88話:勇者の旅道中(その4)
朝になり、手早く出発準備を整えて祈達は朝一で出発する。
東の出口から出口から出て行こうとすると、後ろから声を掛けられる。声を掛けてきたのは人相の悪い大男。しかも、部下の様に複数の男を従えている。
「おーい、すまねぇ、聞きたいことがあるんだがいいか?」
「………なんでしょう?」
全員が警戒を強める。それを察したのか大男は両手を挙げて何もしないことをアピール。
「ああ、待て待て、俺は別に何もする気はねぇ。少し、聞きたいことがあるんだ」
「何でしょう?」
「青い髪の女を道中で見なかったか? 知ってたら教えて欲しいんだが……」
「………新聞に青髪の王女が逃げ出したかもしれないって、小さく書いてあったけどそれ関係?」
「……いや、別件だ。ここから西のミルキアって都市での出来事だからな」
「じゃあ、知らない。あと、何かの足しになるかもしれないからコレ」
「……ありがたく貰っておくよ。時間取らせて悪かったな」
望が会話して大男に新聞を渡す。それには青い髪の少女がフォルス公爵領への道中の宿場町で見つかり、騎士数人と激しい逃走劇を繰り広げ騎士に大きい被害を出して逃走されたらしい事が書かれていた。
大男は普段新聞を読まないのでこの情報は新品のモノであった。
望達と、大男たちはそのまま別れて別々の目的地の方へ向かう。望達はサッサと街道を進んで街から離れていく。その時、望が優夢を背負っていた。
「何で背中に乗っているのです?」
「精霊と感覚を同調させて、さっきの男の人達を監視させてもらっているんです」
アンジェリカの疑問に祈が答えた。今、優夢は自分の契約精霊――、トーカと視覚と聴覚を同調させることで盗聴を行っている。そのトーカは霊体となって普通の人間には感知できない状態になっている。
「やっぱり、さっきの話からですか?」
「はい、来るはずのない調査の情報が此処に来ている時点で怪しいんです。なので、少し観察させてもらおうかなと」
「すいません、負担をかけてしまって」
「大丈夫です、って言ってますね」
優夢は集中しているので小声でしか話せないので望に仲介してもらう。因みに優夢の盗聴技術はジンから学んだものである。ジンがどうして知っていたのかは教えてもらえなかった。
* * *
リーダー格の大男は望達と別れると、近くで様子を窺っていたセイニに近づく。
「どうでした?」
「……怪しいな。まぁ、後の事は俺がやろう。ほら、報酬だ」
「それじゃ、確認させてもらうぜ」
「サッサとしろ」
男はセイニと共に路地裏へ行き、布を敷いて袋の銀貨を数え始める。数分すると、全部数え終わり所定の枚数が入っていたことを確認する。
「ほい、銀貨五百枚。しっかり確認したぜ」
「じゃあ、追加の依頼だ。めぼしい人間を見つけたらまた俺が此処に来た時に報告してくれ。価値に応じて追加の報酬も出す」
「了解した。数週間は見張っておくぜ」
「いや、一週間後でいい。その時にまた様子を見に来る」
「貴族の使いも大変だな」
冒険者達は本業もあるので期間を指定しておくが、セイニは更に期間を短縮させてきた。冒険者が了承すると、セイニはそのまま街を出て近くに止めてあった騎獣に乗り別の街へ向かう。
それをトーカが霊体になって後を追う。トーカを通じて事態を把握した優夢はトーカに追跡を指示する。
(貴族の使い? でも、冒険者みたいだし。後を追うのが最善かな。お願い、トーカ)
(クエッ)
(誰かと会うようなら知らせて)
セイニはトーカに気付くことなく空を飛んで別の街を目指す。
* * *
同調を切った優夢は望の背中から降りる。
「大丈夫?」
「やっぱり、長距離兼長時間は厳しいね。結構、魔力を消費します」
「それで、どうだった?」
望は魔力回復薬を渡し、盗聴の結果を確認する。
「あの冒険者達には冒険者風の男の依頼者がいて、空飛ぶ獣――、グリフォンっていうの? それに乗って別の街に向かったみたい」
「何を探ってたんだろう?」
「私達に用があったことは確実だとは思うけど。陽動にかからないでこっちを狙ってくるなんて」
優夢は望に監視結果を告げる。ラティーナとアンジェリカは罠にかからずこっちに来た冒険者の事に、首を傾げる。
すると、望が後ろから人が近づいてきた事に気付いた。望は全員を端に寄せて優夢の体調を心配しているように見せた。望達は近づいてくる人たちは目を止めず少し休憩することにした。彼らが何処かへ行ったら身体強化で森を抜けていくことを決める。
すると、予想に反して相手は近づいてきた。
「なぁ、君達、どうしたんだ?」
「……気にしないで下さい。ちょっと、休んでるだけですので」
「いや、しかし、女、子供を此処に放置する訳にもいかないし。そうだ、俺らが街まで運びますよ」
「結構です」
「………いや、遠慮なさらず」
望に一睨みされた若い冒険者ーー、ルキアはたじろぐが粘って優夢に手を伸ばそうとする。それを祈が手首を掴んで阻止した。
「何しようとしてんの?」
「え? いや、運んであげようかと」
「いらない」
「は?」
「いらないから、サッサと自分達の仕事をしたら? これ以上ゴネルなら兵士につきだそうか?」
「っ!」
祈の剣呑な提案と視線にルキアはゾッとしてたじろぐ。瞬間的に振り払おうとするが大人と子供位の力の差でビクともしない。
「もういいよ。だいぶ気分がよくなったから、出発しましょうか」
「そう。…………追いかけるなら、埋めるから」
祈はルキアたちにそう告げると目を向ける事もなく。立ち去っていく祈達をルキアたち若手冒険者達は震えて見ていた。
* * *
ルキアという男は自尊心が強い人間であった。そのため、上手い話に乗るためとはいえ、先輩冒険者に頭を下げるなんて彼のプライドが許さない。しかも、自分達は失敗。彼のプライドは大きく傷ついた。報酬に関してはお情けで失敗組も同額貰えたが、ルキアの怒りは失敗の原因になった祈達の方へ向いていた。
その失敗を挽回する為に、セイニが探している人間が祈達の事だと勝手に決めつけて、自分の仲間と共に後ろを追いかけていく。そして、彼らが出て街から十分に離れたところで休憩していたので声を掛けたが、すげなく断られ。自分より小さい少女に力で押し負けて、視線にビビるという無様を晒した。
「くっ、くそっ!」
ルキアは追い掛けようと思ったが彼女たちは街中で自分達の気配にすぐ気が付いたことを思い出す。街中は人が多くいるので気配が紛れやすい、その中で紛れていた自分達の気配に直ぐ気付いたのだ。ルキアは失敗は許さないと自分に言いつけ、警戒の度合いを引き上げて森の中に一旦入って祈達から距離を取り、気取られない様に追いかける。
* * *
「さっきの男の人が付いて来ていますね」
「埋める?」
「しなくていいよ。身体能力でおいていこう」
祈の物騒な提案を望が一蹴して、ラティーナ達を抱えて魔法で身体能力を強化して街道を全力で駆け抜けていく。そのおかげで直ぐにルキアたちは見えなくなった。
いつものように数十分位進んだ。周りは平原になっており人影も危険な影もないことが確認できた。
「ここでいったん休憩しましょう」
望がそう言うとシートをひいて少し寝転がる。休憩の必要もあるが今は情報の整理も必要だ。
「懸念としては追っ手らしき男がいた事ですか?」
「さっきの若い男達の事も気になりますね」
「若い男達に関しては放って置いても良いでしょう。一先ず、追っ手らしき男について話しましょう。優夢、その男の人は騎士とかには見えなかったのよね?」
「うん。冒険者みたいだったかな。街の人達との話を聞いてる限りは貴族の使いらしいけど関係性も分かんなかった。一先ず、依頼者がどういう経路で動くのかを見るつもりです」
「お願いするけど、無理はしないでね」
「まぁ、動きと情報を見て決めますよ」
「ええと、ミシェルさんは冒険者に頼るような人間なのでしょうか。というより、捜索隊はミシェルさんを率いているのでしょうか?」
「………私を連れ戻すことは数少ない名誉挽回のチャンスだろうし、ミシェルが率いているでしょうね。私が知っているミシェルなら冒険者に頼るような真似はしなかったと思うわ」
「となると、その冒険者は誰に指示されて動いているのでしょう?」
「「「「うーん」」」」
「………情報は少ないし、考えても答えは出ないでしょうね」
「一先ず、優夢の監視の情報頼りになるかもですね」
「先を急ぎましょう。追っ手がいるなら国軍の方だけでも振り切らないと」
「そうだねー」
ヘレンがそう提案すると祈は賛成という様にヘレンに寄りかかって休憩を始める。柔らかい感触が祈の顔を包む。家族と友人以上の大きさであり、柔らかい感触は祈を大いに満足させた。道中魔物と相対する事もあったが、ヘレンの魔法の腕は一級品だ。的確に援護射撃をしてくれて二人目の遠距離火力になってくれそうだった。この仕事が終わったレベル上げが必要そうであるが、この時点で祈は十分にヘレンの事を気に入ってた。
「人のせいにはしたくないけど、あの男の人達のせいで仕事が遅れて迷惑だったね」
「まぁ、計画なんて上手くいくことの方が少ない。別の案をこれからは立てていくべきだろうな」
「うーん、姉さんは猪突猛進で、猫みたいな人だし、計画なんてあってないようなもなんだよね」
願は祈に普段から振り回されているので苦労している様だった。望は娘の疲れた姿を苦笑いしてみている。普段から祈は奔放な方なのだろう、今は大人しい方だが身内以外がいるから人見知りをしているのかもしれない。
「一先ず、今日が終われば大体半分。余裕を持って二週間で取ってたけど、後五日で終わりそうですね。気を引き締めていきましょう」
望がそう言うと、そろそろ休憩を終わらせて次の街に向かう。
数時間かけて途中休憩を挟みながら、長い道のりを歩いていき、宿について全員で卓を囲んで座る。
「明日からは乗合馬車に乗ってスピード重視で国境付近まで向かいませんか?」
「乗合馬車か。あんまりイイ感じはしないが、理由を聞かせてもらってもいいか?」
「私達には今謎の追跡者が付いて来ています。目的も不明ですし、早めにこの国から出るのが良いと思います。謎の追跡者の方はともかく、国の追跡隊の手からは確実に逃れておきましょう。野宿とか他人といることとか、結構、負担もかけますがその分いい結果も見込めますよ」
「………そうね。人に紛れるという事を含めても良い案だと思うわ。迷惑をかけますがよろしくお願いします」
「はい、了解です」
取りあえず、明日からは乗合馬車で直通で国境付近の街まで乗せてもらうことになった。馬車を使っての野宿も挟んでなら三日もあれば皇国まで行ける。
「姫様。我々は野宿の準備とかありますがそれは良いのですか?」
「大丈夫です。既に予備も含めて人数分用意してあります」
「準備が良いのは良いが。姫様に負担になるのでは」
「アンジェ。ニホン商会での授業に比べたら二、三日の野宿なんてあってないようなモノよ」
何かを悟った顔でラティーナがそういうモノだから、アンジェリカも何も言えなくなる。
「一体、そこで何をしていたんだ………」
ラティーナのあまりにも逞しく変わっているので、アンジェリカは困惑していた。
* * *
街についた時には既に翌日の為に乗合馬車を予約していたので朝一の便に乗った。
「よろしくお願いします」
「はい、よろしくです。貴方がたは真ん中の馬車に乗っていただきます。盗賊や魔物に遭遇した場合は討伐に協力してもらいますね」
「はい」
祈達は全員真ん中の幌馬車に乗る。捜索圏内という事で使えなかったが長距離用の馬車は馬の負担を軽減させる身体強化の魔道具を使用して馬の体を補強することにより長距離を高速で移動することが可能になる。その分操縦は難しくなるので、熟練の御者が勤める。
ガタガタ、ゴトゴトと数時間進むとこれだけで数十キロは進んだ。昨日の数十分ぶんは進んだ。一日一回しかできない長距離移動を二回分できるのだから昨日よりも大きく皇国までの歩を進められ、旅がこれで楽になった。
「三日後には国境付近の街につきますので、そこからは徒歩で国境を越える予定です」
「人との接触を控えられるこの馬車隊なら私たちの情報もそう流れたりはしないでしょう」
これなら謎の追跡者もそうそう情報を得られる機会も減るだろう。移動の期間も減って、情報の流出も抑えられる。これで二つの追跡者の眼を眩ませられる。一先ずは安心、の筈だ。先行きは不安だけど。




