89話:男達の追跡劇
ルキアたちは祈達よりも未熟な身体能力の強化する魔法で祈達が乗合馬車で出発した街についた。ほぼ徹夜での移動なので疲労困憊の様子だった。
「あっ! くそっ、あの女たち、乗合馬車に乗りやがった」
「どうすんだ、ルキア。流石にこれ以上は追えねぇんじゃねぇか?」
遠目から見えた馬車に乗り込む祈達の姿を目に納めるとその場に座り込んでしまう。疲労で体が限界だったようだ。
「くそっ! ぜってぇあの女たちが目標だってぇのに」
「仕方がねぇ。おれ、あの馬車の行き先聞いてくるわ」
「おう、俺らはギルドの休憩所にスペース作ってくる。後で来てくれ」
「了解」
ルキアたちは役割分担で休憩所の確保と情報収集を行う。冒険者ギルドには宿代が無い冒険者の為に雑魚寝が出来る休憩スペースがあるのだ。しかし、早い者勝ちになっている為あんまりとれるものではない。しかし、朝一ならば出て行く人間が多いので確保はしやすい。
* * *
休憩所で一先ず休憩を取って全員体を休めた。休憩の後には情報共有の時間だ。
「で、馬車の行き先は?」
「皇国の国境付近の都市への直通便らしい。国境越えか、その都市が目的だろうな」
「ここまで来てなんだが。もう、追いつけないんじゃないか?」
「いや、近くの街への便なら。出す速度はそっちの方が速いから途中で追いつけるはずだ。先回りして、先の街で馬車の補給の時に合流するか、強引に聞き出しに行くべきだな」
「そう言うと思って、この後直ぐの便を予約しておいた。休憩は馬車内でもできるだろうから、ここは引き揚げようぜ」
「そうだな」
ルキアが頷くと全員が手早く準備を済ませて乗合馬車に乗り込んでいく。近場の街に行く人間は急いでいる人間が多いので、近場の街に行く乗合馬車は長距離を移動するのに比べて高速で移動するものが多い。そのため、近い街に行く便なら朝一に出た便を追い抜ける可能性は高い。
「なぁ、ルキア」
「なんだ? あの女たちを追いかけるのは良いんだが、その後はどうするんだ?」
「どうするって、……そうか、どうしようか」
「一先ず、捕縛が優先だな。その後は拠点に戻ってあの男に引き渡せばいいと思うぜ」
「それが一番だな。まぁ、この馬車に乗れば補給の街まで先回りできるだろ。それまでは休憩だな。走りまくって俺は疲れた」
ルキアたちは目的地に着くまで馬車の中で休憩するようだった。道中は特に魔物が出る事もなく平和な旅路になった。
十分に体を休められたルキアたちは先回りした街で装備を準備する。祈達と同じ乗合馬車に乗れるように予約するのも忘れない。
「作戦はどうする?」
「女七人だったが、ガキはかなり力が強い。他も同じ位だと考えるとだいぶ厳しいかもな」
ルキアたちはとれる択が少ない事に溜息を吐く。準備はしたが、相手の実力が分からないのは不安である。すると――、
「おい、お前らこんな所で何してんだ?」
ルキアの後ろから声が掛けられる。ルキアが直ぐに後ろを振り返るとそこには中肉中背の男ーー、セイニがいた。
「………まぁ、予想は付くがな。失敗の名誉挽回の為だな」
「まぁ、そんな所です。それより何でここに?」
「いや、お前らの姿が見えたからな。声を掛けただけだ」
「そうすか」
「それより、目標は同じなんじゃないか? 最後に出て行った一団、お前たちはアレを追いかけているんだろ」
「………全部、バレてんのかい。なら、俺らがアンタたちに手を貸すから別個で報酬をくれないか?」
「ほう、俺に提案か?」
ルキアはセイニに現状を話す。
「成程な。不意を突こうにも、顔は割れてるし感知能力はあるしで手詰まりだったって事か。………予想以上に強そうだな」
「ん? 何か知ってたんですか?」
「ああ、言っただろ。騎士数人を一人で沈めたらしいからな」
「まぁ、ここからが提案なんすけど。俺達が目標に近づくんでそれで相手に圧を与えます。国境付近で貴方がたが仕掛けるってのはどうですか?」
「まぁ、硬い手段だな」
堅実である祈達の襲撃作戦にセイニは頷く。襲撃用の人員を集める時間を含めても余裕のある日程にはなりそうだった。元々、皇国に行く予定だと予想していたのでここで裏付けが取れたのは、大きいし彼女らの実力の一端が知れたのは大きい。
「分かった。乗ってやろう、俺は先回りするがお前たちはここから圧をかけて置け」
「了解した」
「これは報酬の先払いだ」
中には少ないながらも小金貨が数枚入っていた。ルキアはそれを懐に納めて、仲間と共に乗合馬車の乗り場へと向かった。
セイニは街の外に繋いでいたグリフォンに乗り、仲間を集めに向かった。セイニの後を霊体の存在が追う。
* * *
セイニは祈達を確認していた街から離れた後にグリフォンで仲間が集まっている街まで向かう。時刻は大体昼頃である。
街の中にある酒場にセイニが所属する傭兵団【剛腕の隻眼巨人兵団】の仲間たちがいた。
「よー! セイニ、相変わらず辛気臭い顔してんなぁ」
「昼間から飲んでる奴に言われたくはない」
「はっ! それもそうか」
「それで調査の首尾はどうだったんだ?」
待っていたのは二人の男。待っていた片方の男―――、ラノイはセイニと同じ様な体格をしていて。もう片方はセイニやラノイよりも一際デカい体格をした男――、アルゴという奴である。二人とも【剛腕の隻眼巨人兵団】の団員だ。
店員に追加の料理を頼み、それが出されるとセイニは自分が掴んだ情報を二人に報告する。
「お前はそれが王女だと思っているのか?」
「ああ、確実とは言えないが高い確率でそうだろうな。俺はジャン様に報告に行くからお前たちの結果も聞きたい」
「ああーー、」
取りあえず、全体の報告を聞き終わる。
「めぼしいのは俺のだけか」
「けどよ、新聞にはこことは違う所で姫らしき姿が目撃されてんだろ」
「隠れている人間がそんな目立つような真似をする訳ねぇだろ。十中八九、囮だろうな」
「面倒だな……」
「そっちの調査は騎士団がやるだろうし。俺らは放置で良いだろ。俺の注目している人間を負うのが先決だろうな」
「俺もそれでいいと思うぜ」
セイニたちは方針を決めて行動を開始する。セイニはジャンの方へ、アルゴとラノイは皇国付近の都市へと向かう。
霊体化しているトーカは危険度の高そうなアルゴたちの方の追跡を開始する。最後に情報の共有もするだろうしセイニが受けるジャンという存在からの指示を知るのは後でも良いと優夢は判断した。トーカはその指示を受け、アルゴを追った。
アルゴたちは数時間かけて目的の都市付近にグリフォンを使って辿り着いた。しかし、到着した時には夜になっていたので手ごろな場所で体を休ませることにしたようだ。
(取りあえず、謎の追跡者の黒幕の名前は分かった。後は少しでもいいから所属の情報が欲しい)
そんなことを思ったからなのか優夢に都合の良い話が出てきた。
「なぁ」
「………体を休めろ。明日はジャン様からの指示を受けるんだぞ」
「話くらい付き合えよ。………セイニがいうには女の集団なんだよな?」
「ああ」
どうやら祈達をどうするかを話している様だった。
「俺達に引き入れるのか?」
「場合による。勇者は一人国の方で入手している。二人もいるのかはジャン様次第だ。それに勇者かどうかもまだ分からねぇ」
(多分、大きい組織に所属している人達かな?)
会話の内容から何かしらの集団、それも大きめの奴等であることが優夢には予想できた。
「だが、最低でも王女の護衛を任せられる人間なんだろ」
「まぁ、そうだな」
「なら、【巨人の声】とかの内の系列に入れて置けば何かあった時に便利に使えるんじゃないか?」
「ジャン様もそう考えるだろうし実際そうなるだろうな。火の方は団長が見ているけど、あれは国の管轄だしな。……というか、もう寝る。明日早いし」
「俺は暇なんだがなぁ」
そんな感じで話を打ち切り、2人とも寝てしまった。優夢も情報収集を打ち切り眠りにつく。
* * *
朝になるとアルゴとラノイは都市の中に入る。
「酒場に居ればセイニならわかるか」
「飲みてぇ、だけだろ」
悪態をつきつつ、中堅位の酒場に入る。暫く待っていると疲れた顔したセイニが入って来た。彼はジャンの指示を此処まで休まずに飛んできたのだから多少は疲れていても無理はない。
「よう」
「お前らを殴りたくなるわ」
「まぁ、座れよ」
アルゴが椅子を引くと、セイニはドカッとかけて盛られた料理を食べ始める。
「おい、それは俺の」
「残しておくのが悪い」
仲の良い喧嘩をしながら、暫くは雑談と食事をする。セイニは英気を養えたのか、店に入って来た時よりもシャキっとしている。
「取りあえず、ジャン様からの指示を出すぞ」
「おう」
「その対象を追えとの事だ。騎士団と合わせて国境沿いで王女と両方狙って捕獲しに行くらしい。概要としては、先ず俺らがこの街を出て国境に向かう対象にちょっかい掛けて数を減らす。殿に二人は残させるのが理想だな。その後に逃げた奴等は騎士団に捕らえさせるらしい」
「ジャン様は動かないのか?」
「あの人は目立つからな。今回は待機だってよ」
取りあえずミシェル達も巻き込んで祈達を王女を護衛している集団だと断定しての作戦内容を伝える。正解であるが、セイニ達からすると決め手に欠けていてモヤモヤしていた。
(取りあえず、国境付近の都市を抜けたら仕掛けてくるのですね。影魔法でサッサと国境超える事も考えた方が良いか)
理不尽な男達に憤りを感じながらもあくまで冷静に彼らの動向を優夢とトーカは探っていく。
少ししたら、祈達のこと知っているセイニが足取りを追う事になった。街を離れてグリフォンに乗って祈達の検問を行った街の近くまで戻ってきた。トーカも霊体として後を追う。
祈達が乗合馬車の乗った都市まで遡り、乗合馬車のルートを通って追跡するとルキアが見えたので、街についた段階で彼を呼び出す。細々とした連絡事項を伝えて、決行は国境付近だと伝える。仲間たちの待つ都市へグリフォンで戻っていく。
(不穏な作戦も話をしている。国境は日の出てるうちに超えようと思ったけど、夜に出ていく事も考えなくちゃいけない)
トーカを通して作戦の全貌を知る優夢。その後はセイニの後を追って襲撃者の人数を把握する。
優夢は望達に国軍も協力して襲撃することを伝えて、そこら辺の対策を立てる。
依頼の終点は近い。




