10 逆ハーレム。
「ジュエリー・リティディオン、ちょっと話があるわ!」
音が消失した体育館に、私の声だけ嫌なほど響いた。
「主。二人の空間を作ってやるか?」
「そうしてちょうだい、セリノ」
セリノが気を利かせてくれたので、そうしてもらう。
これで部外者が聞くことなく、話せる。
私はエレクトロンをじとっと睨んでから、フンッとそっぽを向いた。
「あ、あの今のは何でしょう……?」
時の魔法の解除に、戸惑いを隠せていないジュエリー。
どうやら時を巻き戻す魔法を行使したのは、咄嗟の判断だったらしい。
この様子では、婚約破棄なんて思いもしなかったのだろう。
「あなたが時間を巻き戻す魔法と使おうとしたからです」
「えっ。私が、ですか?」
ジュエリーは目を瞬く。
「詳しくはあのバカ……いえ、あの男と話してください。くれぐれもまた時を巻き戻す魔法は使わないように。原因は彼だけれども、行使したあなたは罰を受けることになるでしょう。私から先生に報告させていただきます」
「……」
戸惑いで一杯のジュエリーは、とにかくエレクトロンと話すことを意を決した。胸の前の手を握る。
そんなジュエリーの肩に手を置いて、何かを声をかけておこうとは思ったけれど、思い付かなかった。ただ背中を押すだけになってしまう。
「セリノ」
「わかっている」
セリノは、向き合うエレクトロンとジュエリーの二人に話せる空間を作る。私にも、会話は聞こえない。
さて、と私は傍観者達に咎める視線を向けた。聞こえなくて、また数が減っている。残っているのは、サピロスとエリオトとマルガリタリ。それと男子生徒が一人だ。
あとから、ローガン先生が駆け込むように入ってきた。
「ローガン先生!」
パッと目を輝かせる。呼びに行く手間が省けた。
ローガン先生は口をパクパクさせて、私の肩を掴んだ。
「セリノ」
「あいわかった」
セリノには、ローガン先生と会話出来るようにしてくれた。
「ローガン先生」
「ペリドット。オレも解いた衝撃で、思い出した。何度もごめんな、頑張ったな」
「……」
ローガン先生は、ポンポンと私の頭の上に弾ませる。
べ、別に、嬉しくないけれども。褒められてもいいけど。
女子達に人気な甘い笑みから目を逸らして、唇を噛み締めて俯いていると、べりっとローガン先生から剥がされた。サピロス、エリオト、マルガリタリの仕業だ。
三人とも喋れないから、ただむっすーとした表情をしていた。
「犯人はジュエリー・リティディオンでした。原因は……婚約者エレクトロン・ターリからの婚約破棄だったもようです」
私は爪先立ちをして、ローガン先生に耳打ちする。
するとまたもや、三人に引き剥がされた。
「なんだこいつら」とローガン先生は苦笑を漏らす。
知りません。
「あとは任せろ。ランチをとりに行ってこい。皆もな」
「はい、先生。セリノ、もういいわ」
ぞろぞろと体育館をあとにするエリオト達に続いた。セリノも戻る。
「今の幻獣は素晴らしいな。一度手合わせ願いたいものだ」
開口一番に物騒なことを言われた。エリオトだ。
学年二位と手合わせなんて、ご冗談を。
「お断りよ」
「そうか。まぁ気が変わったら言うんだな」
「……」
変わらないわよ、と一瞥しておく。
「ペリドット・ガルシア。さっきはスッキリしたよ」
そう話しかけてきたのは、知らない男子生徒だった。
神々しいほど輝く白銀の髪と白銀の瞳を持つ男子生徒は笑って、手を差し出してくる。
「アイツ、エレクトロンって前から婚約者がいるのに他の女子生徒と親しくしてたからそろそろやらかすとは思ってたけれど……止めるなんて、優しいんだね。オレはハルジオン・ダイアモンド」
ああ、この人がハルジオンか。
だから婚約破棄なんて行動に出たのか、あの男。
だったら、両親に好きな相手が出来たから婚約を白紙にしてもらって、自然と交際を学園に広めればよかったじゃない。アイツのせいで何回金曜日を過ごしたことやら。全く。一発お見舞いしてやればよかったかしら。
私は握手をしたけれど、サピロスが「えーい」と手刀を落として離した。
隣だから、すぐに食堂につく。
中に入っても、何故かサピロス達は私と一緒にテーブルについた。ちょうど空いていたのだから、しょうがないのかもしれないけれども。
「なんでまだ一緒にいるんだい? 僕はペリドットさんとランチの約束をしていたのだけれど?」
向かいに座るマルガリタリが、そうむくれた。
左にはサピロス、右にはエリオト。
マルガリタリの左隣には、ハルジオン。
「いや先輩こそ、図書室にいなくていいんですかー?」
サピロスが人参を刺したフォークを向けながら問う。
「代わってもらったから平気だよ」
「ああーそうですかー」
バチバチとサピロスとマルガリタリの間で火花が散っている気がする。
なんなんだろう。この状況は。
成り行きで空いているテーブルについただけだけれど。
これでは私、逆ハーレム状態である。
しかもイケメン揃いときた。女子生徒の視線が痛いように感じる。
さっさと食べて、この場から退散しよう。
午後の授業を終えれば、今度こそ愛しい土曜日が来るのだ。
お皿の中を空にした途端だった。
「片付けてやる」
そう言ってエリオトが、自分の分も一緒に運んで行ってしまう。
続いて食べ終えたハルジオンとマルガリタリが席を立った。
エリオトが戻るまで待たなくてはいけないじゃないか。
お礼を伝えたら脱兎のごとく食堂をあとにしよう。
「ペリドットちゃん」
呼ばれたから、隣に顔を向ける。
もう食べ終えているのに、頬杖をついて私を見つめているサピロス。
「ループしたからってなかったことにしてる?」
「?」
何の話かわからずにいると、サピロスの人差し指が私の唇の上で跳ねた。
「こ、く、は、く」
告白。その言葉を飲み込むまで時間がかかった。
でも理解してしまう。
「もう一度キスした方がいい?」
「!?」
ローガン先生が思い出したように、サピロスも思い出したのだ。
しかも、あのキスをして告白したことを覚えている。
じゅわりと頬が熱くなって、顔は引きつった。
サピロスはニコニコしている。私の反応を楽しんでいるよう。
「明日デートしよう、ペリドットちゃん。いいよね?」
嫌だ、とは言えなかった。
今まで冷たくしていた罪悪感だろうか。
「逃げるのはなし」
間違いなく思い出している。
全力で逃げたい私は、なんとか堪えた。
また追いかけられて、行く手を塞がれてキスされる展開はごめんだ。
「じゃあ明日、ショッピングモールの前で待ち合わせね」
「え、ええ……」
「楽しみに待ってる」
弾んだ声を私の耳に囁いて、自分の食器を片付けに行ってしまった。
その耳が熱い。
「っ……!!」
そして突っ伏した。
激しく時間を巻き戻す魔法が使いたい!
告白を阻止したい!
あああ! 土曜日なんてこないで!!!
一章完結。
遅くなりましたが、
ここで一度完結となります。
感想評価ブックマークをありがとうございます!
ネタバレですが、
あんなに恋しかった土曜日がきてほしくなくなるペリドットちゃんと、サピロスのデートでまたループが起きるという事件を考えている最中です。
夢で見たんですよ、ループしちゃう夢。
それを元に第2ラウンドいきたいと思います!
でも二章書くにはまだまだ時間がかかりそうです。
気楽に待っていただけたら幸いです!
ここまで読んでくださりありがとうございました!!!
20181015




