分頭の切れる指揮官ですね」
(身分だけの無能という噂でしたが。能ある者は力を見せずといったところですか)
ベルトマンはミシェルの事前の噂から評価を上方修正する。
「………いえ、実はミシェル達に襲撃する前に冒険者らしき集団にも襲われました」
「ほう、冒険者の集団、ですか」
「はい、軽く尋問してもらったのですがジャンという男が裏で糸を引いていたようです」
「ジャンですか。ラティーナ様はその名前に聞き覚えが?」
「ええ、ミシェルと密に親交している帝国の外交官の名前がその名前だと聞いた事があります。そのものが私達を見つけ、ミシェルに情報を伝えることで今回の騒動が起こった物かと」
「成程」
ベルトマンは納得する。取りあえず、状況的には逃げ出した人間を国内で捕える為であり、侵攻のために軍を配備したわけではなさそうだった。しかし、フォルス公爵派とは皇国と友好を結ぼうとしている現状で交渉相手を刺激する真似をするのはベント公爵派であるとはいえ大胆な真似だった。下手すりゃ、戦争だ。ミシェルが上手く乗せられてこの騒動を引き起こしたというならつじつまが合う。以前、迷惑な事に変わりはないが。
「本来であれば、女皇陛下にお伝えして皇都に行ってもらうべきなのですが。申し訳ありません、ただいま我が国も手一杯な状況なのです。申し訳ありませんがすぐにでも、ここから皇国を経由してもらいフォルス公爵の領地へ向かってもらいます。各街の代官に紹介状を書いておきますので問題なく通れるようになりますぞ」
「それは、迷惑をおかけします」
「いえ、こちらも都合がございますのでお気になさらず。大都市の代官に頼めば飛行艇で送ってもらえるかもしれませんね」
「何から何まで、お手数おかけします」
「朝までには紹介状を書き終わらせましょう。客室に案内しておきますので仮眠と休憩を取っていただければ」
ベルトマンは部下に言いつけて、全員を客室に案内させる。
そんなこんなで休憩と仮眠をとると追加の後続者が到着してきた。
「お、おぇ~。ぇ~、づ、疲れたぁ~」
「凄まじい速度で走ってたんだけど」
「やっぱ地がちげぇや」
「く、苦しぃ」
アスナ達は疲れ切っているようで全員が地に手を付けている。その周りには雷の勇者の守護者がいる。しかし、こちらは越境者として正式な手続きを受けて入国した。
彼らが入国すると祈達も合流する。
「時間通りの様だな」
「隊長、締まらねぇっス」
ノモルは格好つけて話しているが、縛られてトンテキに乗せられている姿は滑稽であった。取りあえず、近況の報告を行う。
「成程な。特に障害もなくここに来れたのか」
「だから、締まらねぇって」
「気にすんな。そいで、ミシェルさんとラインハルトさんも起きてるぜ」
「おはよー」
祈は取りあえず二人に話しかけてみる。
「くっ、私に何をする気だ!」
「乗せてんの嫌だなぁ。……こいつトンテキに引っ張らせましょう」
「や、止めろぉ! 死んでしまうじゃないか!」
「そうです。そんなもったいないことはダメです。情報を引き出してから遠慮なく引きずり回しましょう」
「………どっちもずれてるよ」
祈の気まぐれに、願が反応し、優夢がツッコミを入れた。数ヶ月だいぶ仲が良くなっている。何というかよくない方向性に無駄に良く育っている気がして望は溜息を洩らした。ヘレンはどうしようもないなと多少呆れている。
望は重要そうな話題について相談する。
「それよりも、今皇国で問題になっていることの方が重要じゃない?」
「何だっけ? えーと、そうだ、超級迷宮について、だったけ?」
「問題は三つ。『超級の魔物、ビャクヤが討伐された』、『勇者が誘拐された』、『超級迷宮が壊滅した』。どれもこれも大きい問題なのに実行犯が特定できてるのが面白いよね」
「自称、勇者の守護者が実行犯。目的は不明。被害は軽微なのが救いかな?」
以上の事件の概要を聞いた後に祈達と信壱達、ラティーナは思った。
(先生がやったんだろうなぁ)
全員の考えは一つであった。




